〜おまけ〜 ハロウィンなので
改稿では、大変ご迷惑をおかけしました。
お詫びをかねて、甘めの番外編を書きました。
楽しんでいただけたら嬉しいです!
朝から屋敷の中は、甘い香りが充満していた。
「姿が見えないと思ったら……。シャルロット、いったい朝から何をやっているんだ?」
色気あふれるガウン姿のレオンは、いつの間にかベッドを抜け出していたシャルロットに、拗ねるように言った。
「あ、起こしてしまいましたか?」
メイドのようなエプロンをしたシャルロットは振り返る。オーブンから取り出したばかりの、湯気の立つパイを持ち、ふふっと笑みを浮かべた。
皇子の時は、一切キッチンへ足を運ぶことは許されなかったが、今は自由に使うことができる。
「何だそれは?」とエプロン姿のシャルロットに、レオンは問いかけた。
「パンプキンパイですよ。先日、孤児院で紙芝居でやったハロウィンの物語、レオンも覚えているでしょう?」
「ああ……。向こうの世界で人気という、収穫祭のあれか」
「ふふっ、そうです。こちらの世界には無いお祭りですが、せっかく今日は10月31日なので。孤児院の子供と私たちだけでも楽しもうかと」
シャルロットの視線の先には、せっせと蒸したカボチャをこすメアリとマーサの姿が。
大きなテーブルの上には、可愛い顔にくり抜かれたカボチャの皮のランタンが並んでいた。
「大切な食材ですもの、中身は全部お菓子にしたんです」
「それを孤児院に届けるのか?」
「……もし、レオンさえよかったら、屋敷に子供達を招待できたらと」
司祭ニコラが引率すれば隠蔽魔法がかかっていても、上手く連れて来ることは可能だろう。
突然、目の前に城のような屋敷が現れたら、楽しい演出になるかもしれない。シャルロットは、ワクワクと瞳を輝かせて力説する。
「もしダメでしたら、私達が教会へ行けばいいのですが……」と懇願するように、レオンを見上げた。
「シャルロットの好きにすれば良い」
フッ……とレオンは笑みを浮かべた。
「では、他の準備もしないと!」
ぱあぁっと、シャルロットは表情を明るくしポンと手を叩いた。
「他の?」
「はいっ。トルソーに、ランタンやお面を教会に届けてもらっている間に、私たちも仮装をしなくては!」
「仮装?」
「お化けの衣装を用意してあるのです!」
ふんす!と鼻息を荒くしたシャルロットは胸を張る。
「……シャルロット。確か、子供たちに聞かせた物語では、お化けに扮した子供が家をまわるんじゃなかったか? トリック・オア・トリートと……」
「……あ!」
(そうだった……。私がやろうとしているのは、ハロウィンというより、完全にお化け屋敷じゃないっ!)
シャルロットは、がっくりと落ち込む。
「今宵、俺の前だけで仮装すれば良い」
「えっ?」
「いや……そうだな。やはり、俺が仮装しよう」
「レオンも、仮装したいのですか?」
意外そうに目を大きく見開くシャルロットに、レオンはそっと囁く。
「俺は菓子より、お前を食べたい」と。
ボンッと、真っ赤になったシャルロットの頬にレオンはチュッとキスをした。
キッチンは焼き菓子の香りに加え、より甘さが漂う。侍女たちの温かい視線が「ごちそうさま」と言っていた。
(……今夜の仮装には)
完璧を求めた本気の特殊メイクは止めておこうと、シャルロットは密かに思った。




