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20/22

20.その後と誓い。ハッピーエンドへ!

 教会での出来事から、数週間が過ぎた。


 オンディーヌ学園の中には、ミアとカミラはもう居ない。


 ミアはグレイ男爵の実子ではなく、縁もゆかりも無い養女であると判明した。利用されていただけで、今回の件は何も知らなかった。


 同じく、何も知らずに利用されたグレイ男爵の妻は、夫から遅効性の毒を盛られ続けていた。


 僅かな領地しか持たない伯爵家の一人娘。病弱で子を授かれない妻がいなくなれば、伯爵位はベルゼの物になる予定だった。その為の結婚であり、より精神的に追い詰めるために、ミアを自分の私生児と偽ったのだ。


 ……最低すぎる。


 裁判ではそこを考慮され、二人はベルゼ・グレイ元男爵の連座を免れた。

 だが、グレイ男爵家は取り潰しとなり、土地は国に返還され、妻は実家に、ミアは平民へと戻された。


 ミランダのようにベルゼの被害者となった夫人には同情しかなく、こっそり忍び込んで解毒し病気も治しておいた。

 伯爵が領地のほとんどを売ったのは、娘の治療費のため。お金は無くとも、元気になった娘と二人なら仲良く暮らしていけるだろう。


 カミラの方は、慎重に取り調べが続けられていた。


 第三皇子の命を狙い、帝国だけでなく世界の存亡を危うくした罪は大きい。ニコラたち特級魔術師の手により、意識や記憶を覗かれて嘘の無い供述を引き出された。


 教会の孤児院で、元司祭に虐待されていたのは事実であり、反逆者に意識を乗っ取られた間の記憶は、全く残っていなかったそうだ。

 この学園に、入学したことすら覚えていない為、国側も罪状を決めかねているらしい。


「教会の孤児達の話では、カミラは元司祭に虐待されながらも、子供達を守り癒しを施していたそうです」


 まとめた資料をめくりながら、ニコラは言った。


「……カミラは、被害者なのね」


 反逆者は、自分の復活のために優しいカミラを操ったのだ。


「魔を司る者に憑かれたら、ただの人間が抵抗など出来るわけがない。寧ろ、カミラの記憶が何処まで残っていて、()()()()()()()()()()()()()のかを調べるのだ。其処から瘴気が漏れ出て、カミラは取り憑かれたのだろうからな」


 とどのつまり、そこが魔界の門と繋がる歪みができやすい場所なのだと、レオンは言った。

 

「――コホンッ!」


 わざとらしく咳をしたニコラが、引きつった笑みを見せる。


「ここは、私の研究室ですよね? 報告を聞くだけなら、シャルル君とルーカス君で良かったのではないですか。なんで、魔王と女神になって……楽しいお茶会をしているのでしょうかね?」


「そうですよねぇ……ははは」


 ニコラのもっともな意見に、笑うしかない。


 今日は通常授業の他に、林の方へ魔術の教材となる薬草を取りに行ったのだ。

 その時、たまたま怪我をしてしまったクラスメイトを治してしまい、感動されて手を握られたのだ。


 騎士団志望のフィンレーだったかな。結構深い傷だったのよ。放ってはおけないし……。

 もちろん口止めはしっかりしたわ。


 公にはしていないが、皇族には稀に治癒魔法を使える者がいるのだと、適当に誤魔化して。当然、皇子にそう言われたらフィンレーは首を縦に振るしかなかったが、なんだか妙に嬉しそうだった。

 脳筋なのか、親しくなるとスキンシップがかなり多めになる、厄介……フレンドリーなタイプみたいだ。


 まあ、学園内は平等を謳ってるし、男同士だから……そう思っていた私が甘かった!

 ルーカスの中で様子を見ていたレオンが、イラッとしてしまったのだ。


 唐突にルーカスと入れ替わり、フィンレーを吹き飛ばしてしまいそうな勢いだったので、慌ててニコラの研究室へと引っ張って来た。

 女神の姿になったのは、魔王レオンの希望にそってのことだ。


 そのついでに――。


 例の件の報告をニコラにしてもらいながら、勝手にティータイムを始めたのだ。

 文句を並べながらも、律儀にお茶を入れるニコラは、女神姿の私に弱いらしい。


「ニコラ先生もお菓子いかがですか? 侍女達が、皇都で最近人気のお菓子を用意してくれたのです」


「ご相伴に与ります。私はずっと女神様をお慕いしておりましたので、光栄です」


 美青年らしく魅力的な笑みを浮かべ、私の手を包み込むようにしてお菓子を受け取る。


 あぁ〜、これ完全にレオンへの当て付けだぁ。


 案の定、レオンは氷のように凍てついた視線をニコラに送っている。


「シャルロットは、俺のものだ」


 レオンがパチンと指を鳴らすと、一瞬でレオンの膝の上に転移させられてしまう。


 もうっ、小学生の喧嘩じゃあるまいし!


 なんだかんだ言いつつ、レオンはニコラと戯れるのを楽しんでいるみたいだ。

 まあ、私も平穏で楽しい日常は好きだけど。ルーカスが知ったら、苦笑いしそうだわ。




 ◇◇◇




 あっという間に三年が経ち――。


 卒業式も無事に終えた。


 式典が終わるとすぐに、ルーカスが育ったあの森へと向かう。

 新居については、長兄アーサーに全て任せてあったため、卒業式が終わるまで見せてもらえなかったのだ。

 だから、ワクワクが止まらない。


 どんな家なのか楽しみだわ!


 執事のトルソーと侍女二人は、皇宮に残ってもらうつもりだったのだが、本人たちにどうしてもと言われ、新居でも仕えてもらうことになった。


 結局のところ、優秀な執事達は私達の変化に、しっかりと気がついていたのだ。

 それならと、隠すのをやめて正直に話した。もう口伝も必要ないのだから。


 トルソーも、ミランダが暮らしていた場所へ行きたかったのかもしれない。


 移動する人数が増えたので転移はせずに、みんなで馬車で向かうことになったのだ。三年の間に、道もしっかり舗装されている。


 森の奥へ到着すると、そこには立派な家が――。


「へっ!? これ……家?」


 いやいやいや! これって小さなお城ではっ!?

 アーサーお兄ちゃん、こんな場に派手な魔王城を建ててどうするのよ!


 呆然と立ち尽くしている私を横目に、出来る執事と侍女達はさっさと残りの荷物を運び込む。アーサーの計らいで、全てが整い入居するだけとなっていた。

 この、鬱蒼とした森に不釣り合いな城に、抜かりなく隠蔽魔法もしっかりかけられている。出来る兄は徹底してしていた。


「す、素敵な(いえ)ですね……」

「悪くない。お前と一緒なら尚の事」


 と、レオンは魅惑的な笑みを浮かべた。

 ぐっ……不意打ち!


 あの納屋がどうなっているかが気になり、城の横を抜けて裏へと向かう。


「あ……」


 そこには、見覚えのある納屋が綺麗に修繕されていた。 


 感動してレオンを見上げると、優しい笑みを浮かべて頷き……ルーカスと交代する。

 ルーカスは、かつて母ミランダと過ごした家を見て、嬉しそうに破顔した。つられて、トルソーも涙ぐんでいる。


 それから城の中を一通り見てまわり、教会へと向かう。万が一にも第三皇子とバレないように、シャルロットの姿になって。


 見るも無残だった教会は、見事に立て直されていた。その敷地内には、立派になった孤児院が併設されている。

 孤児院の中からは、楽しそうな元気な声が聞こえていた。


 ああ、よかった……。


 声をかけずに立ち去るつもりだったが、くいくいっと服を引かれた。引かれた先に目をやると、そこには活発そうな少年が。


「あの時のお姉ちゃんだっ!」


 そう言われてから気がついた。

 生贄にされかけてしまった、あの時の少年だ。子供の三年は大きく、以前の弱々しさは消えしっかりと成長していた。


「誰か居るのー?」


 声をかけながら出てきたのは、なんと()()()本人だった。驚きで言葉がでない。


「どちら様ですか?」とカミラは尋ねる。


 返答に困っていると、見覚えのある男性がやって来た。


「えっ? ニ、ニコラ先生!?」


 思わず、素っ頓狂な声が出てしまう。


「これは、これは。最近、皇都から越してこられた、レオン様とシャルロット様ですね」


 ニコラは他人行儀に、丁寧な挨拶をする。


「司祭様はご存知の方なのですね。初めてまして、カミラと申します。この教会で聖女として仕えております」


 ん……えぇぇぇぇっ!! 何でですかぁっ!?




 ◇◇◇




 後日。


 突っ込みどころが多すぎて、ニコラに詳しい説明を求めたところ……不敵な笑みを浮かべながら教えてくれた。


 ニコラは私の卒業と同時に学園を退職し、皇帝の命を受け、この教会に新しい司祭として派遣された。

 もちろん高い信仰心があるのではなく、例の場所を突き止めて管理する為に。カミラの監視役も担っているそうだ。

 

 カミラの方は、記憶が無かったこと、孤児達を心配し続けていたことが配慮されたそうだ。

 やはり、多少なりとも癒やしが使えるという利点は大きい。いくつかの誓約をさせられた上で、聖女として働いてもらうことになったのだとか。

 カミラは喜んで孤児院の仕事をしているそうだ。


 ニコラを慕うカミラは、日に日に可愛くなっていく。


 これは、もしかして……ひょっとする、かも?




 ◇◇◇




 今日は良い天気だったので、レオンと一緒に少し小高くなっている丘へ登った。

 そこから、教会を見下ろしている。


 日当たりの良い庭では、真っ白な洗濯物がパタパタと揺れている、穏やかな光景だった。

 丘の上でも柔らかな風が吹き、靡く髪をそっと押さえる。


 ここは、魔王と女神として初めて出逢った場所だわ。

 懐かしさに自然と顔が綻ぶ。

 レオンを見上げると、私の肩を優しく抱いた。


「シャルロット……お前をもう離さない。幸せにすると誓う」


 真剣なレオンに目頭が熱くなる。


「はい。何があっても一緒にいます!」


 レオンは、私の頬に触れ……甘くて長いキスをした。

 

 その時――。

 まるで私達を祝福するかのように、教会の鐘が鳴り響いた。


 おばちゃんなので皇子様とか女神様とかは無理ですが、愛する魔王と幸せつかみます!




改稿で、だいぶ加筆をしてしまいました。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

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