第四話
「リンドルグ歴…」
思わず呟いてしまったけれど、多分西暦のような年号なのかな?ぐらいにしか分からなかった。
左の数字が生まれた年で右の数字が亡くなった年だと考えて頭の中で計算をし、きっとこの下で眠っていた人は38歳だったのだろうと数字をはじきだした。
もう一度墓石を見てみる。
文字と数字は勿論のことその墓石にはもう一つ描かれているものがあった。
一目見た時には表面が大きく欠けているだけだと思っていた、けれどそうではなかったようでそれは一つの瞳の彫刻のようなものだった。
文字と数字はきっと専用の道具を用いて記されたものだと分かるけれど、瞳の方はどうやら違う手法のようだ。
「これは…硬い物か何かで打ち付けたのかなぁ」
墓石の表面を手で撫でながら他の情報がないかを探す。
すると瞳の彫刻の下、真ん中辺りが大きく抉れてしまっている様だが名前が記されているのが分かった。
「ジャ…ううん、後は最後のルド?かな、文字数的にはきっと名字と名前、外国の読み方だと名前が先なのかな?」
読み取れた文字数は余りにも少なく、考察を挟みながら考えてみたけれど特に重要な情報をそれ以上見つけることが出来なかった。
墓石からはもう情報を得られない上に丘の下は川の氾濫、出来ることがどんどんと無くなってきているけれど元来僕はマイペースな方だ、今の状況下でもなんとか冷静さを保っていられた。
「うーん」と考えながら次に自分が見ていた景色の反対側、一本の木のその向こう側を見てみることにし、歩き始めた。
しかし木を越えてその向こうの景色を見た時に、今まで頭の片隅で考えてしまっていた小さな予感が少しずつ現実のものになっていくのを感じた。
眼に入ってきた景色、手前左側から右へと流れる川の先は森の中。
けれども僕の眼に強く飛びこんできたのは森か地面か、その場所からまるで虹のように立ち上る透明で、しかし少し灰色がかった光が視界一杯を埋め尽くしそのまま雨雲に突き刺さる光景だ。
「こ、これは…何?」
思わず口に出してしまったのは誰かに問いかけるような疑問。
今迄日本に住んでいた時には見たことも聞いたこともないような謎が、眼前一杯に広がっていた。その謎が少しずつ頭の中で整理されていく。
車に轢かれてしまった自分、きっと死んでしまったんだろう。再び目覚めた場所は最後に居たであろう道路の上でも病院でもなく、焦げ臭いお墓の中。信じられない程高い目線に屈強な身体、到底春から中学校に通うような中学生の身体ではない。
それに見たこともない文字を読めてしまう自分。極め付けはこの目の前に広がる景色だ、到底これが日本、いや、自分が12年間生きてきた世界とはとても思えなかった。
それから数十分はその光景に見入っていたと思う、こんな状況で何を呑気なと思われるかもしれないが、それ以外に何が出来ただろうか。
「いつの間にか、遠くに来てしまったんだなぁ…」
ぼそりと呟いた僕はその場に座り込むと、まだ暫くは動かずにその景色に見入っていたのだった。
その世界を別々に切り離すような、透明で灰色の、光の壁を。
第四話 了
区切りが悪くて、短め。