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青い瞳の再生者  作者: 河北
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第二話

降り続けていた雨が次第に止みはじめてきたことで、雨宿りをする必要が無くなったと喜ぶ自分が居た。

しかし僕の姿を見下ろしてみると雨宿りを必要としていたかどうかは分からない。所々が破けてしまった造りがよくなさそうな服、それと同じぐらいのズボン。

どうやら靴は履いてなく、足元には這い上がってきた場所にあったものと同じ散らばった石がいくつもあるが、どうやら足を傷つける程ではないみたいだ。


何故かというと、どうやら僕の身体はおかしくなっている様だからだ。

その場に座り込むとこうなってしまう前の事を思い出し始めた。



「そうだ、多分僕は死んでしまったんだよね」



----



僕には日本人の父さんとアメリカ人の母さん、それに歳の離れた妹がいたのをしっかりと覚えている。

今年で僕は13歳で妹は7歳、僕は中学校に妹は小学校に入学を控えていた。二人とも早生まれという訳でもなく僕は初夏に、妹は初冬に誕生日がくる。その為僕の家では季節の移り変わりには敏い方だった。


季節は春の始まり、まだまだ寒さが残っている3月の時だったと思う。

入学式に必要なネクタイとリボン、父さんと母さんと一緒に買ったはずのその二つが見つからなかったんだ。

どうやら袋ごと捨ててしまったかもしれないと父さんが結論を出すと、

それじゃあまた買いに行こうということになった。

妹の手を取りながら電車に乗り、二駅目の大きなショッピングモールのある駅に降りる。


「お兄ちゃんお兄ちゃん、リナ、また赤いリボンがいいです」


と、妹のリナが急かすように手を引っ張ってきた。

リナは母譲りの色素の薄い茶髪に、父譲りの黒い瞳の可愛い妹だ。

僕も最初は色素の薄い茶髪だったけれど、今では色が濃くなって

父のような黒髪になっている。

僕は妹を落ち着かせながら父と母の後ろに離れないように付いて回り、無事目的だったネクタイとリボンを買うことが出来た。


その帰りだった。


大きな交差点で信号が赤から青に切り替わるのを家族で待っている時、

前に杖をついた御婆さんが少し体調が悪そうに俯きがちに信号を待っていた。


心配になった父と母は御婆さんに優しく話しかけると、その手を取って青になった信号を渡り始めた。


「ジャック、リナの手を離さないでね。しっかりと付いて来るのよ」


母が御婆さんの左手を取りながら後ろに声を掛けてきてくれた。

僕は妹の手をしっかりと握ると両親に遅れないように付いて行こうとした、その時だ。


後ろから慌てたような話し声が聞こえてきたかと思うと、

僕達と両親との間に三人のサラリーマンが割り込んできた。


「---はいっ、今そちらに向かっておりますので---」


携帯電話で話しながら急いで歩く先頭の人に二人が付いて行くと、

直ぐに人混みに紛れて見えなくなってしまった。


僕達は少しの間ビックリとして立ち止まってしまっていたけれど、すぐに両親と離されてしまったことに気付いて妹の手をもう一度握り直して歩き出そうとした。


次の瞬間、叫び声と怒鳴り声が聞こえた。


その方向に視線を向けると---


僕達の左側から大きなトラックが信号を無視して此方に突き進んでくるのが見えた。

驚いた周りの人達は一斉にトラックの進行方向から逃れようと走り出したが、思い思いに走り出した人達には背の低い僕達にまでは気が回らなかったようで、次々とぶつかってきた。


僕はぶつかられながらも妹を離さないように右腕に抱きしめて動き出したが、その時には全てが手遅れだった。


左に視線を向けるともう10メートル程の距離までトラックが近づいてきていたのだ。


僕はこの時ほど時間の流れるスピードが遅く感じたことは無かったと思う。ゆっくりとした速度で確実に此方に進んでくるトラック、走って逃げるには間に合わないことはすぐにわかった。


視線を前に向けると父さんが母さんに御婆さんを預けたのだろう、何かを叫びながら此方に向かって走って来るのが見えた。

けれども僕達と父さんとの距離を考えると、それも間に合わないことを僕はわかってしまっていた。


最後に僕は自分の右腕に抱かれている妹のリナを見た。

父譲りの黒い瞳は悲しみに揺れながらトラックを見ていた。

もしかしたらリナももう逃げられないことを分かってしまったのかもしれない。


僕はリナの黒い瞳を見ながら、7年前のことを思い出していた。


小学校に入ったばかりの僕は友達と遊ぶのもそこそこに、忙しなく家に帰るとすぐ母さんにお腹を触らせてくださいとお願いしたのを覚えている。

仕事から帰ってきた父さんには、生まれてきた妹のことは兄が守ってあげるんだよと教えられたことを覚えている。

妹を初めて抱っこした時のことを覚えている、その温かさと尊さを覚えている。

僕の指を掴んでは嬉しそうに微笑んでくれたことを覚えている。

兄の僕を慕っていつも後ろを付いて来てくれたことを覚えている。


僕は妹を守ってやりたいと。

この絶望的な状況から生かしてあげたいと。


そう思ったから僕は、生まれて初めて妹の腕を引きはがして---


その身体を父さんの方に向けて強く強く突き放した。

走ってきた父さんが突き飛ばされたリナを反射的に抱き留めたのが見えた時、父さんと目が合った気がした。


僕を見つめるその悲しさと驚きの混じった瞳に、僕は微笑んだ。



第二話 了

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