第一話
※いきなりグロ注意※
※虫が嫌いな人も注意※
朦朧とした意識の中で、最初に感じたのは何だったのだろうか?
眼は見えないし耳は聞こえない。
表情なんかは自分で動かせているのかどうかも分からない程だし、当然鼻は臭いを嗅ぎ取ることができない。
---ここはどこなのだろうか?
何故こうなってしまったのかは思い出せず、何かを思い出そうとしても
身体中からくる違和感に邪魔されて集中することが---
---からだから?
そういえば今、僕の身体はどうなっているのだろう?
身動きをしようと思ったその時、ある変化が僕の身体で起き始めた。
---あれ、なにか目に…
そう思った時にはもう遅かった。
唐突に襲ってきた激痛と何かが這いずり回る感覚に意識が完全に覚醒したのだった。
「ッッッッッッッッッッッ!!!!」
声にならない叫び声を上げてのたうち回る自分が、何故か心の何処かで冷静に判断できてしまっていた。
眼には激痛と共に内から外へと何かが出ていく感覚が、絶え間なく襲い掛かってきているのにだ。
あまりの激痛に自分の手で眼を抑えようとしたことで気付いてしまったことがある。
この時ほど気付かなくてよかったじゃないかと思いたくなることは他にないが、
どうやら痛みの出所は眼だけでは無かったようなのだ。
「?!ッッッ!!?ッッッ!!」
最初に痛みを覚えていた眼が痛くなくなってくると視力が回復した、
そして自分の身に何が起こっているのかを把握してしまった時には、もう運が無かったとしか言い様が無かった。
自分の眼から出てきていたのがどうやら足のいっぱい生えている細長い蟲であったりだとか。
今も尚腕や腹部の皮膚を突き破って出てきているこれまたおぞましい蟲であったりだとか、
「アッッエゥッッ」
余りにもな光景に嘔吐き初めて、またしても心の冷静な部分では声を出せるようになったのだと自分の身体を分析していた。
「ォェエエアアアッッッ!!」
遂に耐えきれなくなり嘔吐を始めたが果たして胃に何かが入っているのかどうかは微妙な所だった、むしろ何も入っていない方が良い、胃液だけでいいのだ。
しかし、そうはならなかった。
「ゥォアアアア!!ッッッゥウッ?!」
最初は小さな蟲が数十匹と飛び出してきたのだが、本番はここからだった。
何か途轍もないものが喉に引っかかってしまったのだ。頑張って嘔吐くが一向に出てくる気配がなく、僕は焦り始めた。
このままでは息が出来ない、でも、しかし、これは飲み込むことは出来ない、いや、してはいけないのだと直感的に覚った。
何故なら今自分の身体には無数の蟲が巣食っているのだ、今尚喉に詰まっている巨大な何かがただの消化不良の食べ物であるはずがないと。
そこまで考えると僕は自分の右腕に視線を移した。
さっきまで蟲に食い破られるほどボロボロだった身体はどういう事だか
傷が治り始めていた。
これなら大丈夫だと自分に言い聞かせ、覚悟を決める。
小指から親指まで徐々に折り曲げてしっかりと拳を握ると、力を込めた。右腕の力瘤が盛り上がり始めた所で、身体の中にある酸素をすべて使い切るようなパンチを繰り出した。
そう、自らの鳩尾にだ。
「----ッ!!ゴボホッ」
予想以上のパンチの威力に目の前がチカチカするのもそこそこに、強制的な嘔吐感が襲い掛かり瞬時に胃の中の物を全てぶちまけた。
ズルズルと音が鳴ってしまいそうな巨大なモノが口から飛び出してきた、さっきまで息が出来なかった原因はこれで間違いないようだ。
ソレは30cmはあろうかと云うほどの巨大なヒルの様な蟲だった。
ビクビクと痙攣しているヒルは、色は見たことが無いような不自然な程に真っ青な色をしていて---
色まで把握したところで遂に我慢の限界がくると、上げられるようになった足を思い切り力を込めて踏み切っていた。
勿論狙いは足元に吐き出したヒルモドキに向かってだ。
バキバキッ!!
地面を突き抜けるような衝撃。
見事ヒルのど真ん中に足が突き立つと、そのまま石の床をぶち抜いて
その下の地面まで足が突きたった。
硬いであろう石をぶち抜いた上その下の地面に脛辺りまで埋まってしまった自らの足を見てしまうと、要所々々で冷静に努めようとしても中々力加減というものはすぐに出来るようなものでは無いのだとわかる。
そこでようやく落ち着くことが出来た。
自分の身体を再度確認すると、どうやら痛みは全て治まっているようだった。眼はしっかりと見えているし、耳の方も正常に聞こえている。
腕や足に関しては力を過分に込めれる位には回復していることを、先ほど確認したばかりだ。
そこまで確認するとドタバタしていたせいですっかり失念していた、周りの状況に目を向ける余裕が生まれた。
どうやら今は雨が降っているようだ。
石の地面に一発蹴りをいれた時にも分かっていたことだが、自分が立っている石床の場所には水が入り込んでいるようだ。
今は段々と雨が収まってきているようだけれど、周りよりも窪んでいる自分の場所にはまだまだ周りから水が侵入してきている。
改めて周りを見回してみると、この場所は小高い丘のようで背後を振り返ると一本の大きな樹が生えていた。
そこまで確認すると次は鼻の方が仕事をし始めたのか、何やら焦げ臭い匂いを感じ取った。
徐々に水溜りが出来始めている地面をよくよく見てみると辺りは小さいものから大きな物まで、大小様々な石が砕け散っていた。
その場にしゃがみ込んで手ごろな大きさの石を一つ手に取ると、表面が所々焦げているのが分かった。
顔に近づけてみると焦げ臭い匂いの正体はどうやらこの散らばっている石が原因のようだ。
確認を終えて立ち上がり、目の前の崩れた土の壁の縁に手をかける。
足元の水が徐々に水位を上げてきたためだ。
土の壁とは言っても一メートルも高くはないようで、直ぐに外へ出ることが出来た。
手に付いた泥をはらい落とすと視線を正面に戻そうとすると、戻す途中に1つ大き目な物体が目に入った。
ソレは石で出来ているようで、何かの物語に出てくるような盾の形をしていた。
一旦そのオブジェから目を離し、周りにも目を向けてみる。
さっきまでは土の壁に囲まれて後ろの坂になっている部分と正面の高い一本の樹しか目に入らなかったが、
今はもう視線を遮る邪魔なものは存在しない。
周りには形は違えど様々な石が等間隔に並んでいるのが目に入った。
そこまで確認すると再び目の前にある盾のようなオブジェに視線を戻す、その石がどういう役割があるのかが分かったからだ。
石の役割が分かると最初の疑問であったこの場所は何処なのか?という
疑問も解決してしまった。
---どうやらここは墓地のようだ。
第一話 了