5 音無 鈴
確かに、俺はやれることはやるとは言った。
だが、それは小説に関してなら何でもする、という意味であって何も知らない人間の手助けをするということではない。
そもそも人助けというのは、助けるという行為が自己満足的な行為だと俺は思うし、それに。
「ブツブツうるさいですよ、先輩」
隣に座っていたかなは、俺の顔を覗き込む。
その宝石のように輝く瞳は、俺の腐った思考を否定しているようで居心地が悪かった。
というか、顔を近づけること自体控えて欲しい。緊張してしまうじゃないか。
「あ、すいません。音無さん。この人初対面だと人見知りしちゃって……」
「やめろよ。俺は初対面じゃなくっても人見知りできるぜ?」
「いや、そのドヤ顔をやめてくださいよ」
俺達の会話を、つまらなさそうに見ているのは音無 鈴。
かなと同じくらいの長さの藍色の髪。人を切り裂けそうな鋭い瞳が俺のことをずっと見てくる。
なんだよ。こいつ……。
心の中で悪態をつく。まぁ、どうせ聞こえやしない。心の中くらい好きなように……
「なんだ、こいつって顔しましたよね?」
ギ、ギクっ!
この反応自体が紛れもない真実なわけだが、いかんせんかな以外の人間とあまり話さない。
俺のコミュニケーション能力は、ストップ安だ。
「はぁ……期待してこんなところに来た私が馬鹿だった」
立ち去ろうする音無に、かなはフォローをする。
「ま、まぁ、音無さん。折角来てくれたんだし、相談ぐらいしてってください」
「……かなさんが、言うんだったら」
むっ、とした表情を少し崩さずに椅子に座りなおす。
いや? 俺はむしろ帰っていただいていいよぉ?(上目遣い)
って思ったらかなに睨まれたので考えるのをやめます。
「というか、かなよ」
強制的にかなの肩を組み、音無に背を向ける。
「なんで、相談に乗ってるんだよ。俺達はこんなことやってる場合じゃないだろ?」
「私もそう思います。ですが、一つ考えたことがあるんです」
「……聞くだけ聞いてやる」
「このまま普通に小説のことだけ考えていても前には進めません。ですので、人と関わることでインスピレーションを刺激するんです」
そんな事で出来たら苦労しない。
と思ったが、高校生活の二年間。かなと、同じ中学だった千春としか関わっていない。
普段と違うことで出来ることも変わる……?
「ふ、ふむぅ……理には適っている、のか」
「それに、あたふたした先輩を見れて楽し……じゃなくて、コミュニケーション能力を上げれますもんね!」
ん? やっぱり悪魔かな?
まぁいい。とりあえず、やってみるしかない。
かなもここまで準備をしてくれたんだ。女性を知れば、妄想も消えるかもしれない。
「文夜、これはいいこと。人間的にも」
望も肯定的なご様子。
「わかった。音無君の相談に乗ってあげようじゃないか」
「やっぱり、チョロ……じゃなくて。流石先輩です!」
「君、あとで裏に来なさい」