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最低最悪の出会い

「やるしかないだろ」


「ふーん」



 中学時代の断片がフラッシュバックする。


 いい思いでもあるが、苦い部分もある。



「あの頃は、大変そうだったものね」



 あの事件以降、中二活動は辞めた。


 そこから勉強のみに打ち込んで、今の高校に入学できた。



 勉強前の偏差値じゃ、夢にも思えない場所だ。



「じゃあ。そろそろ、戻るわ」


「へ? も、もう? もうちょっと、ゆっくりしてもいいんじゃない?」



 桜がびっくりしたような声を上げる。


 珍しい。桜に一体何があったんだ? やたらビクビクしてるし。



「まぁ、リフレッシュは出来たし。そろそろいくわ」



 体を伸ばし、家に向かって歩く。


 俺の家は学校と同じ方向にあるので、桜もついてくると思ったが。



「そ……そうよね。まぁ、頑張って」



 そういって桜は、俺とは別方向に歩いていった。


 え、生徒会活動じゃないのか……?



 若干戦慄するも、気を取り直し、家に向かって歩みを進める。


 あの事件……かぁ。



 歩きながら、過去のことを思い出す。


 中学一年生の頃だった。俺は、結構熱い人間だった。



 いや、熱いは語弊がある。


 全てに興味が持てるような人間だった。



 これは、俺の昔の話。


 中学一年の夏の頃。



「俺、ラノベ書くよ!」



 夏休みに入る直前、俺は友人達に宣言をした。



「そ、そっか……頑張れ」



 若干引いてる友人を、尻目に帰宅する。


 家に帰ってすぐに原稿用紙に、ペンを走らせた。



 俺は当時、ラノベの魅力に惹かれていた。


 漫画のようにすらすらと読める文章。



 自分が主人公のように、楽しめる世界。


 その全てが好きになった。



 夫婦喧嘩をしている声も、読んでいる間だけは忘れられて。


 そこには、温もりがあって幸せだった。



 その世界に魅せられて、俺はいつしか創る方向に周りたい思った。



「絶対、みんなが面白いって言う小説を書いてやるっ!」



 そして、俺は夏休み明けに、三つの小説を書き友人に見せる。


 今思うと、かなり痛い小説だ。



 だが、あの頃は天才だと思っていたし、友人に見せると、評判は良かった。


 聞けば聞くほど褒めてくれたし、書いてて楽しかった。



 プロになれると、確信していた。だが、現実は甘くない。


 あれは、教室に忘れ物を取りに行った時だったと思う。



「文夜の小説読んだ?」


「読んだ、時間の無駄だったわ」


「気持ち悪い話」



 高評価をしていた友人の口から、聞かされたのはとんでもない、罵倒。



「……つまらない、だと」



 そう呟いた俺の瞳は、死んだ。


 天高く貫いた俺の自尊心は、ポキリと折れた。



「ふざけんなっ、ふざけんなふざけんなぁああああ!」



 静かにその場から離れ、廊下の端まで来た時。


 俺は、大声を上げた。



 その場から逃げるように走りだした。


 見栄も外聞も全てを、かなぐりさって駆けた。



 周りが見えていなかったからだろう、少し気が晴れた気がした。



「うあああああああぁあああああぁあぁあああ!」



 叫びながら走っていた俺は、曲がり角でぶつかる。



「ああっあ、す、すいません」


「大丈夫?」



 頭の中を優しく撫でるような、甘い声。


 繊細なクリーム色の髪、スカートから覗く、薄紅色に健康そうな柔肌。



 その全てに目が離せなくて、まるで病気かと思った。


 これが一目ぼれ、当時の俺はそう感じた。



「……すいません、大丈夫です」


「なら、良かった」



 優しさに満ちた瞳でにこっ、と俺を見つめる。


 蝶ネクタイの色を見るに二年上の先輩。



「す、すいません三年の先輩に、こんな事……」


「いいよー。それより何かあったの?」 


「な、なんにもないです!」



 と、手を振ったが、ずいっと近付いてくる。



「なんでもない人間は、涙を流さないよ」



 そう言われ、顔に触れる。


 手が少し、濡れていった。



 教室の出来事を思い出して、自分の無様な姿を思い出す。



「ほんとに……なんでもないんですっ」



 否定すればするほど、自分の姿に呆れ、喉元が熱くなる。


 思い出さないようにしようとするたびに、強く溢れてくる。



 情けないことに、目から溢れる涙を抑えきれなかった。



「いや、違うんですっ! 本当に、そういうんじゃなくて」


「大丈夫。話、聞いてあげる」



 彼女に包まれてしまった。


 まるで、子供のように諭された。



 これが風街 来夏との初めての出会いであり。


 同時に最高、最悪の出会いだったと言える。




 




 

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