後には引けない
夏休み初日。
パソコンの前で、頭を捻ったが一向に筆が進まなかった。
「まだ初日だ……」
二日目。
先輩方のライトノベルを読み研究を行ったが、成果は出ず。
一向に筆が進まない。
二週間後。
以下略。右と同じ。
「うわあああぁああああああ!」
ベットの上で暴れだした。
全く進んでいない。結局趣味で本を読んで、パソコンの前に座っただけじゃないか。
もう半分も経っている! なーにが「書くよ小説」だ!
「だ、大丈夫。まだ、時間。ある!」
望が横に立って応援してくれている。
が、それで原稿が進むなら、コミケ前の作家は大慌てしないだろう。
だが、かわいいことに変わりはないので、癒される。
「だけど、もう半分過ぎてるんだぜ……」
「……むぅ」
望は顎に、手を添えて探偵の様に思案。
そして、
「そうだ!」
と、目を輝かせて自身の服に手をかける。
「体を見せて、興味を、持ってもらう!」
「ダメだってぇええええ!」
それは、前に言ったじゃないかと止めに入る。
確かに俺の書く話は、ラブコメディが多い。
それら全ては妄想によって出来たもので、興味を持ては復活というのもあながち間違いでは、ないのかもしれない。
だけど、出生もわからない女の子をひん剥く気はない。
「ダメ?」
「だめ」
最速で返答をする。
「むぅ……だめ、なのか」
少し悔しそうに呟く、望さん。
ひょっとして、変態なのか……。
「なら、外にでて、いんすぴれーしょんを刺激する!」
くるっ、とこっちを見据え、尻を蹴り飛ばす望。
部屋の外に飛ばされる、俺。
え? と思っている間に扉は閉まる。
「ちょっと! 望さーん!」
扉を連打するが、一向に返事がない。
なんで俺は部屋を追い出されてる? 俺の部屋なのに。
「あれ」
鍵が閉まってる、徹底抗戦の構えだ。
望のご機嫌をどう取ろうかと悩んでいると、隣から心配そうな声が聞こえた。
本当に時間がないんだぞ……。
「あ、文くん? 大丈夫?」
あ、やべ。うるさかったのか。
「どうしたの?」
「……なんでもない」
目を逸らし、背を向ける。
言い訳のしようがない、ここは無言を貫く。
「さっきさ……」
姉ちゃんは、申し訳なさそうに声をかけてくる。
「なに」
そんな姿に俺は、無愛想に返事をしてしまう。
ふと視線が合った。
「その、なんでもない」
姉ちゃんは、すぐに視線をずらし引き下がる。
いつもそうだ。
今更のこの話を言及するつもりはない。
「そっか」
特に家に居たくなかったので、外に出ることにした。
プロットの一つでも考えてなきゃいけないのに、何やってんだ俺。
近所の駄菓子屋で、備え付けのベンチに腰を掛けて、アイスを一つ食べる。
じりじりと、焼き付ける太陽に俺は目を細める。
汗がシャツに染みて、気持ちが悪い。
「あら、文夜じゃない」
横を見ると、もじもじした桜がいた。
ん? 幻覚でも見えてるのか?
「なんで、無視するのよ」
ほっぺたをつねられ、痛みが走る。
夢じゃないっ! 本物か!
「いたいでふ! いたいでふ!」
「ふん!」
すぐ手の出るところは変わっていない。
なぜか、夏休みだというのに、制服を着ていた。
口が変形してないか確認をして、桜に抗議する。
「どうしたんだよ! 夏休みまで生徒会活動か?」
ここから学校までは、近い。
この駄菓子屋は生徒が結構の数入り浸っており、桜もその一人なのかもしれない。
「いや? 違うわよ?」
「ならここのアイスが目当てか?」
「違うわよ?」
「ならなんだ? それ以外でここに来る理由なんてあるか?」
「……へ? あ、あぁ、そ、そうよ生徒会活動よ!」
太陽に負けないくらい顔を真っ赤にして、桜は否定する。
そんなに否定したい理由なんてあるのだろうか。
そうよ制服にした意味がないじゃない、などと呟いている。意味が分からない。
「まぁ、ここに居たかったんだな。なんとなくわかる」
俺も家を追い出された身だ。
「そ……そうよ。別に会えるかもとか思って、居たわけじゃないわよ」
「お、おう」
こいつも面白くない冗談を言う時があるんだな。ちょっと意外だ。
「ま、まぁ、それはともかくとして、アンタ小説書くんだって?」
「……まぁそうだな」
というか、書いている。一文字も進んではいないが。
誰から聞いたんだろうな……ちょっと気になる。
「かなちゃんからよ。凄く嬉しそうに言ってたわ」
「……心を読むな」
連絡先交換してたんだな。知らなかった。
新事実に驚きながら、アイスを齧る。
「……できるの?」
無言。
出来るような計画を何度も考えるが、全て先が見えない。
現状半分まで過ぎていて、計算も明確になってくる。
そうだとしても。
「やるしかないだろ」
最終回まで、一時間毎に投稿していきます。