廃部の危機
「そういえば、今更なんだけどさ」
「なんです?」
いつもの放課後。いつもの部室で、俺はふと思った。
「ここ、いつまで使っていいんだろうな?」
「……」
元々、廃部と言われた所を目を盗み、使わせてもらっている。
かなは、ぽろりと手に持ったお菓子を落とす。
「かな! 瞳孔、開いてる」
「怖い怖い!」
一時期、流行ったヤンデレみたいになってるぞ!
「な、何も言われてないってことはセーフなんですよ」
「……そういうことなのかな」
何だかんだ、色々あったがこの面子も楽しい。
望も俺にとっては友達みたいなもんだし。
たまに、服を脱ごうとするのは目に毒だけど。
「ま、まぁ、とにかく、いい天気ですし、大丈夫ですよー」
全く根拠のない説明をする、かなを見ながらふと思う。
そういえば、こいつにとって望ってなんなんだろう。
朗らかな表情をして、紅茶を飲んでいる彼女に質問をする。
「なぁ、かなって……」
「……お邪魔するわ」
突然の来訪者に俺の発言は遮られる。
来たのは桜だ。
あの依頼以降桜は、部室に入り浸っている。
大抵は何気ない会話をして、帰っていくのだが。
今回は普段とは少し様子が違う。
「た、たった今から、生徒会による撤去活動を行います」
桜のその一言で、ドアから何人も人が入ってきた。
「や、やめてください。桜先輩!」
「……ごめん。かなちゃん」
生徒会の役員であろう人たちが、俺達の私物を片付けていく。
あ、それは俺のPFP! そこにあったのか……。
絶対に見つからなかったであろう物を、見つけ出した役員に驚きを覚えるがそこじゃない。
「どうしたんだ、桜。急に」
「本格的に廃部活動を、行えって……上から」
確かに今までが、緩かったといえばそうだ。
今の時期ぐらいに動いてもおかしくないと思ってはいた。
だから、嫌な予感がして、今日聞いたのだ。
「やめて、ここは、みんなの場所っ」
望が掠れそうな声で、呟く。
その声は俺にしか届かない。無慈悲に片づけが進んでいく。
その横で、
「あ、それ。私のティーカップだから。大切にね」
「え……あ、スイマセン」
と、一人の生徒に、凄む桜。
かわいそう……役員Aは困惑を隠しきれないでいる。
二人とも、と呼び出されかなと共に並ぶ。
「本当にごめんなさい。なんとか、先延ばしに出来ないか色々してたんだけど……」
桜が、申し訳なさそうに頭を下げる。同時に悔しそうに、歯を食いしばる。
悪いのは桜じゃない。俺だ。
「桜さんは悪くないです。こうなる気は……してましたから」
本当に分かっていたのだろう。
確かに、最近のかなは、思い出を作ることに専念していた気がする。
「……」
着々と背後で片づけられていく様子を見ながら、俺達は無言になる。
今まで、現実を見れてなかったんだと思う。
部室に集まって、皆と好き勝手できていた。
この場所に、俺は甘えていたのだろう。
その結果、これだ。
「先輩、帰りましょう」
荷物は後日改めて渡すと言われた。
ここに居ても邪魔になると、判断したのだろう。
「……あぁ」
この言葉も最後になる、そう思ったら喉が上手く動かなかった。