15 原点
一週間後。
俺は母校である中学校の前に立っていた。
「よしっ!」
地面に着きそうな程、長く黒いジャケットを羽織る。
腰には、シルバーチェーン。腕には、沢山の鎖を巻きつけている。
そろそろくるか……。いや、その前にチェーンの能力の説明を……。
「よし、じゃないわよ! 何で私までこんな格好を……」
ん? 俺の「能力」(クロス)の説明をしようとしている時に、邪魔が入った。
隣に来たのは桜。同じく長いジャケットを羽織っている。
俺と違うのは、右目に眼帯をしている事と、色が白という事だろうか。
桜は、頬を桜色に染めて、涙目で抗議。
そりゃ恥ずかしいだろう。当時と同じコスプレなんだから。
「アンタごときが、私を脅して……これが終わったら絶対に許さないから!」
桜を呼び出すのは、かなに任せた。この様子だと、俺の名前を名乗って脅したんだろう。
……うーん。後が怖いが仕方ない。
「結構、桜もノってるんじゃないか」
当時と同じ服を送ったのは俺。正確には、かなに裁縫してもらった服。
デザインは、ノートに記載されてあった物で、一週間で仕立ててもらった。
「当たり前でしょ……折角やるなら完璧に。じゃなきゃ、イライラするもの」
そうなのか……? まぁ、裁縫してくれたかなと、望に感謝だ。
これだけ完成度が高いと惚れ惚れする。
「で……何の用?」
桜の一言で、ここに来た理由を思いだす。
気を取り直し、こほんとせきを一つ。
手を振り、声を張り、自前のポーズを取る。
「我は、黒の忌み子で使い手……「黒の総統師」!」
恥ずかしさで、やかんのように沸騰しそうだったが堪える。
これも全て依頼達成のため……!
「……は?」
桜は、あっけらかんとした表情。
予想通りの反応だ。
「さぁ、来い! 「我等の因果干渉地点0」(思い出の場所)に向かうぞ!」
「や、やめなさいよ! 周りに聞こえるじゃない! ……もう」
怒りながらも彼女は着いてきた。
学校には許可は取ってあるので、堂々と廊下を歩く。
いや、服装的に堂々とできないけど。
「ここが、我らが愛用の場所!」
手を大げさに振り、多目的教室に誘導する。
「……そうね。ここが最初の場所ね」
やれやれといった表情で、中に入る。
よし、今がチャンス。
声色を変え、当時と同じような雰囲気で声を出す。
「我は思うのだ。この地は腐っていると……白の騎士はどう考える」
「……」
桜の瞳を真剣に見つめる。
互いに無言。桜も察しはついているのだろう。
少し、もごもご言った後。
「腐っている! その一言に尽きるわ」
乗ってきた。俺の完璧な再現に桜の完璧センサーが反応したんだろう。
一週間、演技の練習をしたかいがあった。
「うむ。新任の白き騎士。いい答えだ」
「……そうね。でも、私がいるからには好き勝手はさせない」
白き騎士は、構える素振りをする。
「まぁ、まて。戦いは上でやろうじゃないか」
「上?」
「あぁ……この施設で言うなら「天を越える場所」(屋上)だな」
そう言って、俺は目を隠し上を指す。
この格好に意味はあるのか……過去の俺に聞いてみたい。
「分かったわ。次はそこね」
「あぁ……では「次の再開に祝福を!」」
くぅ……キツイ!
叫びたい衝動を押さえ、屋上に進んだ。
「……なんでこんな事をしなきゃいけないのよ」
私は屋上に向かう、文夜の背中を、見ながら呟く。
正直、呼び出された時はびっくりした。
あいつにそんな勇気はないと思っていた。
懐かしいわね、あの頃はコイツの背中を子供のように追っていた。
「うむ、よく来たな。白の騎士」
文夜は、あの時と同じポーズでこちらを向く。
再現率は、正直凄い。過去に戻ったみたい。
「ふ、ふん! 私にかかれば異界の仕事など、な、何てことないわ」
は、恥ずかしい……。でも、やるなら完璧に。
一部の狂いもなくやりたい。
「……そうだな。貴様は、「卓越した王の座」(生徒会)にいるのだものな」
確か、この日は生徒会で遅くなった。
六時を過ぎちゃってたのに、待っててくれたのよね。
「別に、民衆(生徒)が頼ってくるから、受諾しただけよ」
なにを言ってるの、私。高校じゃ絶対にできないわよ!
ふと、思い出すことがあった。
「ふむ。まぁ、クロスライン(体調)管理はしておけよ。一応、非力な者(女)なのだから」
意外とコイツは、気を使ってくる。
そんなところがムカつくのだ。
「まぁ、民のことでわからないことがあれば、俺に聞け。代理は務める」
―クラスメイトとの関係が難しいなら俺が、助けになろう―
「卓越したコードは、難しいだろうが。黒がとして、白の助けになってやろう」
―生徒会の仕事は難しいだろうが、雑務なら引き受ける―
要約すると、そんな事を言っていた。
こいつは、そういうやつだ。
「次は、本当に初めて会った場所だ」
「本当の?」
「あぁ、これを見てくれ」
文夜は、新品のノートを懐から出す。
「お前が塗りつぶした場所を、かなが書き写してくれた」
「……塗りつぶした所?」
嫌な汗が流れる。何か嫌な予感はした。
「あぁ、かなが一週間でやってくれた」
かなちゃん、有能すぎる。ぜひ生徒会に欲しいわ。
「なら、とりあえず。向かいましょう」
文夜に催促をする。
ここで、昔の真似事をして思い出したことがある。
「なんだ、結構楽しんでるな」
太陽みたいな笑顔で笑う男。
そう、最初の一ページは私が塗り潰した。
コイツに、昔私は……。
「確かめたい事があるもの」
目を逸らしながら、私は呟いた。