表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/27

14 黒と白の禁断の箱

土曜と聞けば、悪いイメージを持つ人は少ないんじゃないだろうか。


 もちろん俺もそうだ。



 貴重な自由な時間を使って考えるつもりだったのに。



「なんで学校にいるのかね。しかも、中学の」



 そう、俺の母校である中学校に来ていた。



「いいじゃないですか。こーんなに可愛い後輩も、ついてきてるんですよ?」



 あざとらしく、ふふんっと振り向く、かな。



「可愛い、彼女も。いる、よ?」



 かなと並ぶように、ポーズを決める望。



「……」



 俺の目の前では、二人の美少女があざといポーズを取っている。


 ニコッと、近所の子供に向けるような笑顔をつくり、手元のノートを開いた。



「そうだ、ここで白の騎士と出会ったなぁ……」


「先輩!」


「文夜!」



 スルーされた二人の抗議の声が寂れた廊下に響いた。



「にしても、黒歴史巡回ツアーって、なんか意味があるのかね」



 ノートに記されていた俺と、桜が最初に出会った教室に向かう。



「意味があるかどうかは、やってみてからしか分からないじゃないですか」



 まぁ、それはそうだが……わざわざ学校側に許可とってまでやることなのか。



「ここが、先輩と桜先輩が初めてあった場所ですね。読めない部分があったのでそこは飛ばしています」


「読めないところ? 言葉なら通訳するが?」


「なんというか、所々塗りつぶされているんです」



 ノートを覗くと、心でも病んだかのように、ボールペンを狂気的に走らせている部分がいくつかあった。頭と終わりに多いように感じた。



「うーん。俺の記憶が曖昧なところもあるからな、そのうち思い出すかもしれん」


「わかりました。とりあえず、他を見てみましょう」



 そう言って着いたのは、なんの変哲のない多目的教室。


 なつかしい、自分は誰よりも特別だと思ってここでずっと立ってたな。 



「えっと、桜さんの文章を読みますね


―我、白の騎士。現世で、黒の使い手「黒の総統師」を発見。接近にいたる―


なんですか、この駄文」



「文夜、なんていってるか、わからない」


「……ぼっちの友達を見つけたって書いてあるんだ」



 分かる自分に呆れる。



「そもそも、桜の言っていた、完成って何を指してるんだ?」


「一度、全て目を通したのですが。物語調で書かれているものなので、話の終わりですかね」



 あいつ日記を物語風に書いてたのか……痛いなぁ。


 と思ったが、俺も似たような事をやっていた気がする。人の事は言えないな。



 中二病とはそういうもんだ。



「では、次に行きますね。次は二人で場所を決めていたみたいなので……屋上ですね」


「屋上かぁ……」



 馬鹿と煙は高いところが好きらしいけど、その中に中二病患者も入れていいと思う。


 昔を思い出しながら歩いていると、屋上に着く。



 屋上は普段解禁されておらず、当時も開放されてなかったが、別館の非常階段から屋上に向かえたので、愛用させてもらっていた。真似しないでね。



「じゃあ、読み上げますね。


―異界の仕事は疲労を伴う。軍勢をまとめたり、指揮をあげたり、エリートの会議に出席したり……今我が、我でいられるのは、悪がいるおかげであろう。


 黒の総統師。今日も、ヒートヘイズワールドを我に見せたまえ―


いや、は?」



 かなの反応も回を増すにつれて、冷たく、辛辣になっていく。


 いや、気持ちは分かるよ?



「意味がわからない。ひーと、へいず?」


「それは昔俺が書いてた小説の話だな。まぁ、完璧に趣味用だったからあんまり知ってる人いないだろうけど」


「私も、知らない」


「……」



 かなの反応が薄い。高いところは苦手なのか?



「その話、今は、読めないの?」


「あぁ……捨てたんだよ。ここから」



 俺は、柵のほうを指差す。



「なんで?」


「んー……なんでだっけ」



 締まりのない顔で笑う。本当は覚えている。だけど、忘れたことにしたかった。



「……ここ、だったんだ」



 かなは、大切なものを見つけたような表情でじっとその場を動かない。


 こいつにとっては、別の中学のはずだけど。



 いや、そういえばかなの中学の話を、聞いたことない。まさか同じ中学なのか?



「そういえば、かなの中学って……」


「文夜さん! 一つ分かりました!」



 偶然か必然か、俺の質問はかなの元気一杯の声でかき消される。


 それはいつものかなの姿だ。



「桜さんってこの頃、かなり忙しかったんじゃないですか?」


「……桜が?」



 かなの言った事に首を傾げる。


 そんな記憶はない。というか、お互い本当の姿は明かしていない。



 俺は、クラスの隅っこにいた陰キャラだったが、桜はどうだったのだろう。



「この闇の仕事って言うのは、桜さんの私生活の出来事なんじゃないですかね?」


「どういうことだ?」


「桜さんはこの頃から、真面目でいろんな仕事を任されていたって事です」


「……なるほど」



 その説は一理あるかもしれない。



「だとしても、どうすれば……」


「……むぅ。そうですね」



 二人で頭を抱える。 


 そもそも、人が書いた話を俺達で終わらそうとすること、自体間違っている。



 それは今更だが……。



「本人に。書いてもらったほうがいい」



 ぽつりと言う望。


 確かにその通りなんだが、書けないから悩んでいたんだろう。



 そりゃ桜が書けるように……。



「本人が書ければ……か。ありかもしれない」



 計画を考える。


 無言で考える俺に、先輩? とかなが俺の顔を覗き込む。



「いい方法を考えたぞ、二人とも」


「そうなんですか」


「一体、どんな方法?」


 二人の驚きの顔を見つめながら、ドヤ顔をする。


 ただ、これをやるにはとんでもない労力と俺の精神力がいる。



 だけど、やるだけの価値はある。



「作戦名「黒と白の禁断の箱」でいこう!」


「……ダサ」


「よくわからない、けど、好きじゃない」



 すでに心が折れそう。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ