14 黒と白の禁断の箱
土曜と聞けば、悪いイメージを持つ人は少ないんじゃないだろうか。
もちろん俺もそうだ。
貴重な自由な時間を使って考えるつもりだったのに。
「なんで学校にいるのかね。しかも、中学の」
そう、俺の母校である中学校に来ていた。
「いいじゃないですか。こーんなに可愛い後輩も、ついてきてるんですよ?」
あざとらしく、ふふんっと振り向く、かな。
「可愛い、彼女も。いる、よ?」
かなと並ぶように、ポーズを決める望。
「……」
俺の目の前では、二人の美少女があざといポーズを取っている。
ニコッと、近所の子供に向けるような笑顔をつくり、手元のノートを開いた。
「そうだ、ここで白の騎士と出会ったなぁ……」
「先輩!」
「文夜!」
スルーされた二人の抗議の声が寂れた廊下に響いた。
「にしても、黒歴史巡回ツアーって、なんか意味があるのかね」
ノートに記されていた俺と、桜が最初に出会った教室に向かう。
「意味があるかどうかは、やってみてからしか分からないじゃないですか」
まぁ、それはそうだが……わざわざ学校側に許可とってまでやることなのか。
「ここが、先輩と桜先輩が初めてあった場所ですね。読めない部分があったのでそこは飛ばしています」
「読めないところ? 言葉なら通訳するが?」
「なんというか、所々塗りつぶされているんです」
ノートを覗くと、心でも病んだかのように、ボールペンを狂気的に走らせている部分がいくつかあった。頭と終わりに多いように感じた。
「うーん。俺の記憶が曖昧なところもあるからな、そのうち思い出すかもしれん」
「わかりました。とりあえず、他を見てみましょう」
そう言って着いたのは、なんの変哲のない多目的教室。
なつかしい、自分は誰よりも特別だと思ってここでずっと立ってたな。
「えっと、桜さんの文章を読みますね
―我、白の騎士。現世で、黒の使い手「黒の総統師」を発見。接近にいたる―
なんですか、この駄文」
「文夜、なんていってるか、わからない」
「……ぼっちの友達を見つけたって書いてあるんだ」
分かる自分に呆れる。
「そもそも、桜の言っていた、完成って何を指してるんだ?」
「一度、全て目を通したのですが。物語調で書かれているものなので、話の終わりですかね」
あいつ日記を物語風に書いてたのか……痛いなぁ。
と思ったが、俺も似たような事をやっていた気がする。人の事は言えないな。
中二病とはそういうもんだ。
「では、次に行きますね。次は二人で場所を決めていたみたいなので……屋上ですね」
「屋上かぁ……」
馬鹿と煙は高いところが好きらしいけど、その中に中二病患者も入れていいと思う。
昔を思い出しながら歩いていると、屋上に着く。
屋上は普段解禁されておらず、当時も開放されてなかったが、別館の非常階段から屋上に向かえたので、愛用させてもらっていた。真似しないでね。
「じゃあ、読み上げますね。
―異界の仕事は疲労を伴う。軍勢をまとめたり、指揮をあげたり、エリートの会議に出席したり……今我が、我でいられるのは、悪がいるおかげであろう。
黒の総統師。今日も、ヒートヘイズワールドを我に見せたまえ―
いや、は?」
かなの反応も回を増すにつれて、冷たく、辛辣になっていく。
いや、気持ちは分かるよ?
「意味がわからない。ひーと、へいず?」
「それは昔俺が書いてた小説の話だな。まぁ、完璧に趣味用だったからあんまり知ってる人いないだろうけど」
「私も、知らない」
「……」
かなの反応が薄い。高いところは苦手なのか?
「その話、今は、読めないの?」
「あぁ……捨てたんだよ。ここから」
俺は、柵のほうを指差す。
「なんで?」
「んー……なんでだっけ」
締まりのない顔で笑う。本当は覚えている。だけど、忘れたことにしたかった。
「……ここ、だったんだ」
かなは、大切なものを見つけたような表情でじっとその場を動かない。
こいつにとっては、別の中学のはずだけど。
いや、そういえばかなの中学の話を、聞いたことない。まさか同じ中学なのか?
「そういえば、かなの中学って……」
「文夜さん! 一つ分かりました!」
偶然か必然か、俺の質問はかなの元気一杯の声でかき消される。
それはいつものかなの姿だ。
「桜さんってこの頃、かなり忙しかったんじゃないですか?」
「……桜が?」
かなの言った事に首を傾げる。
そんな記憶はない。というか、お互い本当の姿は明かしていない。
俺は、クラスの隅っこにいた陰キャラだったが、桜はどうだったのだろう。
「この闇の仕事って言うのは、桜さんの私生活の出来事なんじゃないですかね?」
「どういうことだ?」
「桜さんはこの頃から、真面目でいろんな仕事を任されていたって事です」
「……なるほど」
その説は一理あるかもしれない。
「だとしても、どうすれば……」
「……むぅ。そうですね」
二人で頭を抱える。
そもそも、人が書いた話を俺達で終わらそうとすること、自体間違っている。
それは今更だが……。
「本人に。書いてもらったほうがいい」
ぽつりと言う望。
確かにその通りなんだが、書けないから悩んでいたんだろう。
そりゃ桜が書けるように……。
「本人が書ければ……か。ありかもしれない」
計画を考える。
無言で考える俺に、先輩? とかなが俺の顔を覗き込む。
「いい方法を考えたぞ、二人とも」
「そうなんですか」
「一体、どんな方法?」
二人の驚きの顔を見つめながら、ドヤ顔をする。
ただ、これをやるにはとんでもない労力と俺の精神力がいる。
だけど、やるだけの価値はある。
「作戦名「黒と白の禁断の箱」でいこう!」
「……ダサ」
「よくわからない、けど、好きじゃない」
すでに心が折れそう。