10 新たな厄介事
「我は、黒の忌み子。「黒の総統師」(ダーカープリンス)」」
「僕は、白に認められし騎士「白亜の騎士」(ホワイトナイツ)」
あぁ……懐かしい。
黒歴史時代の夢か。
放課後の教室で、二人で二つ名を言い合ったもんだ。
俺は、黒が好きだったっけな。楽しかったなぁ。
もう一人は、やけに正義ぶった白を基調にした設定が多かったもんだ。
よし、夢だしな。俺も久しぶりに言ってみるか。
「我は、黒の忌み子「黒の総統師」!」
「ちょっと、文夜! 何いってんのさぁ!」
「へ?」
目の前から包むようだが怒った声が聞こえ、変な汗が出る。この声は千春。
まさか、これ……。
「……今、授業中だよ?」
しまたぁあああああああああ!
夢と勘違いして、大声で黒歴史時代の名言を炸裂させてしまった!
俺の学生ライフはもう終わりだぁ!
いや、よくよく考えるともう終わってた気がする。うん、ならいっか。
「先生ティーチャー! 無問題、(ノープロブレム)ですね?」
やけくそになり、外国人も驚きの巻き舌で先生に報告。
中学時代はよくこれで逃げ切ったものだ。
「いやぁ……文夜ぁ。これは大問題だぞぉ……」
だよね。
物理の岩田が、重々しく言うものだから納得してしまった。
そうですよね、自分も問題だと思います。
クラス全員が苦笑する中、どこからか鋭い視線が向けられていた。
だが俺は、自分の失態を責めるのに忙しく、気がつかなかった。
「で、先輩は自分の黒歴史を授業中に叫びながら、帰ってきたと」
「その話は……やめてくれ。心が、傷つく」
「傷つけているんですよ。心配ですから」
かなは、少し頬を膨らましながら怒る。
仕方ないじゃないか、思い出して叫びたくなったんだ。
と、呟くも余計にヤバイ奴感が出た。
「もう、先輩はただでさえ望さんのせいで変人扱いはされているんですよ?」
かなの意見はぐぅの根も出ない。
確かによく一年の後輩から笑われている気がする。
もしや俺の奇行は全校生徒に知られ渡っているッ……。
「文夜、ごめん。私のせい」
望は頭をブンっと振って謝罪。
いや、望は悪くない、とは思う。だが、どうしようもない。
消せるわけでも、追い払うわけにもいかない。
その日は、特にすることもなかったので雑談をして解散。
前回の人助けで、得たものがあったような気はしたが、小説にするまでに昇華することができなかったと伝えた。
そのことを二人に告げると、また頑張りましょうと言ってくれた。かなも内心焦っているだろうに、申し訳ない。
いくつかの案を出し合い時間は過ぎていった。
「じゃあ、閉めるぞ」
部室の鍵を閉めた時。鞄が軽いことに気がつく。
「あ……教室に、鞄の中身全部忘れてきた」
「ドジですね。取りにいきますか?」
「いや、いい。かなは先に帰ってくれ!」
そう言って帰らせる。
あまり暗くなると親御さんも心配するだろう。
かなを見送り、教室に行くが誰もいない。
当然だよなー。
自分だけの教室はテンションが上がる。ルンルンと自分の机に向かった。
途中、今日の夢をフラッシュバックした。
中学二年。小説を書き始めた時期。溢れんばかりの中二病を抑えていた時だ。
あの頃は、ただ目の前だけを見ていたし、小説もずっと書いていた。
手書きでノートとかに書いたもんだ。そう、あんな風に……って、ん?
見慣れないノートに目を引かれる。
普段の休み時間であれば気にもならないであろう。
だが、今は放課後の誰もいない教室。
全て俺の手中にある。今は、今だけは、無法地帯!(注・そんなことは無いです)
震える手で、ノートを手にする。
「……文夜、手つきが、えろい」
望がじーっと、俺を見つめる。それは非難の目。
うむむ、確かにいけない事だ。だが、これはきっと小説なんだ。
なんとなく、分かるんだ! え、根拠? そんなものはない。
タイトルの書かれていない、大学ノートを開く。
「……え?」
俺の手も、体も、思考回路から意識まで全て固まる。一言で言うならフリーズ状態。
「どうしたの? もしかして、デ○ノート?」
望の際どいボケも、無視して意識を一つに集中する。
「なんでここに……これがあるんだ」
これは、中学時代共に書いていた少女のノート。
白銀の騎士の物だ……。
「見たのね」
背筋に寒気が走りさる。同時に、心臓は高くなり、体温も上昇し始める。
バクバクとなる高鳴りを抑えられない。こ、怖い。振り向けない程の迫力。
背後にいるその人間は、ゆっくりと近付いてくる。
そして、ポンっと俺の手を叩き。
「記憶、消せるかな?」
死の宣言。もう腰が抜けそうです。
「ふぃふぁへん! (すいません!)」
歯でも抜かれたような反応をしてしまう俺。
勢いの余り振り向くと、そこには綺麗な紅色の髪が特徴的な女の子、桜がいた。
「さ、桜さん! 人を殺すのはいかがかと思います!」
「大丈夫よ。溶かすから」
ダメだ……ガチの殺意を感じる!
終わりだ。望があたふたと、慌てている。
「バレるバレないではなくてですねっ!」
「なら、自殺?」
あぁ! 発想が物騒だッ! こんな状況で無駄に韻を踏めている自分にムカつく!
「ご、ごめん! 見たことは謝る。君が白銀の騎士だったとは思わなかったんだ」
「……アァ?」
桜はその言葉で、表情……いや、形相を変える。
「こんな事を言って許されるとは思ってないけど。お……俺は、……黒の総統師だ」
「……ダーカープリンス?」
肩に置かれていた手が離れる。殺意の並はひとまず収まった。
「わかった」
桜の声の調子も元に戻る。良かった良かった。
一先ずは、一件落着……
「明日の放課後、あなたの部室に行くわ。他人にしゃべったら殺す」
「……ハイ」
では、なさそう。また、厄介ごとを抱えてしまった俺を恨む。