第7話
アルビオン連邦王国ドローテア地方首都惑星ドローテア
この惑星は居住可能惑星150個、総人口1.2兆人を誇るドローテア地方の主星であり、惑星の総人口が1000憶人というアルビオン王国でもかなり上位に入るメガロポリスである。
1000憶人という膨大な数がただ単純に惑星上に入る訳もなく、惑星全体が高度に都市化されており、惑星内には天まで届くような摩天楼――具体的には200階を超えるようなビル――が立ち並び地上部分は最早見えない程である。
この惑星はドローテア地方の経済政治を司る中心地であり、多くの企業の支社・本社のオフィスが軒を連ね驚くような活気に溢れた惑星だ。
勿論、そんな惑星であるから、普段俺たちが住んでいる惑星と違い緑は都市内に計画的に作られた緑地以外では中々見ることが出来ず、外観は正に灰色で覆われた惑星と言えるだろう。
正に人類が住む所だけを求めて改築を重ねていった惑星の姿であった。
そんな惑星に俺たちは降り立とうとしていた。
「ほらいい加減外に出てきなさい!!」
母さんが部屋の外で怒っている。
「そうだぞ、もう父さんも笑ったりしないから出てきなさい……ぷっ」
「アンディ!あなたもいい加減に息子を笑うのをやめなさい!」
「だ、だってあの演説がどうしても頭の中から離れなくて」
わが父はまだ笑いが収まらないらしい。
あの父は絶対に後で一発殴る。
そして、俺自身もあの演説の恥ずかしさからまだ立ち直れていなかった。
何というかあの空回りした恥ずかしさが前世の黒歴史を思い出させモンモンとし、その気持ちが更に今回の演説を恥ずかしく思わせるという悪循環に陥らせていた。
「もうドローテアに到着するのよ!外からドローテアを見なくていいの?アル、あなた前から見たがってたじゃない」
そう言われ、渋々部屋から出る。
そして、出たついでに未だに笑いを堪えている父の脛に一発蹴りをお見舞いする。
「痛っ」
「うん、見る」
「そう、ならデッキはこっちよ着いて来なさい」
俺が父さんに一発お見舞いしたことはスルーして、母さんは俺をデッキに連れて行った。
デッキは前方が全てガラス張りであり、進行方向が全て見られるように設計されていた。
そして、現在前方には灰色に塗り固められた惑星が佇んでいた。
「あの灰色の星がドローテアなの?何というか想像と違うね。もしかしてあの色全部建物?」
「ええ、そうよ。あれが惑星ドローテア。あそこがドローテア地方の主星で貴方のお爺様が住んでいる惑星よ」
「うーん、なんというかあんまり好きな色じゃないな。僕たちが普段住んでいる星の方が自然が一杯あって好きだな」
「そうね私も緑が一杯ある方が好きよ」
そう言えばこの人自分の宇宙船に植物園作るくらいには緑が好きだもんな。確かにあんなに灰色の星は好きになれないか。
そんな事を言っている内に船は惑星に近づいていく。
そして、出発した宇宙ステーションと同型のステーションが見えてきた。
ただし、一つだけでなく複数個だが。
「あれ?宇宙ステーションがいくつもあるんだけど」
「ドローテアは人口が多すぎて一つの宇宙ステーションじゃ到底賄えないのよ。だから、貨物用、客船用と目的を分け、尚且つそれぞれが複数個ずつ稼働しているのよ」
たしかに惑星全てが都市化しているこの惑星では1つじゃ絶対足りないだろうな。
そして、船は一つの宇宙ステーションに入港した。
「さあ、到着したわ。降りる時はバランにちゃんと謝っておくのよ。彼、大分心配していたみたいだったから」
確かに2日も引きこもっていたら誰だって心配するだろう。
しかも、自分がお願いした号令が原因ときたら猶更だ。
うん。彼には悪いことをした。
そして、下船時
「バラン心配かけて申し訳なかった。もう元凶(父)には蹴りをつけたし(物理的に)もう心配ないよ」
「そうですか、これでアルバート様が宇宙船を嫌われたかと思いまして。少々心配しておりました」
「それは大丈夫。船そのものは我が家のように寛げたから。実際2日も寝室に引きこもれたしね。」
俺は自虐たっぷりに肩をすくめる。
「それは良かった。では帰りには是非他の施設をお楽しみください」
「うん。帰りもよろしく頼むよ」
「それでは惑星ドローテアを存分にお楽しみください」
そうして遂に、俺は惑星ドローテアに上陸を果たした。
ステーションに到着した俺たちは出発時と同じように軌道エレベーターで地上に降りた。
軌道エレベーターのクライマーから見える景色はやはり、前世では見たことが無いもので、高層ビルが地上一面に広がり全く地面が見えない状態なのは異質でどこか寒々しい印象を抱いた。
地上に降りると、事前の頼んでおいたのであろうトランスポーターが待機しており俺たちはそれに乗り込んだ。
「これから、どこへ行くの?」
「今日からこのドローテアで滞在する場所よ?」
どこかはぐらかすように言われ、若干恐々としつつトランスポーターに乗っていると、トランスポーターがとある高層マンションの前で止まった。
さて、どこか分からずにに到着した俺だったが到着した途端予想もしない出迎えが待っていた。
もはやお馴染みとなったトランスポーターの到着口に家族揃って降り立つと、予め伝えておいたのだろう。数人の執事のような恰好をした男性と同じくメイドのような恰好をした女性そして、その中央に一際豪華な服を着た威厳がある壮年の男性が立っていた。
そして俺たちが降りたのを確認して、こちらに近づいて来るのが見えた。
この人たちは誰なのだろうか?
父さんに聞こうとした……次の瞬間
横にいた父が近づいてきた中央に立っていた男性に殴られたのだ。
「こっのばかもんが!!孫が生まれたのに1年も顔を見せに来んとはどう言う訳か!!」
俺は余りの事に暫し目を白黒させていた。
「痛った!いきなり何すんだ親父!しょうがないだろ予定が付かなかったんだから」
「お久しぶりですお義父様。まあ、今年は新機械の導入等忙しかったですから多めに見てやってください」
どうやらこの人は俺の祖父らしい。
母は何にもなかったかのように祖父に挨拶した。
大分ファンキーな様子だが多分このやり取りはいつものことなのだろう。
「おおナタリーさんか。いつも愚息が世話になっとるのう。それでその子がアルバートか」
おおっと、俺に気づいたか。第一印象が後の関係を決定づけると聞いた事がある。
さてここはビシッと決めようか。
「初めましてお爺様、アンドリュー・クーパーが嫡男アルバート・クーパーです。お目に書かれて光栄です。」
決まった!俺は内心これで爺ちゃんは完全に堕ちたと思っていた。しかし、次に爺さんの口から出た言葉は予想外の物だった。
「………ナタリーさん。これは本当にアンドリューの息子か?」
「ちょっ親父何血迷った事言ってんだ」
余りに酷いことを言う祖父に親父がツッコんだ。
「そうですよお義父様。正真正銘アンドリューと私の息子ですわ」
母さんも一見変わらない笑みで反論した。
しかし、俺は見逃さなかった、一瞬母さんの額に青筋が浮かんだのを。
現に母さんからは底知れない圧力を感じている。
この時俺は母さんには絶対に逆らうまいと心に刻んだ。
「あいや、すまない。余りにクーパー家の血からしたら聡明でのうー。良かったのうアルバートよ其方はナタリーさんの血を多く受け継いだんじゃな」
また、爺さんも同じものを感じたのか、俺をほめてるのか弁明してるのかよく分からない言葉で誤魔化そうとしていた。
そして、このままでは不味いと感じたのか
「さて、こんな所で立ち話もなんじゃ部屋でゆっくり話そうかの。では先に行って準備をしてる故ゆっくり来るんじゃぞ」
と完全に逃亡していった。
当初の威厳があった祖父の像は完膚なきまでに叩き壊れていた。
祖父の屋敷は高層マンションの中層階にあった。
どうやらこのマンションは富裕層向けのマンションのようであり、階層毎に一部屋しかなく、その階層一つ一つに住人がいるという形となっていた。
祖父が住んでいるのは1フロアだけだったがより高位の貴族になったりすると2フロア3フロアと使用しているようだった。
だが、1フロアだけと言っても延べ床面積10,000平米を誇るマンションの一フロアである。
祖父が一人で住むには十分に広かった。
そんなマンションのリビングにて現在家族の団欒が取られていた。
「そうか、それでアルバートはこんな軍人めいた演説をしとるのか」
「もう許して……」
そこでは、俺がまたもや例の演説で弄られ死にたくなっていた。
「さて、アルバートが今にも飛び降りそうな顔をしとるので今日の本題に入ろうかの」
そして、ようやく本題に入ろうとしていた。
「で?今回態々ドローテアを訪れたのは何故じゃ?」
祖父にはここに来る目的までは話していなかったのだろう。今回の目的を聞いてきた。
「それはだな、先ずは親父にアルバートの顔見せが第一。で、もう一つが……」
「父さん、そちらは僕が直接説明します」
ある意味、我がままを言って連れてきてもらったのだ。
その位は自分で説明した方がいいだろう。
「今日から3日後王都の大学から著名な古代学の教授が来て、こちらの大学で演説をされるようなのです。ですので是非その講演を聞いてみたいと思ったのです」
「ふむ、アルバートは古代学に興味があるのか?」
「はい、地球から人類が宇宙に進出した時代に興味を持っています」
この答えは正確ではない。アルバートが興味を持っているのは料理がなぜ消えたかであり、その人類が宇宙に飛び出す過程で何かがあったことが間違いがないため、調べているだけだ。しかし、料理と言ってもこの時代では専門的過ぎて理解してもらえないためこの様な説明をするるようになっていた。
「ふむ。この年の子供が古代学に興味を持つのも珍しいが……というかこの年の子供にしては賢すぎる気もするが……そうじゃな、ここの大学には多少顔が利く。短い時間に成るかもしれないが、直接その教授に会ってみるか?」
それはまさかの申し出だった。
アルバートとしては講演を聞いて、その後あわよくばアポイントメントを取り直接話せないかと考えていたのだ。
これはそんな中に訪れた最大の好機であり、これ以上ない福音だった。
「是非!是非お願いします!!お爺様!!」
「お爺様……わしがお爺様」
おれのお爺様呼びに顔をだらしなく緩めていたが、俺たちが見ているのを思い出したのか、急にキリッとさせ
「うむ、それならワシに任せておけ!」
と受け負ってくれたお爺様は最高にかっこよかった。
そして、3日間はそうこうしている間に過ぎ講演会当日を迎えた。
この3日間は主に惑星ドローテアの観光地巡りやショッピングを楽しんでいた。
……主に母が。
面積が一つの都道府県程の面積があろうかという巨大ショッピングモールや最新の機材をふんだんに使った劇場での演劇鑑賞等素晴らしい娯楽を見て回った。
しかし、俺は3日後の講演会のことが頭から離れず、どこか上の空だった。
まあ、その分母は思う存分楽しんでいたので良しとしよう。
因みに父は、ショッピングに付き合わされて死に体になっていたとだけ言っておこう。
そして現在、俺は大学の5000名は入ろうかという巨大な講堂に足を踏み入れた。
遂に講演会が始まろうとしていた。