第12話
教授のまさかの言葉に俺は完全に計画が頓挫した事を悟った。
そもそも俺の計画では、ある程度無事な地球で教授とフィールドワークをしながら自然に還った自生している食用植物を探し、それを遺伝子改良なりして栽培する予定だった。
しかし、まさか地球環境が完全に一回壊滅しているなんて思わないだろう。
これで完全に白紙に戻ったわけだ。
「では、もう料理の復興は完全に無理というわけですね」
俺は教授が同意すると思っていた。
しかし、教授から出てきた言葉は完全に予想外の物だった。
「いえ、そんなことありませんよ?」
え?だって壊滅したって言うたやん!
「そもそも、私は難しいと言っただけで、不可能とは一度も言ってませんよ?」
で、でたー!!どっかで聞いた事がある名言っぽいやつー!!
そんな教授の言葉に俺は一縷の望みをかける。
「では可能性はあるんですか!?」
「まあ落ち着いてください。」
そんな落としておいて、急に持ち上げる、なんてされたら誰も落ち着けるわけないじゃん。
そんな俺の様子などお構いなしに教授は話しを続ける。
「実は料理は植民地にも僅かに存在していました。超高級な趣向品としてですが、確かに存在したようなのです。まあ、それも独立戦争時の地球文化を嗜むのは悪であるという風潮のせいで廃れてしまったようですが。」
くっそ、どこまでも祟るな独立戦争は。
「でも、その惑星さえ分かれば、食材は存在する可能性があるという事ですね!!」
「はい、その通りです。但し、勿論ですが全ての植民惑星に存在するという事ではありません。植民初期に行われた物で、まだ人類が料理というモノが身近であった頃の惑星でないといけません。それ以降ですと全てが完全食になってしまっていますから」
成程、まだ人類が移民船に食料と完全食、両方を乗せていた時代の事か。
だとしたら、それを見つけるのは更に教授の助けが必要となるな。
これは気合を入れてお願いしなければなるまい。
「教授、改めてお願いします。僕の食文化復興事業に改めて協力して頂けないでしょうか」
「成程、ここまで困難であると分かった上でも諦めませんか」
「はい、私にとって必要不可欠な存在であり、今や私の存在意義と言ってもいいかもしれません。」
「食事とは貴方がそこまで執着する程に素晴らしいものなのですか?」
「はい!一度自然の植物を食べてしまえば、元の食事には戻れなくなることを保証します!!」
「そこまでですか………」
そして、教授は少し悩んだ後決断した。
「分かりました。アルバート君の食文化復興事業に全面的に協力しましょう!そもそも、今回の事業は古代学的に考えても意義はとても深い。この事業によって今まで謎だった物の解明もなるかもしれない。正直に言えば、私はこの事業に限りない期待を寄せているのです」
成程、教授もワクワクしていたわけか。
これは絶対に失敗できないぞ!!
「では、やるとなったらとことん突き詰めますよ!アル君。今後の予定はどのように考えていたのですか?」
「それなんですが、事業そのものの許可は両親から取り付けたのですが、少し条件がつきました」
俺は昨日両親から言われた条件を教授に話した。
「ほう、成人認定試験ですか。成程、アル君が会社を設立するならば必須ですな。3歳までに合格しないといけないですか……結構ハードなのは理解していますか?」
「すいません、昨日聞いたばかりで難易度等もまだ調べていないのです」
「そうですか、おそらくですがアル君が想像している以上に難しい内容となると思います。確かにアル君の中には20歳の精神と記憶があるのかもしれない。しかし、それ以上に5000年の科学の進歩は激しいということです」
やばいかもしれない。
俺の思った以上の難易度らしい。
「んーそうですね。ならば私が家庭教師をしましょう!これでも教授なんて職を任せられてますからね、成人認定試験レベルなら教えられますよ」
そう言って教授は笑った。
「でも、流石に教授に悪いのでは」
「なんの、そんな事よりこの事業が潰れてしまうことの方が悪いですよ。そのためにこの程度の労力なんともありません」
そして、今まで黙って話を聞いていた父さんが初めて口を開いた。
「しかし、本当に宜しいのですか。事業にもご協力頂けるだけでもありがたいのですが、更に忙しい時間を更に息子に割いて頂くというのは余りにも心苦しいのですが」
「そうですね、確かにこれだとご両親が気を使いすぎてしまいますか。でしたら、どうでしょう、私を家庭教師として雇って頂くというのは」
突然の申し出に俺は驚いた。
しかし、父さんはそれならばいいとあっさり了承してしまった。
「分かりました。そこまで仰っていただけるというのならば是非にお願いいたします。料金のご相談等はまた後程させて頂きます」
俺の家庭教師が決まった瞬間だった。
後に思えば、俺はとんでもなく贅沢なことをしていたと思う。
天下の王立大学教授が基礎レベルの学問を教える家庭教師だなんて、世の人々が聞いたら正に卒倒レベルである。
そして、これより続く長い師弟関係は正に人生レベルでの付き合いとなり、ボロゾフ教授が亡くなるその時まで続く程濃いものとなるなんて、この時の俺は全く考えてもみなかった。
「おっと、もうこんな時間ですか。実はこれから王都に帰らなくてはならないのですよ」
教授は突然そんな事を言い出した。
時間を見ると予定していた、2時間を大幅に過ぎもう5時間になろうとしていた。
「今日、帰られる予定だったのですね。そんな合間の貴重な時間を割いて頂いていたなんて。ではそろそろお暇いたします。後の事は失礼ながら通信で話させて頂きます」
「分かりました。こちらが私の連絡先となります」
そういって大人同士、連絡先の交換をしていた。
「ではアル。お礼を言いなさい」
そう父さんに促されたので丁寧にお礼をする。
「本日は貴重な時間を取って下さり誠に有難うございました。今日は本当に有意義な時間を過ごすことが出来ました。それも教授のお陰です。本当にありがとうございました」
「いえいえ、これからは通信で話すこともできます。今日は時間が無くて聞けなかったんですが、私もアル君に聞きたいことがたくさんあるんですよ。では、次は家庭教師第一回目の時ですね。楽しみにしていますよ」
そうして、地方首都ドローテアでのメインイベントは幕を下ろした。
ここで得たボロゾフ教授という素晴らしい繋がりは後々まで俺を助けてくれることとなる。
それだけでも素晴らしい成果と言えた。
そして、それだけでなくこれからの指針が作れたこれが本当に俺にとって一番大きな成果かもしれない。
この世に生れ落ちて、環境の変化になんとか着いていくことは出来ていたが、言ってしまえばそれだけだった。
環境への適応が限界でそれ以上の事が考えられていなかった俺に明確な目標、指針が出来たという、正に素晴らしい旅行だったと思う。
そうして、俺の生まれて初めての惑星旅行は幕を閉じた。