第10話
『僕にお小遣いを下さい!!』
その言葉に空気が凍った。
やはり、1歳児にお小遣いは早すぎたか?
よく考えたら、俺は既に個人所有の宇宙船という特大の贈物を貰っている。
ここで、更なるお小遣いというのは認められないか!?
そんな、内心で百面相をしていると父さんが口を開いた
「………うん?もしかして、それが欲しくて今回のカミングアウトをしたのかい?」
「だって、僕が本気であることと、その経緯を理解して頂けないと、ちょっと難しいかなと思いまして……」
『はぁぁぁぁぁぁぁぁ~~~……』
全員がため息をついた
「あのね、アル。家はそこまで貧乏じゃないわ。普通に唯「買い物がしたいからお小遣い頂戴」って言っても普通に必要額をあげたわよ。しかも、今回のように目的があるお小遣いならいい経験も出来るし普通にあげたわ」
な、なんと!?こんなまどろっこしい事をしなくても頂けたというのか!?
「で、でも宇宙船とか貰ったし」
「あれは、これから生活して行く上での必要経費よ」
「じゃ、じゃあ今回のカミングアウトは……」
「全く必要無かったわね」
なんですとー!!あんな思いまでして全力の勇気を振り絞ってカミングアウトしたと言うのに、それが全部無駄だっただと!!
俺は怒ったぞジョ〇ョーーーーー!!!!!!!
まあ、冗談は置いておいて、そうかぁ必要なかったかぁ……。
そんな風に黄昏ていると爺さんが声を掛けてきた。
「でも、そんなカミングアウトが必要な程お小遣いを貰う気だったのか?というかそのお小遣いを何に使う気だったのじゃ?」
確かに、食文化の達成という最終目標はさっき伝えたけれどもその途中の手段とかは何もまだ言ってなかったな。
「ええとですね、さっき僕の目標は食文化の再興だって話はしましたよね。それには昔食べられていた食材の復興がまず必要なんです。なので、それを栽培するための実験農場とかが必要なので、その土地を借りるお金や育成の為の人手が欲しいなと思いまして……」
そう、ボロゾフ教授との会談の席で考えていたのはこれだった。
もうこの宇宙で食用植物を栽培している場所が存在していないのならば、自分で農場から作るしかないじゃないか。
そう言う発想に至ったのだ。
だが、如何せん俺は子供である。
そんな子供に財力等あるはずもなく、勿論伝手やそれを為すための知識も不足している。
故にどうしても実家であるクーパー家の助力が必要と考えたのだ。
なので今回カミングアウトを実行した。
「成程、確かにちょっとした事業レベルになりそうじゃの。これならアルがカミングアウトしたのも頷けるか」
そうだろう。
やっぱり必要だったじゃないか。
「確かに、これを実行するとなると1歳児が貰える平均的なお小遣いでは足りないかもしれないね……」
父もそう評する。
父の言葉に若干不安になる。
「やはり、ダメですか?」
「いや、そんな事ないよ?別に実験農場の建設はいいんだよ。後はそれの運営の話でね。実は我クーパー家の伝統として嫡男は自分で事業を興して、その会社を10年以上経営しなければならないという家訓があってね。今回のアルの申し出は寧ろそれに匹敵するくらいの事なんだよ。だからどうするか悩んでいてね」
ん?どういう事だ?実験農場の建設は許可するという事か?
後はそれを俺個人に任せるか、クーパー家としてやるか悩んでいるという事か。
「うん決めた。これはアルに任せよう。アルは精神年齢20歳だと言うし、今回の古代の食文化復興ではアルが最も詳しいしね。この分野で我々では手助けは出来そうにないし。」
……つまり、許可ということか!
しかも、俺の自由にやらせてくれると!?
「い、いいんですか!?実験農場やっても!?」
「うん。いいよ。でも幾つか条件がある。」
ん?条件?
「今回アルはクーパー家としてでは無く、アルバート・クーパー個人として会社を設立し、事業を運営する事となる。その上で、必要な成人認定試験。これに3歳までに受かること。」
成人認定試験?なんだそれは?
「なんですか?その成人認定試験とは」
「成人認定試験は、このアルビオン王国において成人と認めるか否かの試験だよ。この試験に合格しないと銀行口座の設置や土地取引等も出来ない。勿論会社設立もだ。だから、それに必要な成人認定試験に3歳までに受かってもらう。3歳という期限があるのは、あと1年以上あるのにそんなテストも受からないのは、熱意が無いと見做して事業を却下するためだよ」
何という事でしょう、まさかそんな条件が付いてくるなんて。
「えーとお父様、その成人認定試験というのはどれ程の難易度なのでしょうか。」
「ん~中等教育完了レベルの学業レベルの問題と一般常識、一般倫理位を問われる位だよ」
……何とも言えないな。
この時代の中等教育のレベルが分からないし、一般常識や一般倫理は共通する所はあれど、完全には同じじゃないだろうから、一から勉強が必要だし……
うん、思ったより難しいかもしれないぞ。この試験。
でも、この試験さえ突破すれば俺の野望は一歩前に進めるのだ。
これくらいの事、障害にもならん!!
「分かりました。ではこれさえ合格すれば認めてくれるのですね」
「いや、もう一つ条件があるよ」
え?まだあんの?
「それはクリシュティナ・ボロゾフ教授の協力を仰ぐことだよ」
「ボロゾフ教授の協力ですか?」
「さっき言った通り、僕らは今回の事業では金銭的には援助出来るが、知識面では完全に無力だ。クーパー家の試練では確かに自分で会社を経営しなければならないが、別に実家の援助は受けても構わないんだ。実際僕の時でも実家の援助は受けてたし。でも、今回知識面等の支援が出来ない。故に、ボロゾフ教授の協力を得る必要があると思うんだ」
確かに、それは確実に必要となるだろう。
地球に現存する植物の種類や古代の人々の移民先等、普通では知りえない古代学の知識がこの事業には必要不可欠だ。
「分かりました。丁度明日、もう一度、ボロゾフ教授に会わせて頂くことになっています。その時にお願いしてみます。それで、その時になんですが僕が転生者であるという事を打ち明けてもいいでしょうか?」
先程からの両親達の反応を見る限り、そこまでこの記憶持ちという価値は珍しいというだけで注目には当たらない存在と見た。
なら、教授にお願いする上で話してしまってもいいのではないだろうか。
「うん、それはアルに任せるよ」
「分かりました。では教授には真実を話してみます」
そうして、その日の話し合いは終了した。
まずは、明日のボロゾフ教授との話し合いが第1歩だ。
俺は気合を入れてその日は眠りについた。