最近、裏山がおかしいんだけど。 その4。
「みんな、敷物 持ってるか?」
咳払い一つして気を取り直したルカ。ルカの質問に、みんな頷く。
「よし。じゃあ、みんな広げて繋げよう」
そう言ったルカに、
「ええ」
フルールさん、
「よっし」
ブクリエ、
「ですね」
ジュルナルちゃん、
「うん」
そして、ぼくの順に頷いて答えた。
「って、ブクリエ。敷物持ってるの?」
手ぶらなブクリエ、どうにも敷物を持ってるようには見えない。
「うん。それも含めてシュバちゃんのリュックに詰めといた」
あっさりと、あたりまえのように頷いて来た。
「手早いなぁ」
抜け目のなさに、やれやれの溜息のぼくです。
それぞれがカバンから取り出して、そうして広げられた敷物。
それに、ぼくたちは目を丸くすることになったんだ。
「それ、草で作ってあるの?」
カバンから出され広げられたそれぞれの敷物。
ぼくとブクリエはこの世界ではよくある、
武具や日用品を作るために加工した、木材の余った部分。
つまるところ、使わない革をなめらかにして、
強度をある程度保ったまま、折ったり巻いたりできるほど薄くした物。
ルカのは、草を編んで作られた敷物みたいで、
草独特のにおいがして、秋なのに春にいるような不思議な気持ち。
好きだな、ぼくこれ。
ジュルナルちゃんも、ルカとおんなじようなの持って来てて、
ぼく驚いちゃったよ。
ほら、ルカって自分の故郷独自のこととか物とか
言ったり持ったりしてるから、東の国と関係なさそうなジュルナルちゃんが、
そのルカと同じ物持ってるんだもん、びっくりするよ。
「うん、そうだ。これは蓆って言う物で、わたしの故郷では珍しくない。
でもジュルナルちゃんは、どうして蓆を?」
「ルカも、ジュルナルちゃんが同じの持ってるの、不思議だったんだね」
「うん。東の国とは接点がなさそうだからな」
へぇ、ぼくと同じ理由なんだ。
って思ったまんまを言ったら、
「そうか。そうなんだな」
って、なんだか嬉しそう。なんでかな?
「うち、親戚に東の国の人がいまして。フミオクって言う家名なんですけど、
ルカさんご存じないですか?」
「フミオク? ……ああ、聞屋の」
心当たりがあったみたいで、「ああ」って言うのと同時に頷いた。
「そうですそうです、そのフミオクです」
なんだか嬉しそうなジュルナルちゃん、こくこく何回も頷いてる。
「そっか、あそこの親戚なのか。案外世間は狭いな」
「そうですねぇ」
「いいなぁ、遠くの地方話で盛り上がれるって。
ぼくとブクリエ、海を隔てるほど遠くないし、
親戚にこれと言ってすごい人がいるわけでもないし。ねぇ?」
道中と同じく左隣にいる、両足を投げ出して座ってる幼馴染を見て言うと、
「だーねー」っと退屈そうに首を回しながら答えた。
「で、オジョールさん。それテーブルと椅子じゃない。
ルカちん敷物だって言ったのに、なんでまたそんな大げさな物を」
ブクリエは、右前で一人だけ優雅にテーブルに腰掛けるフルールさんに、
そう不思議そうに尋ねた。
ぼくから左回りにブクリエ、ブクリエのちょっと左前にジュルナルちゃん、
ジュルナルちゃんのちょっと右前、
ブクリエとぼくの間の辺りにルカって座ってて、
それでフルールさんは、ぼくから見ても少しだけ右前、
ルカより更に先のところで、四人全員を見える角度
ーーブクリエとジュルナルちゃんの間辺りに正面を向けて、
一人用の机と椅子を置いて、そこに座っている。
一人だけカバンがやたら大きくて真四角だったのは、このテーブルセットが理由だったみたい。
折りたためるのなんてあるんだなぁ。
「わたくし、外で食事する時はいつもこれなんですの。
皆さんのようなシートは持っていなくって」
少し困った感じで、フルールさんはそう言う。
「「流石お嬢様」」
ぼくとブクリエが同時に言うのは、しかたのないことだと思う。
「それならしかたないか。高さが違うのは距離を感じてしまうが」
恋敵であるのと同時に友人だ、って言ったのは本当にそのとおりみたいで。
ルカは邪気なく言ってるように見える。
……恋敵のところを否定しなかったルカ、
未だにひっかかってるんだけどね。
学校裏の湖での一件で女子好きの面が見えてはいたけど、
恋敵ってとこをさらっと、
まるでそれが当然のことみたいに、受け流すとは思わなかったよ……。
それぞれ今度はおべんとを取り出す。意図せず、みんなが出したおべんとの見せあいっこになった。
ちなみにぼくはサンドウィッチ。
なんで魔法使い、ウィッチって名前がついてるんだろうって思って、
前に調べたことがあったんだけど実はこれ、
パンに食べ物挟むだけで簡単に食べられるようになってるのは、
魔法使いが、長期間の魔法を維持する必要に迫られた時に、
集中を切らすことなく、空腹を解消できるように考えられたから、
なんだって。
特に砂漠での、とんでもない温度の変化を和らげるために結界張って、
その寒暖差を防ぐ、って言う理由で長期間の魔法維持が必要だったから、
砂漠の魔法使い、サンドウィッチって名前になったんだとか。
って言っても、後付けの可能性があるから信憑性は不明って、
その、サンドウィッチの名前の理由が書いてた本には載ってたけどね。
「ブクリエ、もしかしてそれ?」
「うん、パン一枚に具を挟んであります」
「やけにおっきいと思ったらやっぱり。
食べにくいから半分にしてから挟めって、
いつも言ってるじゃないか。具がこぼれちゃうだろ」
「ワイルドだろ?」
「勝ち誇った顔するな」
軽く突っ込み声で言うぼく。フフフって楽しそうに笑ってるブクリエ。
「まったくなぁ」
そんな幼馴染に軽く溜息だ。
「そうですよブクリエさん。こぼれたらもったいないじゃないですか」
って言うジュルナルちゃんは、パン半分にしてるぼくより、
更にちっちゃいパンだ。半分の半分くらいかな?
「ずいぶんちっちゃいねジュルナルちゃんのは?」
聞いてみたら、
「これくらいにしないと、わたしの口にはおっきくて」
そう言ってから、えへへっと苦笑のジュルナルちゃん。
思わず口元がほころぶぼくです。
「ルカ。その、丸っこい三角形の……なに?」
右手で指差す。
「ほんとだ、なにそれルカちん? 食べ物?」
「見たことございませんわね?」
「あれ、それ。親戚が来た時に船酔いで食べ損なっちゃったとかで、持って来てました。
たしか名前は……」
「おにぎり。おむすびとか握り飯とかも言うけど。
炊いたお米をこうしてにぎって、具を入れたりしてから海苔を巻く。
サンドウィッチと同じような物だよ。ちゃんと食べられる」
そうジュルナルちゃんの言葉を引き継いだルカである。
「べ……別に睨まなくてもいいじゃんルカちん~、あたち知らなかったんだからさぁ」
むくれるブクリエに、「言い方の問題だ」ってビシっと睨んだまま言うルカ。
「理不尽だー!」
だだっこみたいに言うブクリエがおかしくって笑ったぼく。
他の三人も笑ってるってことは、みんな面白かったんだね。
そしたらもっかい
「理ー不ー尽ーだー」
ってだだっこ声で言うブクリエ、ちょっと声がおっきくなって更に笑うぼくたち。
「ええい、もういいわい!」
そう言うと、サンドウィッチを半分辺りのところで掴むと、
そのまま手で半分に千切っちゃったのである。
「ワイルドだなぁ」
「だから言ったっしょ」
そう言うといきなり、今半分に千切ったそれにかじりついた。
びっくりするぼくたちを尻目に、「ワイルドだって」って
食べながら口に入れる前の言葉を続けた。
「ほんとに……そうだね」
苦笑いで答えるぼくなのでした。