最近、裏山がおかしいんだけど。 その2。
「まさか?」
「オジョールさんが間違ったって言うの?」
勿論、この変なあだなはブクリエが発した声だ。
ぼくと同じで、信じられないって声で、目を真ん丸くしてるのも
ぼくといっしょ。
「そ。そう、でしたのね。やっぱり」
顔を真っ赤にしたフルールさん、口元を左手で覆った。
その自信に満ちた瞳が、天井を向いてしまった。
「オジョールさんのこんな反応、初めて見た」
「ぼくも」
「わたしもだ」
ルカまでびっくりしてるよ。
「だから三人で、と人数を改めたんだ。間違ってる、と周りに悟られないようにな」
気を取り直して、そうルカは言った。たしかに答えがどっちなのか、
ぼくもわかんなかったもんね。
「な、なるほど。そうでしたのね」
「まだ。立ち直ってないみたい、フルールさん……」
よっぽど恥ずかしかったんだろうな、
あんな自信満々に言ったことが間違ってたの。
「で、その『本当の紅葉狩り』に参加するメンバーにあたちが加わったわけだ」
「わたしもですよっ」
「うわっ。また、いきなり出て来る……」
「颯のように現れるな、相変わらずジュルナルちゃんは」
そう。ジュルナルちゃんにだけ、ルカは呼び方が「ちゃん」なのである。
騒がしいけど、このジュルナルちゃんはちっちゃくてかわいらしい女の子だ。
気難しい印象のルカも、この子相手じゃ雰囲気がいくらか柔らかくなるんだ。
「いつものメンバーが、人気のないところに
向かって行くじゃないですか。なにかあるって思うに
決まってるじゃないですか。
で、追いついてみればフルールさんが。
総合武技フルール・エスクリムズが、
ショック受けた顔してる。
これは姿を見せなければ、と思ったわけですよ」
「やはり、隠密行動に天賦の才。魔法や武より、
忍としてその技を磨いた方がいいんじゃないだろうか、
ジュルナルちゃんは」
「シノビって言うのがなにか、よくわかんないけど。
たしかにジュルナルちゃん、隠密行動 うまいよね」
「いえいえ、わたしがこうしてこっそり動けるのは、興味があることについてだけですって」
「フフフ。てれてる」
ぼく、思わずにっこり。
「で、皆さん。いったいなにをしようってお話をしてたんですか?」
「紅葉狩りだ」
「モミジガリ? なにかを狩るんですか?」
「いや、違う。今赤く燃えるようになっているこの学園の裏山。
そこにみんなで行こう、と言う話をしていたんだ」
「あれ、なんか話がちょっとちが……なんでもないです」
ルカに目で制止された。でも、もう殆ど言い切ってるんだから、
止めても遅いよなぁ。
「と、言うわけで、だ。紅葉狩りと言うのは、秋に色づいた葉を眺めて
楽しむと言う風習なんだ」
「ややっこしいなぁ。狩りなんて言うからてっきりあたち」
「そうですわ。あの貴族の男。わたくしに嘘を教えるなんて……!」
忌々しげに右拳を握って、歯噛みしてるフルールさん。
ーー墓穴掘ったよね、今?
「ふむふむ。つまり。フルールさんは。
間違った知識をひけらかしてしまわれた。と、言うことですね」
ほらね。
でも、そんなにひとことずつ溜めなくてもいいんじゃないかなぁ?
「ーーはッ!」
「うわぁ。フルールさん。そんな、
固まった顔なんてしてほしくなかったよ……」
「あ、あのっジュルナルさんっ!」
すっごい焦りよう……必死だなぁ、フルールさん。
「えっ? あ、はい。なんでしょうか?」
顔見なくっても、目が真ん丸になってるのわかる声だな ジュルナルちゃん。
「おねがいですから。このことは、内密に……」
「あ、はい勿論ですよっ。わたしだって、
天下のフルール・エスクリムズさんのこんな姿、
大っぴらにしたくはありませんし。
わたしもファンの一人でありますればして、はい」
「ジュルナルちゃん。なに言ってるんだか、よくわかんないよ」
「はぁ」
喜びにあふれた息といっしょに、フルールさんはその豊満な胸の前で両手を組んだ。
ーーや、やめてよそんなしぐさ。ぼく。
ドキドキしちゃうんだってばっ、いろっぽくって。
「よかったですわ。ジュルナルさん。目を付けられたのがあなたでよかったです」
喜びいっぱいな声と顔だ。これ、他の人達が見たら失神するかも。
それにこんなこと言われたなんて知られたら、
ジュルナルちゃんがあぶなかったかも。
……でも、ジュルナルちゃんの隠密行動力なら平気かな?
「そっそそそそんなっ! そんなに目を輝かせてまでお礼だなんてっ!
とんでもござらぬっっ!」
「ご、ござらぬ?」
ジュルナルちゃんの特徴の一つ、真っ赤なツインテールをブルンブルン振り乱しながら、
もうそれは凄まじい勢いで、とんでもないですの動き。
それもすごいけど、今のござらぬって言う、
ジュルナルちゃん自身が、なに言ってるのかわかってなさそうな語尾に
びっくりしたよぼく。
「ま、まあ。なにはともあれ。勘違いが解消できてよかった」
ござらぬの衝撃がすごかったみたいで、珍しくルカが動揺してる。
「つまり、紅葉狩りと言うのはハイキングのことなんですのね」
確認したフルールさんに、「そういうことだ」って頷くルカ。
「だったら最初っからそう言えばいいのに。
そうすればオジョールさんが、あんな顔しなくて済んだっしょ?」
ブクリエのちょっとやれやれな感じのお疲れ突っ込みには、
「しかたないだろう。わたしの国では、
もみじを見ながらのハイキングをそう呼ぶんだから」
顔をプイっと横に向けて、ふてくされたように言うルカに、
ぼく 思わずクスっとしちゃった。
「思い立ったが吉日」
ルカ、一つ咳払いした後でそう言うと、
「今週の休みにでも、裏山に登りながら紅葉を愛でよう。
みんなでお弁当でも持って」
続けてこう言った。
この話を閉めようとしたのか、両腕をわーっと広げて。
「そうだね。あんまり時間経つと忘れちゃうし」
ぼくが言ったら、なんでかみんながクスクス楽しそうに
ほんわか笑った。
ーーぼく、なんか変な事言ったかなぁ?
まあそんなわけで。
今週末ぼくたちいつもの五人で、紅葉狩りと言う名のハイキングを、
アリサーナ学園裏山って言うものすごい近所ですることになったのだった。
☆☆☆☆☆
「よし。じゃあ、いこう」
ルカが、相変わらず燃えてるように見える山を見上げて言った。
ぼくたちは歩き出したルカに続く。今回はルカが先生だからね。
今日のぼくたちは私服。
このアリサーナ学園裏山は登山ってほどの高さはないし、
ちょっとぐらい道が不安定でも、足腰鍛えてるぼくたちなら
問題ないからさ。
ぼくはズボン生活が長くなって来たせいでスカート履く気になれなくって、
制服のズボン履いて上着を制服じゃなくて、体が動かしやすい服にした。
せっかくだから、緑地に黄色い葉っぱが
前におっきく刺繍されてるのにしたよ。
背中におべんととシート入れた、リュックしょってる。
ああ、男の子化がどんどん進行してってるなぁ。
今日のぼくのかっこ見て、みんなが微妙な顔してたんだよね。
これでも、持ってる服でおしゃれしたつもりなんだけどなぁ。
ぼく、たぶんおしゃれのセンスがないんだと思う。
女子として、それはどうなんでしょうかって、
思わなくもないんだけどさ。
それで、微妙な顔した一人、一番先頭にいるルカなんだけど。
かっこうは、いつもと変わらず制服姿なんだ。
なんでもかっこうは自由だから、なんだとかで。
制服そのまんまがありなら、ぼくもそうすれば……っていけないいけない。
たとえセンスがなくたって、イベント事ぐらいはおしゃれに気を使わないと、
男の子化に拍車がかかっちゃう。
話をルカのかっこに戻して。
左肩から右斜め下にカバンを下げてるんだけど、そのカバンが真四角なのは不思議。
それともう一つ、びっくりしたのは刀を持ってないこと。
そんなルカ、基礎体力強化教科以外で初めて見たんだよね。
「遠目から見ると恐ろしかったけど、近くで見ると案外綺麗だねー」
赤い葉っぱを見上げながら、ぼくの左隣のブクリエが、
珍しく女の子らしい感想。
そんなブクリエの今日のかっこうはって言うと、とにかく髪型が変。
だって、肩甲骨半分まである長い茶髪を、頭の上に持ってって、
片方三つの白いシュシュでまとめて、角二本作ってるんだもん。
でも、ブクリエは角って言うんだけどね。ぼくにはうさぎの耳に見えてかわいいって思うんだ。
それ言ったら、そうかなぁって不思議そうに言ってはいたけど嬉しそうに笑ってた。
なんでそんな髪型にしたのか聞いたら、
なんでもルカの出身の国には、そんな、頭に二本角を生やした
オニって言う魔物がいるから、ルカの国に対するリスぺくとなんだって。
リスがどうしたのって聞いたら、
「え?」ってブクリエに固まられちゃった。
変な事言ったのかなぼく?
でね。髪が角みたいに立ったまんま動かないんだ。どうしてって聞いたら、
角になってる髪の毛だけに、氷魔法かけて凍らせたんだって。
ぼく、それ聞いてびっくりしちゃったよ。
ぼく、ブクリエって、ぼく以上に魔法使うの苦手だと思ってたから。
素直にそう言ったら、
「おしゃれのためなら、魔法の一つや二つ使ってみせるよ」
だって。すごい執念だなぁ、って思ったよ。
けど……その髪型をおしゃれって言えるのは、
執念に対してとは別の意味ですごい……。
服装はって言うと、赤い無地の長袖シャツに、
黄色と黒の斜めしましま半ズボン。これもオニの絵をまねしたんだって。
寒くないのかな半ズボンで? それよりよく見つけて来たなぁそんな服。
勿論、ブクリエのかっこを見たぼくを含めた他メンバーが
ポカーンとしたのは言うまでもないです。
それでね、ブクリエってばひどいんだよ。
ぼくにおべんと持たせて自分は手ぶらなんだもん。
たしかにリュックには余裕で入るけどさ。