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デス・ラプソディ  作者: 月白 紫檀
第一章 門番と犬
2/3

男三人寄れば…

「イェーイ、俺の勝ちー!」


玄関前の照明に照らされたそいつは、仁王立ちで左手を腰にあて、右手でピースをしてみせる。


「そりゃそっちの方が速いに決まってるって…俺完全にスタートダッシュ遅れたし…」


何より今日はお前より走ってんだ、散々。追いかけっこしたばっかで体力消耗してるって言ってんのに走らせる奴いる?…あ、いたわ。俺の目の前に。


「ってか、俺よりウルの方が体力もあるし、走るのも速いじゃん。俺元から勝てっこなくない?」


「またそーやって言うー。何でやる前から決めつけてんだよ。やってみないと分かんないじゃん」


そりゃ(もっと)もだけどね?でも、やって見なくても分かりきってる事もあるじゃん?


「そうやってリーダーがいっつも弱腰だから、俺らのファミリーが舐められるんだよ」


「ごめんって…ほら、俺ってメンタル弱いからさ」


「そんなん知ってるよ」


…うん、ですよね。そう返ってくるとは思ってたよ。思ってたけどさ…こう、もうちょっと物腰柔らかな言い方とか無かった?超冷たいじゃん。過冷却水レベルで冷たいよ。


「自分でメンタル弱いって言っちゃうあたり、ホントにカッコ悪いよな」


「また直球でぶん投げて来たなぁ…」


割と心に刺さるから止めて…ってか、俺今メンタル弱いって言ったばっかだよね?そんなストレートに言う事ないじゃん…


「見てくれはカッコイイけどなー」


「完全にどっかからコピペしてきたみたいな言い方じゃん、それ…しかも棒読みだし」


「あ、バレた?一応フォローのつもりだったんだけど」


バレた?とか言っちゃってる時点でそれはもうフォローじゃねぇよ。しかも一応って何だ、一応って。フォローどころかガッツリ(えぐ)りにきてんじゃん。冷たいなんて生易しいもんじゃないよ、もうナイフだよナイフ。


「…あーはいはい、フォローどうもね。ほら、鍵開けるからちょっとそこどいて」


「はーい」


ウルは素直に扉の前からどく。…こういうところはホント犬みたいな奴だよなぁ。


ドアノブに鍵を差し込み、右に捻る。ガチャッという音が闇に響く。鍵を引き抜いてドアノブを右に捻り、手前に引く。チリン、とドアの内側についたベルが小さく鳴った。


「ただいまー!」


俺が入る前にウルが割り込んで元気よく屋敷に入る。


「おーう、お帰りー」


奥から四十代くらいの男の声が返ってくる。


「なーなー、聞いてくれよー」


ウルは階段を駆け下り、ピータイルの床をタタタッと走って行く。あんだけ走った後だってのに、よくもまぁ走る体力が残ってるもんだ。流石二十代、若いなぁ…羨ましいぜ。


…とか言ってるとまたヴァイパーに怒られそうだな。二十代が何言ってんだ~、って。確かに俺も二十代だけどさぁ…ウルと違って走るのは好きじゃないし、何よりインドア派だし。体力量が違うよ。


玄関からエントランスに続く階段をのんびりと下り、ダイニングの方へ歩く。コツ、コツ、と足音が響く。ふと、視界の端を緑色の太いホースの様な何かが動く。視線を移すと、そこにはクリスマスの装飾品の様に観葉植物に巻き付いた一匹の蛇がいた。


あれ、エミリーじゃん。いっつもヴァイパーが首に巻いてるからこういう所にいると何か違和感あるな。


「シュー」


エミリーは俺に気が付くとくぐもった声で鳴き、首をこちらに伸ばしてくる。…正直言ってどこまでが首でどこからが体なのか分かんないけど。


「何でこんなとこにいるんだ?ヴァイパーのとこには行かないのか?」


「シャー」


エミリーは目を細めてダイニングの方を見る。


なーんか気に食わないんだろうけど…ごめん、俺蛇語分かんねぇや。話かけたの俺だけど。やっぱヴァイパーに通訳してもらわねぇとな。


「今からヴァイパーのとこ行くけど…一緒に行くか?」


手を下から伸ばすと、エミリーは俺と俺の手を交互に見て、それからスルスルと上って来る。首元まで来ると、いつもヴァイパーにしている通りに巻き付いてくる。


「シャァ」


先程よりも若干高い声で鳴く。どうやら機嫌は悪くないらしい。


ダイニングのドアを開ける。部屋の中央にある長テーブルの上には大皿に盛りつけられた料理が並んでいた。


「おぉ、美味そう」


「でしょ~?俺も腹減っちゃったからさ~、結構な量作っちゃったんだよね~」


キッチンの方から眼鏡を掛けた茶髪の男が歩いてくる。薄紫色のエプロンを付けて、長い髪をポニーテールの様に縛っている。


…うん、確かに量が多いな。三人で食うにしては多い。でもまぁ…


「「いけるっしょ」」


ウルと同時に言う。


「すげぇ、同い年なのに全然声の高さが違うからハモリが綺麗」


笑いを含みながら彼は言う。確かに、とウルは一つ頷きながら、


「でも俺が高いんじゃなくて、リーダーが低いんだよな」


「そうそう、リーダーがね~。だって俺より低いっしょ?」


「そうか?」


うん、と二人は同時に頷いた。


「…ってか、エミリーさん?なんでリーダーに巻き付いてんの?」


こっちおいで、とヴァイパーが手を伸ばす。…が、エミリーはふいっ、とそっぽを向いてしまった。


「えぇ~…何で?どうして怒ってんの?」


あ、これ怒ってんのか。てっきり拗ねてんのかと思った。


「シャアー!」


エミリーは大きく口を開いて威嚇をする。蛇だからそこまでうるさくはないけど、耳元で牙を剝かれるのはちょっと…まぁ、俺に対してじゃないけどな。


「ゴメンゴメン!だって油使って料理してたからさぁ~…エミリーさんに油が跳ねちゃったら悪いと思って…謝るから!」


このとーり、と言ってパンッと手を顔の前で合わせて頭を下げる。…これじゃあどっちが立場が上なんだか分からないな。下手するとエミリーの方が上なんじゃなかろうか。


「…シャー」


小さく鳴くと、エミリーはヴァイパーの方へと移っていく。ヴァイパーの首元に巻き付いて大人しくなる。そこが所定位置だもんな。


「お、これめっちゃ美味そう!!なぁ、もう食っていい?」


ウルは瞳をキラキラと輝かせて俺を見る。


「あぁ、いいよ?別に。ちゃんと俺の分取っといてくれれば」


「わーい!いっただっきまーす!」


「いただきま~す」


そう言うなり、ウルはラザニアを自分の皿によそっていく。続けて別皿を取り出してハンバーグを盛りつけ始めた。ヴァイパーは自分用のスパゲッティを確保している。


ウル、お前小食じゃなかったのかよ。そんな量食えんのか?ってか、二人共結構な量を自分の皿に盛ってるけど、これ俺の分ちゃんと残るんだろうな?


若干の不安を残しつつ、階段を登り自室へと足を運ぶ。ガチャッとドアを開けて電気をつけ、ハットを壁についているフックに掛ける。ジャケットをハンガーに掛け、ズボンのポケットからスマホを取り出しベッドに腰かける。


23時に夕飯とか、やっぱどうかしてるよなぁ。ファミリーとして活動し始めて完全に生活習慣狂ってきたし。いやまぁ、俺の生活習慣は前から狂ってたって言っても間違いじゃないんだけど…完全に夜行性になってしまった感がある。朝は(ほと)んど起きれないし、昼間は眠いし、夜は寝れないし…。


ふと目線を泳がすと、カーテンが開けっ放しなことに気付き、窓際に歩いて行く。カーテンを閉める前に外の闇に目を向け、一つため息をついた。


まーだ捜索してるよ…いい加減諦めたらいいのに。今日はどんなに探したってもう手遅れだっていうのにな。確かあの人達って国家警察だったっけ?やれ、お国に仕えてるお役人さんは大変だなぁ。言われた通りに動かなきゃならないんだもんな。他人の言いなりになってばっかなんて、俺は絶対に嫌だけど。


シャッとカーテンを閉める。ベットのすぐ近くに置いてある小さな電気をつけてから、部屋の電気を消す。ふっと辺りが暗くなり、オレンジ色の暖かみのある灯りが室内を満たす。俺は室内をその状態にしたまま部屋を出る。再び一階のダイニングへ足を運ぶと、飯を前にジーっと座っている二人の姿があった。しかも、俺の分までしっかりとよそってあるし…。


「あれ?まだ食ってなかったんだ?」


「リーダーを待ってたんだよ!!」


ギャンッとウルが吠える。


「や~っぱリーダーがいないとね~」


「シュ~」


ヴァイパーの言葉にコクコクと頷くエミリー。全員して待っててくれたのか…なんかちょっと嬉しい。って、ヤバイヤバイ、こんな事考えてたら口元が勝手に緩んじまう。


ニヤけそうになるのを何とか抑えて椅子に座る。


「それじゃあ…いただきます!」


「「いただきまーす!!」」


パンッと手を合わせてから料理に手を付ける。


「これめっちゃ美味ぇ!!」


ラザニアを頬張りながらウルが言う。


「ホントに~?よかったぁ、そう言って貰えて」


スパゲッティを食べながらヴァイパーが笑みを浮かべる。その近くでは、エミリーが茹でただけの鶏肉を頬張っていた。俺はピザを食べつつスパゲッティを皿に盛っていく。


エミリーの鶏肉の分は省いたとしても、よく四品も作れたなぁ。しかもどれも結構な量だし、尚且つ美味いし。これ相当手間かかってんだろ。ホント何時から作ってたんだ?


「やっぱヴァイパーの飯が一番美味いよな!」


「それは言えてるな」


「あ、ほんとに?ありがと~」


なんせ俺らはろくに料理作らないし。作ろうと思えば作れるけど…面倒くさくなっちゃうんだよな。やっぱ食ってる方が性に合ってるわ。


「俺はウル君の料理も美味いと思うんだけどなぁ~」


「えぇー?あんなぐっちゃーって作ったやつが?」


ぐっちゃーって…もうちょい言い方何とかならなかったんかい。確かにウルが作ると雑炊とか野菜スープみたいなもんが多い気はするけど…


「そう言えば俺、リーダーが飯作ってんのとか見た事ないんだけど」


「あ~、そう言われてみれば俺も見た事ないかもなぁ」


「あれ?俺作ったことなかったっけ?」


「「ないよ」」


「マジで?」


「「マジ」」


言葉だけじゃなくて動きまでシンクロしてるし…ホント仲良いなぁこいつら。しかし、そうか…すっかり料理作った気でいたけど、作ってなかったのか。じゃあ今度作ってみるかぁ。…実際に作るのがいつになるか分からんけど。


…それにしたって、だ。


「あー!ヴァイパーずるい!それ俺が食おうと思ったのにー!!」


「そんなこと言ったらウル君だって、俺が食べようと思ってたやつ取ったじゃ~ん」


「こーゆーのは早い者勝ちだからな!」


「え~、じゃあこれは俺が食べていいよね?」


「駄目!!」


はぁ、騒がしいなぁ。三人で飯食ってると時間帯とか関係なしに騒がしくなるんだよなぁ。誰か一人でも欠けてると静かに食う癖に。まぁ、仲が良い分には問題ないんだけどな。


ギャーギャーと言い争いをする二人の傍で、エミリーは蜷局(とぐろ)を巻いて目を(つむ)っている。その図太い精神、俺にも分けて欲しいよ…

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