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デス・ラプソディ  作者: 月白 紫檀
第一章 門番と犬
1/3

日常茶飯事

「おい!やつはどこに行った!!」


「そ、それが…見失ってしまって…」


「見失っただとっ!?」


「も、申し訳ございません!!」


「…えぇい、手当たり次第に探せぇ!!」


「は、はい!!」


バタバタと慌ただしい足音が通り過ぎていく。俺は建物の陰からそーっと様子を伺い、それから一つ安堵のため息をつく。


…ふぅ、なんとか撒けたみたいだな。やれやれ、しつこい奴らだ。いい加減俺らを狙うのを止めて、もっと他の奴らを狙ったらいいのに。他の奴らの方が通り魔まがいの事をしたり、放火魔的な事をしたりで、よっぽど危険だと思うんだけどなぁ。


煙草を一本(くわ)え、ポケットからライターを取り出す。カチッという独特な音と共に青い火が付く。風を遮るように口元を手で覆いそれを近づける。


「………ふぅ~、やっぱ煙草は美味いなぁ」


ぼやぁっと白い煙が浮かび上がる。


ちょっと時間があるとすぐ吸いたくなるんだよなぁ。百害あって一利なし、とはよく言うけど…まぁやめられないよね。やめようとは欠片も思わないけど。


煙草をふかしながら月明かりも満足に届かない路地裏を歩く。奥に進むにつれて闇が濃くなり、足元も満足に見えなくなっていく。


さっさと帰って、風呂入って、今日はもう寝よう。追いかけっこしてめっちゃ疲れたしな。まぁ、警察と追いかけっこなんて日常的にやってんだけどさ。やっぱ疲れるもんは疲れるよね。


夕飯、俺の分まで作っといてくれてるかなぁ…。今日の食事当番には、たまぁに「あ、やっべ!すっかり忘れてた。…テヘペロ!」とか言われるんだよな。それ絶対忘れてたんじゃなくて、意図的にやっただろ!って俺は思うんだけど、あいつはそういう時に限って頑なにドジっ子を貫き通してくるし…。もう半分諦めたよね、突っ込むの。


「いたぞ!!」


「!?」


驚いてバッと後ろを振り向くと、さっきまで追いかけっこしてた奴の一人が俺に懐中電灯を向けていた。さらに、多くの足音がこちらに向かって近づいてきている様な気がせんでもない。


「やっべ…!」


「あっ、待て!!」


いやいや、待てって言われて待つ訳がないだろ。だって待ってたら死刑でしょ?俺そんなん絶対に嫌だもんね!


全力で暗い路地を駆け抜ける。


ガゥン!


「ぅおっ!?っぶねぇ…!」


俺のすぐ横を銃弾が通り過ぎ、無造作に置いてあった木の箱に穴をあける。ほのかに火薬の香りがした。


背後から狙って撃って来るのホント止めてくれって、マジで生きた心地がしないから。


「くっそ…!ちょこまかと動きやがって!」


ガゥン!


危な…あ、全然危なくなかったわ。なんか見当違いな方へ飛んでったけど…


ガゥン!ガゥン!


お?また変な方に行ったぞ?…これはもしや撃ち慣れてないパティーンか?


「やーい、へたくそー」


「何だとっ!?」


あ、怒った。…ヤバイ、これめっちゃ乱射してくるやつじゃね?軌道読みづらくなって最終的に当たるやつなんじゃね?


ガゥン!ガゥン!ガゥン!


案の定、あっちこっちに軌道がブレて全くもって当たる気はしない。当たる気はしないからいいけど…これ超軌道読みづらい!!こんな狭いとこでキレさせるんじゃなかったぁー!!


ガゥン!


うおぉ!?(かす)った!今掠ったって!!ちょっと頬のとこ切れたし!!へたくそなんて言って悪かったって!謝るから見逃して!


ってか、これ段々焦点あってきてない?このままだと俺デッドエンドコースになるんじゃ…それだけは何としても避けたいな。かと言って、対策をじっくり考えてる時間は無いし、奴の視界から逃れる術ってのもな…奴をどうにかする術はないもんか…


ふと視線を上げると、屋根の上に仁王立ちをしているかの様な人影が目に映った。


…あったわ、奴をどうにかする術。


咄嗟(とっさ)に左側に続く道へ曲がり込む。


「馬鹿め!そっちは行き止まりだ!!」


さーて、それはどうかな?


「もうお前に逃げ場は…あれ?」


走って来た男は呆然と足を止めた。


「おーい、こっちだ」


「ど、どこだ!!」


「上だ、上」


「上…?」


男が頭上を仰いだその時


ダダダダダッ!!


「うあぁぁぁ…っ!!」


マシンガンの発砲音と共に男の断末魔が聞こえる。男はドサリと闇の中に沈み込んだ。


「ひゅ~、あっけねぇーもんだな!」


マシンガンを下ろし、狼の耳のカチューシャに狼の尻尾のアクセサリーをつけた黒髪の青年、ウルフはニヤリと笑う。


「いやぁ~、助かった。ありがとな、ウル」


「あんなのも倒せないとかどうかしてんじゃないの?リーダー辞めたら?」


毎回唐突過ぎるんだよなぁ、この辞めろコール…


「酷くない?ねぇ。俺散々追いかけ回された後に頑張って梯子登ってきたんだよ?」


「そんなん俺の知ったこっちゃねーし。リーダー辞めたら?」


「まだ言う?俺はリーダー辞めないからね?」


「え?何?リーダー辞めるの?じゃあ俺がリーダーやるね!」


「いやいやオカシイじゃん!?俺はリーダー辞めないって言ったんだよ!?何でそっちに流れ持ってこうとしてんの!?」


「ちぇっ」


「ちぇって…舌打ちをするんじゃないよ」


まぁ、こうやっていじられるのは日常茶飯事だから別にいいけどね?なんかもう慣れたし、むしろいじられないと少し寂しいし…


「見ろ!あんなところにいるぞ!!」


「おい、一人増えてないか?」


「気にするな!撃て!!」


気にするなって…マジかよ。あんたらさぁ…仮にも街を守る警察だろ?他人の命をそんな風に軽く見ていいのかよ…


「リーダー、どーすんの?」


こちらに走ってきている警察をスッと目を細めながらウルは言う。


「そりゃあ勿論…」


「戦うか!?」


バッと勢いよくこちらを振り向く。


…そんなキラキラした目でこっち見んなって。


「んな訳あるないだろ。逃げるぞ」


「えーー!リーダーの腰抜けー!」


「あーはいはい、どーせ俺は腰抜けですよーっと」


まだまだ戦いたそうなウルフを連れて、夜風をきって屋根の上を走る。屋根から屋根へ、跳び移って逃げる。眼下に広がるのは、昼間の華やかさを忘れたかのように寝静まる街。そして、その眠りを妨げるかのように幾筋かの白い懐中電灯の光が闇夜を照らし出す。


個人的にはこんなスカッとした明かりより、ぼんやりとした橙色の灯りの方が今の雰囲気には合ってる気がするが…こればっかりはしゃーないな。警察がそんな明かり使ってたら真っ先に対象を見失いそうだし。今のままでさえ俺を見失ってるってのに。


ある程度警察を撒いたところで、梯子がかけてある場所から路地に降りる。


「ウル、誰かこっちに来てる気配はあるか?」


「んー…特にないかなぁ。においもしないし、足音も違う方に行ってる」


ウルフは嗅覚と聴覚が一般人よりもはるかに優れてるからな。相手がどこにいるかー、とか、近くに人はいるかー、っていうのを知りたい時に凄く有能だ。ホント、犬みたいなやつだよなぁ…いや、『ウルフ』だから狼か。


「おっけ。よし、帰るか」


「おう!」


ウルフと並んで街灯の明かりがろくに届かない路地を歩き出す。不思議と、先程よりは様々なものが見えるようになった。多分、この闇に目が慣れたんだろう。とは言っても、見えづらい事には変わりないけどな。


「そう言えば、飯は作ってから来たのか?」


「ん?ヴァイパーに任せて来た」


「…その言葉しょっちゅう聞いてる気がするんだけど、気のせい?」


「気のせいじゃない?」


いや、絶対気のせいじゃないだろ…。まぁ、ヴァイパーが飯作ってるなら俺の分の飯は心配しなくていいな。あの人は俺の飯だけ作らない、なんてことはないからな。たまに素で忘れる事があるくらいで…って、大丈夫だよな?俺の飯あるよな?


「一応聞いとこう、俺の分の飯はあるよな?」


「え?無いよ」


…ん?俺の聞き間違いかな?今、無いって聞えたような…


「ごめん、もっかい言って?」


「だから、リーダーの分なんて無いよ」


「…マジで言ってる?」


「むしろ何であると思ったんですかねぇ?」


「いやその考え方はおかしいじゃん…俺仮にもリーダーなのに、何で俺の分が無いってのが前提条件なんだよ…!」


散々追いかけ回されて腹減ってるっていうのに夕飯がないとか…どんな仕打ちだよ。悲しすぎんだろ。俺泣くよ?


「じょーだんだって、じょーだん。ちゃんとリーダーの分もあるから安心しろって」


「お、おう…」


若干の不安は残るが…まぁ大丈夫だろ。無かったら無かったで何か買ってきて食えばいいだけだしな。


「ってか、なんか血のにおいがする…リーダーどっか怪我でもした?」


「へ?俺?」


怪我?俺どっか怪我したっけ?…あ、そういやぁ頬のところ掠ったんだっけ。


「あと火薬のにおいもするし…撃ち合いでもしたの?」


「撃ち合いはしてないぞ?一方的に撃たれてただけで」


「だよな、リーダーが撃ち返すとかあり得ないもんな」


うんうん、と一人納得した様に頷く。


「あり得ないって何だよ、あり得ないって…」


俺だってやる時はやるんだぞ?逃げれば何とかなる時が多いから逃げてるだけであって…


「そう考えてみると、マジでなんでリーダーやってんの?」


「それ聞いちゃったら終わりじゃない?」


あとそんなピュアな眼差しでこっち見るなし。


「やっぱ俺がリーダーやった方が…」


「俺はリーダー辞めないからね?」


「えー」


「えー、じゃないよ。何でそんな残念そうに言うんだよ。そんな事言ったら俺がえぇ…ってなるじゃん」


「ふ、ふふふ…ちょ、やめてもらっていいですかね、笑わせてくんの」


「何で俺が悪いみたいになってんの?そっちが勝手にうけてるだけじゃない?ねぇ」


「ふふっ、はははっ!」


ウルは更に笑い出す。


笑いのツボが浅いんだよなぁ。一体今の会話のどこに笑う要素があったんだか…。まぁ、ギスギスして喧嘩ばっかしてるよりはよっぽどいいけどな。どっかの暴君揃いのファミリーはぶつかり合ってばっかだって聞いたし、やっぱファミリー内は平和が一番だよ。


まだ腹を抱えて笑ってるウルを横目で見る。取りあえず、この現場にヴァイパーがいなくて良かった。いたら絶対二人してツボって収集つかなくなってた。あの人もツボ浅いからな。


「ってか、いつまで笑ってんだよ…」


「大丈夫大丈夫、もう収まったから…ふふっ」


ホントかよ…


「めっちゃ笑ったら腹減って来たわ」


そりゃああんだけ笑ってたら腹も減るだろ。


「よし、どっちが早く家に着けるか競争しようぜ!」


「それマジ言ってる?俺もう疲れたんだけど…歩いて帰っちゃ駄目?」


「よーいドン、で走るぞ!」


「えぇ…俺もう走りたくない」


「よーいドン!!」


その声に慌てて走り出す。ちょ、速い速い!これ追い抜かすなんて無理だって、ついて行くので精一杯なんだけど…


ガッ


あ、イッテ!なんか蹴ったし!何蹴ったんだ?…あ、駄目だ暗くてよく分かんない。多分木箱かなんかだろう。こういう路地には沢山置いてあるからな。蹴った感じ空き箱じゃなさそうな音だったんだけど…気にしててもしゃーないよな。兎に角、今はウルを追いかけねぇと…

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