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住むストーリーは突然に!

自分は失業したらしい。朝職場に行くとシャッターにA4サイズの紙が1枚貼ってあった。


「OOは5月23日、△地方裁判所において、法的整理・破産手続きの開始決定を

 受けた。破産管財人には、XX弁護士(電話00-1234-5678)が選任されている」


続々と出勤してくる「元」同僚たち。ま、フロアが違えば顔を知っている程度

だけど。

そうこうしている内に誰かが「破産管財人」に電話をしたらしい。

分かってはいたが結果、従業員は全員解雇。

私物に関して後日引き取り、給与は1ヶ月分が後日弁護士より振込み。

会社都合の離職票が出るので失業保険は直ぐに申請出来、国民健康保険と国民

年金への加入手続きをするよう言われた。

また、会社借り上げの寮代わりのマンションは月末までに引き払う様に言われた。

月末までってあと10日も無いじゃんか。


入れない会社の前に居ても仕方無いとの事で、失業者一同は24時間営業の居酒屋

へと繰り出した。


面倒見は良いが定年間近だったハゲの元部長の音頭で乾杯する元同僚一同。

ハゲは語る。

「企業は生き物とは良く言った物だが、呆気なく終わる物だな」


そりゃそうだ。いつ倒産するか社員が知ってたら取引先も知っていると言う事に

なる。

そうなったら納入商品の取り付け騒ぎになって業務は行えない。言い方が正しい

かは分からないが社長の判断としては当然の事だろう。

経営者は孤独とはよく言った物だ。


最近家を建てたばかりの40代課長が青い顔で言う。

「家を建てたかと思ったら失業か。直ぐに就職が決まらないとローンも払えん」


そうだねぇ、最近少しは景気も良くなってきてるんだろうけど40代どころか30代

後半の就職すら厳しいって言うよね。

今の手取りの半分位で再就職出来れば御の字かな。


30代前半のやり手主任が答える。

「比較的仲の良かった取引先にお願いして拾ってもらうか、もしくはハローワ

 ーク通いっすね」


今年新入社員で社会人2ヶ月目の新人君が縋る様に問う。不安なんだろう。

それはここにいる全員が同じ思いだけどな。

「部長を始め皆さんはこれからどうするんですか?」


「俺はもうじき定年だったからなぁ。どっかで小じんまりした居酒屋でもやるさ」


20代後半の見目麗しい受付嬢は、

「永久就職も悪くないかなぁ。誰か私を貰ってくれる人いない?」


同僚の男連中が一斉に目をそらす。そりゃ今まで会社の為(半分以上は趣味だ

ろうが)ハニトラ要員として同業他社の担当を地獄に引き摺り落としてきた

人間とはどんなに容姿が良くても無理だろう。スティンガーっていう渾名が

全てをを物語っているよ。

その美貌を生かして婚活頑張って下さい。


ハゲ部長がこちらを向いて聞いてきた。

「藍野君はどうするんだい?」


コナンの目暮警部やバカボンパパと同じ41歳の役職無しのボンクラの自分に明るい

未来がある訳無いだろう!

「そうですねぇ、これも良い機会と思い田舎に帰ろうかと思ってます。東京と違い

 向こうは給料は安いですが物価も安目なので。再就職のアテは無いですが」



その後も盛り上がらない宴は続き、最後にハゲ部長は言った。

「みんなこれから大変だろうが、1度は同じ釜の飯を食った仲間だ。何か悩みが

 あれば相談くらいは乗る事が出来るよ」


そう言って全員とLINE交換をしてハゲ部長が場を締めた。根が面倒見が良い人

だけに微力ながら皆の力になりたいのだろう。

昼食時間と重なりオフィス街を行きかう人の中に混ざって行く元同僚の酔っ払い

たち。1つの会社の終わりの1コマだった。



会社で寮代わりに借り上げてたマンションは家具付きだったので引越し準備も

簡単に終わった。布団と折り畳みキーボート付きのサーフェス、Wifiルーター

の他の荷物は食器代わりにしていたキャンプ用クッカー、テントや寝袋、

折り畳みイスにコンロ等のキャンプ用品と数着のスーツと着替えくらいだった。

これらを型落ちの10年選手のSUVに詰め込む。乗用タイプのなんちゃってSUVで

リアゲートはそこそこの荷物が入るが、持ち物自体が少ないので難無く収納出来た。


唯一の趣味がソロキャンプ。キャンプ用品があるのはその為だ。

季節外れの殆んど人がいないキャンプ場で肉を焼き、焚き火とランタンの灯り

だけで酒飲んで過ごす夜が好きだ。そんな時に眺める空は満点の星空で幸せな

気分になる。

この趣味が職場でバレた時はめんどくさかった。

お決まりのキャンプ連れてけである。

めんどくさかったので2度と言われない様に重たい装備を皆に持たせロープで

10m位崖を降りて行かないとたどり着けないスペシャルな山の中に案内した。

素晴らしいロケーションだったが、あまりにハードな場所で重たい荷物の大半

が、瓶入りのワインやら日本酒や肉だったのでその後はキャンプ連れてけとは

言われなかった。良い事だ。


と思ったら巷で何やら女子高生がソロでキャンプするマンガが流行りアニメも

放送されたらしい。またキャンプに連れてけと言われる前に会社が無くなって

本当に良かった。

何故かって? 俺はソロキャンが好きなんだ。ゾロゾロ人を引き連れて引率の

先生みたいな真似はしたく無いんだよ。性格悪いって?上等だよ。悪くて結構。


危なく積み忘れるとこだったが気付いて良かった。赤い金属製のガルウィングの

ケースに入ったコールマン200Aランタン。子供の頃に今は亡き父から貰った物

だ。 ガソリンランタンの灯りは見ていて落ち着く。

バースディランタンで自分の生年月日と同じ製造年月がタンク底に刻印されて

いる。某オークションサイトで見たら程度の良い物は3-4万円で取引されている

らしい。

倒れたりしない様に後部座席にシートベルトで固定する。


さて、首都高から東北自動車道経由で約1,200km、帰郷の旅のスタートである。

途中仙台で牛タンを食べ、遠回りだが秋田を経由してきりたんぽ鍋を堪能して

行く予定だ。フェリーで函館に付いたらイカ刺しで一杯も良いな。



何年ぶりに帰る実家だろう、何か親孝行でもと思っていた時期が自分にもあり

ました。


実家の母に電話すると母は無慈悲にこう答えた。

「あんたの部屋無いよ。私の趣味の洋裁部屋になっているから帰ってこなくて

 いいよ」


ちょっ、まてやクソババァ!何してくれてんだ! なに?1回家を出た息子が

帰る場所があると思うな?考えが甘い?ふざけんな!


とか老女とのバトルを繰り広げていると、狭いマンションなんだからここに

来なくてもあんた遺産分けでお父さんの一軒家もらったでしょう?とか言っ

てきた。


一軒家と言えば聞こえは良いが、築60年以上は経っている倉庫代わりに使用

していた建物だ。元は学生向けの下宿だったので部屋数は有る。広めの8畳

が2部屋に5畳程の部屋が8部屋。これが2階。

1階は16畳程の居間が事務所スペースになっていて食堂とバスルーム、この

他に6畳部屋が2つ。

車も3台位は停められるスペースは有る。アスファルトじゃ無く砂利だけど。

問題は亡き父が残した、と言うか処分してない何だか分からない荷物の山。


2階の8畳2部屋と1階の事務所スペースと食堂とバスルーム、これ以外の部屋

の全てに処分してない荷物がつまっている。中身が何かも分からない。

業者を呼んで廃棄処分にいくらかかることやら?

晩年の父が芸能人の世田谷ベースにちなみ「父ちゃんベース」と勝手に呼ん

でいた場所だ。

父の死後は近くに住む遠戚の叔母さんに幾ばくか支払い建物の管理をお願い

している物件だ。元気なんだろうか?ヨシ子叔母さん。


「だからあんたはそっちに住みなさい。電気もガスも水も止めて無いから」


そういって電話をガチャ切りされた。

30年以上前に一度来たきりの場所にスムーズに行ける訳が無い。ナビに住所

を入力し何とかたどり着きました。

車も古けりゃナビも古い。しっかり昔の下宿名で表示されてたのには少し

驚いた。


閑静な住宅街の中にそれはあった。十分なビンテージ感を醸し出していたが、

モルタルな外壁に対して斜め向かいの木造の木の板の壁の家が良い味を出し

ていてちょっぴり新し目に見えるのは比較物があるからだろうか?


車を降り玄関に立つ。昔ながらのガラスが入った木製の引き戸を開ける。

鍵は掛かって無かった。


ガラガラガラ~。ヨシ子叔母さ~ん、入るよ~。

そう言ってドアを開け中に入ったら……、



着替え中の女子高生がいた。



上は純白の夏用セーラー服、下はピンクの縞パンに黒のニーソで今から

スカートを履くのか脱いだのかは分からない。

ポニーテールで耳にイヤホンを付けてるがコードが見当たらないので多分

Bluetoothイヤホンだろうなぁって。

だから呼びかけても引き戸が開いても聞こえなかったんだな、納得だ。


ってそうじゃない!この状況はマズイ!


「すんませんでした!!」


ガラガラピシャン。

女子高生は固まったままだった。事故とは言え申し開きが立たない。

これなんてTo LOVEるな場面?

通勤の山手線で痴漢に間違われない様に両手で吊革につかまっていた

10年以上の俺の努力がこんな所で葬られるとは……。


とか思っていたらガラガラ~っと引き戸が開き、恥じらいで真っ赤に

なった顔をした女子高生が出て来て話しかけられた。


「あ、あの!藍野さん、ですよね?ヨシ子叔母さんから聞いてます。

 私、紅谷 沙希と言います。沙希と呼んで下さい。よろしくお願い

 します!」


何かよろしくされたので、よろしく仕返しといた。

建物の中に入ると、


「先程はすいませんでした!」


と謝られたが、こちらも不用意に入って行ったので悪いのはこちらと

謝り返す。

太ももに食い込んだニ―ハイがせくしいだったとかお茶らけて見よう

かと思ったが滑ったら気まずいと思いオヤジギャグは自重した。

話を続けるとヨシ子叔母さんは年金を貰える歳になり亡くなった旦那

の遺族年金と共に悠々自適の生活になったので建物の管理係を沙希ちゃん

に押しつけ、もとい譲り、婆友数人で諸国漫遊の旅に出たらしい。


沙希ちゃんは、事故で両親を亡くし小学生の時にヨシ子叔母さんの家に

やってきたそうだ。色々お手伝いをしている内にここの管理を任され、

完ぺきにこなせる様になった辺りでヨシ子叔母さんは引退し新管理人と

して沙希ちゃんが頑張っているらしい。

ちなみに居住区域は勿論この建物の2階の8畳間で、その隣が俺の部屋

らしい。


やったー!現役JKとひとつ屋根の下!ってうるさいわ!親子位の歳の差

で何をしろっちゅ―ねん!

荷物の積み下ろしも小一時間ほどで終わり、ニコニコしながらこちらを

見ているJK1人。

えーと、困ったので取り敢えず近所の居酒屋に晩飯に誘ってみた。

喜んでお供して頂けるそうだ……。

こうして奇妙な共同生活がスタートしたのだった。





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