マーケティングの神様が微笑む時
現場で叩き上げた後藤三世のマーケティング持論が冴え渡る回です。
陸奥六郎が珍しくテクニカルな質問をしてきた。
「コンシューマー向けのプリンタとスマホやタブ関連のご質問です。WiFi対応プリンタって、何台位、何オーダー同時に受付可能でしょうかね。式場の宴会中に、不特定多数からプリントするソリューション、そんなかっこいいものじゃないですけど、現在、検討中です。ブラブラ病が酷いようでしたら、スルーしてください」
後藤三世がスルーせずに返事してきた。
「考えますね。三時間おきに抗生物質を投入して思考能力を確保しています。プリンタはインクジェットですか? それとも、レシートとかラベルを印字するプリンタですか?」
「インクジェットです」と陸奥六郎が即答。
「だとすれば、印刷に時間かかりますから、そこがボトルネックです。不特定多数から印刷は可能。但し、印刷終わるまでは、待ちますよ。最初、このソリューションが編み出された時は、打ってる間は受付することができなかった。今のマシーンはできるかも。エプソンさんに聞くのが早いですね。複数台置くのが良いと思いますね。多数対多数の使い方です。高速インクジェットか、カラーレーザーで印刷スピードを上げるべきですね」ここは、後藤三世の得意分野なのでどんどんアイデアが出てくる。陸奥六郎が相談を続ける。
「私の席のシマは、事務機なのにカウンター料金の取れないリテール機には興味ないようです。私の策は、モノ売りでなく、たった一万五千ボッタクリ円のプリンターに、百枚で一千ボッタクリ円位の光沢写真紙を付けてあげて、宴会中にその枚数内ならプリントし放題というプランです。一応、2台パラレルが安心だと考えていました。大所二社のインクジェットが、今日も地元の電気屋で売れないのか、箱を通路に山積みで置いてました。ヒフ民の会社で代理店でもやりますか(笑)」
「十一万ボッタクリ円の売上で利益はユニファウスト並みだとすれば、誰しもモチベーション上がらないでしょうね。一億一千万なら、みんな目の色が変わるでしょうか?」
陸奥六郎が実情を話した。
「プリンターソリューションは、あくまでおまけで、年間いろんな挙式場にペーパーアイテムを売って、年間一億、二億ってイメージですかね。目の色変わるかどうか、実行する本人の意思によるところが大きいのでは――」
「まあ、なかなか興味深くかつ面白い課題です」
「そうです。容易くない事だけは確かですね」
後藤三世がいつもの調子で話し始めた。
「なかなかこの世の中、容易なことは少ないですよ。あらかじめ好立地な商業ビルのテナント管理、これは儲かります。賃貸物件にテナント紹介で一ヶ月分の紹介料とか、これほど、高い利益率の仕事ないですよ。斜陽会社が、エレキのメーカも含めて、どんどんこの業界に新規参入する理由は明らかですね。例えばですよ。ウエディングの相手を紹介するかわりに、式場、封筒印刷全てオーダーするというビズなら成立するのでは? 成約時、地図を買うのも条件にすればいい。更に相手を紹介する代わりに宗教に入ることを条件にして、宗教法人と提携、ウェディングに必要な印刷物は全て御社に発注が条件というのは? この時代、有名チェーン店の飲食店でさえ、悩みは集客なんです。これを逆手に、ビラ印刷を受けるかわりに、そのお店の近隣でビラ撒きを承ります。というのは? これは、かなり有効だと思います。店長と仲良くなって他の店のビラ印刷も受ける。本部に話を通してもらって、本部からもビラ印刷、ビラ配りの請負を受ける。そうすることで口コミであの人が歩いて来れば、ビラを撒いてくれるということで、更に仕事が入ってくる、仕事が仕事を呼ぶという算段で!」
いつもながらの後藤三世節に半ば呆れ気味に陸奥六郎が返した。
「プリンターソリューションというお得意のテーマから、よくぞそこまで―― ウエディングビジネスソリューションやビラ印刷まで、果ては、必殺ビラ配り人のアイデアまで広範囲な話が出来て光栄です。少しフロンティアな視点で、脳がリラックス出来たでしょうか。今時、直接ビラ巻きは、後藤三世サンが昔、大否定していた営業戦略、『飛び込み営業』ですよ。内勤と病だれで、脳が鈍化してないですか(笑)」
「披露宴プリント、面白くないですかね―― たぶん、ウエディングは立ち上げ後、外されて地図オンリーに戻るでしょう。マップあんどネーチャン営業に戻れるなら良いですね。ウェディングビズ、結婚相手を紹介できれば、超キラービズだと思うんですがね。社会貢献にもなるし。客が結婚した後、不動産もご案内できるし、新婚旅行もプラン作ってあげられるし、新居の家具の購入も手伝ってあげられますね。しかしですよ、ビラ巻きは、動物のように移動できない、植物のようなお店にとって、最も効果的な集客なんですよ。竹本ヨーダ尊師が、この惑星で初めて開発したから、いつもオススメしている駅の改札向けで有名なNFCで本丸に誘導とか、私はうまくいかないと思ってますよ。当然インターネット経由で誘導もダメ。飲食店に来るような層はリアルなものしか理解できないからです。なので、ウェディングの来賓の爺ちゃん、婆ちゃんに、紙媒体にリアルタイムに何かを印刷するというアイデアは良いと思ったのです。ただ、スマホから写真印刷は今一ですね。ビラ配りは飛び込みとは違います。私が惑星横浜でビラをたった百枚撒いただけで、ビルを四棟持ってるオーナーから携帯に直に電話入りましたからね。何と言われようが、ビラ巻きは効果的なんですよ。私は、昔の実行が伴わない青っちろい理論派のマーケティング時代から、ブローカー同士の駆け引きあり、殺し合いありの『せんみつ』営業と量販店の販売員の経験で数十段研さんしましたからね。理論と実践が結びついた今の私は、昔とは大違いなのです」
陸奥六郎が濃い話に飽きたのか話題を変えて来た。
「榊原くんは、とうとうユダヤの手下として、郡司技術にジャパンマネーを投資させるディストリビューターに転身したんですね。サムライが、刀狩りという面白い構図で、惑星アステロイドの羽柴秀吉って感じでしょうか?」
「御用学者ですね。どうしようもない。このまま戦争に突入ですね。ある意味戦争になったほうが、町工場は助かるかも知れませんね。七月崩壊も噂されてますが。どうなんでしょう?」と後藤三世。
陸奥六郎がビジュアルホンを切ったので、数時間後、後藤三世がかけ直した。
「やっと週末ですね。そちらも全国的有名幼女事件があったり、くまもんも目立ちますね。こちらは、全社的なパソコンの取り替えがあって、やっと私の得意分野での実力を見せることができました」
「全国的な幼女事件ってなんですか? 『家政婦は見た、女子高生行き人吉温泉、湯けむり殺人事件』の事ですか。幼女ではないでしょう。パソコン取り替え、社内情報システムか総務の仕事ですね。自分の特性が、分かってきた感じでしょうか。五十人から百人位の会社なら、その仕事とグループウェアと出退勤管理を絡ませた情報共有システム管理は、まだポテンシャルあると思いますよ。オーナー経営者とコネクションあることが条件になりますけど」
「流石、陸奥六郎先生。私は、七月一臂付けで総務課の情シス配属になりましたよ。3ヶ月で部署配属変更で、異例の人事でした。陸奥六郎占い師ビンゴですね。自分も今日、辞令を受け取り、びっくりです」
「それは、おめでとうございます。是非実力を発揮されて、情報シスしながら、社内ベンチャー制度に手を上げて、不動産ブローカーアンドプロパティマネジメントでモニターの前に座っているだけで、ビットコインがゴロゴロ入ってくるメカニズムを構築して・・・目指せ、逆転ツーベースヒットですね!」
「それはないですね。そんな冒険はゼロな社風ですからね。この3ヶ月コツコツと仕事をしていたのが、良かったと思いますよ。地道にコツコツ、逆らわず、争わず、がモットウです。こちとら、破綻した身の上ですから。それにプラスして、文句も言わず愚痴も言わずですね」
陸奥六郎は調子が出てきたようだ。
「なかなか大変な、忍の字ですね。その状態は、今までの後藤三世さんにとっては、苦痛この上ないのでは―― でも、評価頂くというのは有り難い事ですよね。私も昨日付けで、なぜか宣伝部開発課という、一人部署に名前が変わりました。コントロールが会長から社長に変わり、ブライダル立上げと地図は同じですが。プラスアルファ開発ですね。私が意外とインテリジェンスなの、社長は知らなかったと言ってました、、ハハハッ。来月は、惑星アステロイドの首都テラポリスです。共に、がんばりましょう!」