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究極ミーチャ  作者: イナナキゴロー
9/30

イリヤ邸にて

挿絵(By みてみん)


【使用素材】

・Model リサ(R-18) Ver3 データ製作者:クラ_Td731

・Model tda式チャイナ輝夜 モデル:Tda モデリング:やまもと

     製作:deathell 改造:みさぽん 改変:レッドブレイド

・BackGround 高級洋館ステージver2.1 制作:@Ai

・Pose Gintoki&Hijikata pose 製作:lite

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イリヤの数十ある邸宅の一つ。

その一室にミーチャとパイランはいた。


豪華な装飾のついたソファに少し間を開けて並んで座っている。


階下から巨漢のプロレスラー・ウドゥームの野太い笑い声が響く。

選手たちは皆、お披露目会終了後にイリヤの邸宅に招かれていたのだ。


さらに、ミーチャとパイランだけ別室のこの部屋へと通されていた。

執事の話では、大会前に選手の中から数人、この応接室に通され

イリヤと話をするのだという。


お目が掛かったということなのだろう。

しかし、どうにも落ち着かない様子のミーチャは

ふと、部屋の脇に設置された美術品の一つに目を向けた。


それは、箱庭であった。

内側が黒のビロード絨毯の上に置かれたフィギアの数々。

うろつく三人の異形、祈る女たち、中央に置かれた大きな扉。

そのどれもが異様な雰囲気を放っていた。


「あれを気に入りましたか?」


突如ミーチャの耳元で(ささや)くようにそういったイリヤ。

鼻腔をくすぐる甘い香りとゆるりとした気配。


ミーチャの全身を悪寒が貫いた。


拳法家の自分が背後に立たれたことを気付けなかったのだ。

では、彼女は気配を断って忍び寄ったのか?


いやそれは違うと内心で首を振るミーチャ。

にこやかに微笑む彼女の立ち姿からは

玄人然(くろうとぜん)とした気配は微塵(みじん)も感じなかったのだ。


ただの気の緩みであると自戒したミーチャは

イリヤの問いかけに、短く頷く。


それを受け、イリヤは箱庭に近づきこういった。


「これは、最古の文献の一つ"紅海手記(こうかいしゅき)"の中の一節をフィギア化したものと

 されています。


「箱庭は付け足したものですが、フィギア自体は相当に古く

 5000年の歴史を誇るパレナ歴以前のものの可能性があるそうです。


イリヤはゆっくりと椅子に腰掛けた。

そして少し声色を変え、恐い声でこういった。


「フィギアは、全部で7体。

 神に仕える3人の従者と門の前で祈る4人のシルフたち。

 

「彼らは心を病み寝所に閉じこもってしまった神をひたすら待ち続け

 この暗い部屋で何億年もすごしていたようです。


「それはそれは気の遠くなるような悠久(ゆうきゅう)の時間。


「神の到来を、(まばゆ)い光を、彼らはひたすら待ち続けていたのです。


「でも、神がその寝所から出てくる事はなかった。

 彼らは絶望し、失意の元で従者の一人が書物を作成したとされています。


「その書の最後にこう記されているんです。

 あなたは私であり、私はあなたである。そこは私の世界であり、

 私が作り出した仮初(かりそめ)の世界だと。

 文章から、こちらに向かってそう語りかけをしてるんです。


「ゆえに、私たちが書いた書。紅海"手記"と呼ばれているのです。


「まあそんな話はありえませんが研究者の中には信じ込み

 気がふれて、その命を絶った者もいると聞きます。


「もしかしたら本当に、この世界は仮初のもので

 私たちは彼の頭の中にだけ存在する者たちなのかも?


「そして、その彼は出ることもできない暗闇の中で

 いつ覚めるとも知れない悪夢の中、今ももがき苦しんでいるかもしれない…


「彼の悪夢が終わる時、この世界も彼とともにひっそりと終わりを迎える……

 私たちは彼のそんなまどろみの中にたゆたう夢の幻影そのもの。


「そんなことを……お二人は考えたことはありませんか?


イリヤはそういってちらりと二人を見た。


ミーチャは泰然と構えていた。

しかし、パイランの顔は怪談話で恐がる児童そのもの。


イリヤがそれを見て吹き出し、後追いでミーチャも見て顔を伏せて笑う。


「ごめんなさい。恐がらせてしまって。今の話は冗談です。

 いえ、正確には冗談ではないのだけれど、冗談ということにします。


「それに紅海手記には算数の設問集のような

 記述もあって古の時代の教科書だとする説が有力なんです。


微笑を(たた)え、痴態を見られて不満顔のパイランの肩に手を起き

彼女に謝罪するイリヤ。


その脇でハタと動きを止め、思案するミーチャ。

今の話に何か聞き覚えがあったのだ。


いやもっと後、話の後のイリヤのセリフ。

それに何かピンとくるものを感じたのだが

それが何かがわからない。


巡る疑問は脇に置き、イリヤやパイランと軽い雑談に応じるミーチャ。


途中、大会ポスターの写真を撮りたいというイリヤの申し出で

ミーチャとパイランは別室に移動し写真を撮影。

その後再び応接室へと移り、語らう。


深夜2時。

酒を飲みすぎミーチャの肩にもたれかかるパイラン。


それを口実にミーチャは家に帰ることを告げ

宿泊を勧めるイリヤの申し出を断りつつ

簡素な別れの挨拶とともに足早に部屋を後にする。


ミーチャとパイランは仲が良くなったわけではないが

お互いあまり酒の席での会話が得意な性分ではなく

一刻も早く帰りたいという利害が一致していたのだ。


通路を並んで歩く二人。


階下へと繋がるエレベーターまで20mほど。

ゆっくり歩いても数十秒もあれば辿りつく長さである。


しかしこの道のりが人生で初めて味わうもっとも長く濃密な時間となることを

この時の二人の少女はまだ知るよしもなかったのである。

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