龍姫パイラン vs 殺し屋ロア
【使用素材】
・Model tda式チャイナ輝夜
モデル:Tda モデリング:やまもと
製作:deathell 改造:みさぽん 改変:レッドブレイド
・BackGround 夜の森 DD6 製作:怪獣対若大将P
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パレナ市郊外の森林公園。
そこで対峙する男と女がいた。
一人は皮のジャケットを身に纏うガタイのいい男。
クローネファミリーに属する殺し屋ロア=ミハイル。
一人は黒を基調としたチャイナドレスを身に纏う少女。
ファーランド系華僑に属する拳法家ソウ=パイラン。
二人は夜の公園で命のやり取りをしていたのだ。
街中でのロアの強襲にパイランが対応しつつ
この公園にまで逃げてきた格好である。
仕事上、狙われる理由はいくらでもある。
今回も直近の仕事が関係した報復といった所だろう。
そしてこのロアという男なかなかの腕前であった。
すでにいくつかの拳足の応酬がなされ
パイランの打拳が何度もロアに突き刺さるも
ロアの分厚い筋肉と、金剛という身体硬化法によるスジの引き締めで
すべて無効化されていた。
この男、生半の功夫ではない。
さらにパイランは右の胸部から出血していた。
ロアの鍛えられた指が彼女の胸を引き裂いたのだ。
心臓狙いの貫き手が捌かれる前に、とっさにその手首を
貫き手から開手に変化させ、パイランの乳房を狙ったのである。
コンマ何秒での対応力。
舌を巻かざるを得ない技の妙。
勝利を確信したのか下卑た笑みを浮かべるロアに
泰然とした様子でパイランはこういった。
「では…」
「次で殺します。」
「できれば、今ここで引き下がって頂けるとありがたいのですが?」
その言葉を受けロアは、何をバカなと吐き捨てパイランに踊りかかる。
今までの応酬でパイランの動きを見切っていたのだ。
しかも手傷を負わせた分、こちらが有利。
引き下がる理由などあろうはずもない。
ロアの動きに対応し
パイランは夜陰にまぎれ、ぬるりと動いた。
初めて見せたパイランの本気の速度。
ロアの貫き手をかわし、肘で顎を上向きにカチ上げる。
倒すためではない、上を向かせるためだけの緩い動き。
刹那、ロアの体は縦に高速回転する。
パイランが、ロアの踵を手で払い投げを打ったのだ。
そしてそのまま3回転するとロアの体は
地に足からふわりと下りる。
それだけである。
パイランがやったことはただそれだけ。
なんと、この何のダメージも無い一連の行動で
パイランは、ロアに背を向け歩きだしたのだ。
何が起きたのかわからないロアは
しばらく崩然としたあと激昂。
後ろから彼女に襲い掛かる。
しかし、その足はもつれ、目はかすみ
満足に歩くことさえできなかった。
そして地に倒れる。
先を歩くパイランはゆっくりと後ろを振り返り
ロアを上から見下ろしながら憂いを秘めた声でこういった。
「『加速損傷』……というものをご存知ですか?」
「頭部に一定以上の"加速度"が加わった時、
脳と頭蓋とを繋ぐ血管が切れることで生じる致命的な脳損傷のことです。
「あなたにはその加速損傷を作為的に誘発できる
裏の投げを打たせてもらいました。
「ですがまだ事切れるには時間がありますね……
それでは加速損傷の被害者の多い柔道の話でもしましょうか。
「今年はすでにパレナにおける部活中の事故で
9人の児童たちがこの加速損傷で命を落としているそうです。
「頭を打たなくても投げられただけで起こりうるという
特異性ゆえに頭痛などの初期症状を見逃されやすいということと。
「児童の体力を考慮しない無理な練習メニューや水分補給の制限、
実力差のある相手との組み手などがその原因となっています。
「しかしメディア、学校でも率先して警鐘を促すことはありません。
柔道は金メダルを狙える大事な国策競技ですからヘタに騒がれても困るのでしょう。
「子供たちの安全より、たった7万メセタの金メダル…
「命の値段が安いというのは、どこでも同じようですね。殺し屋さん…」
パイランの語った言葉は技の説明や世間話というよりも
子守唄の性質を帯びていた。
脳に致命的なダメージを負った者へ向けた
死の恐怖を和らげるための慈愛のメロディ。
ロアの絶命を確認したパイランは
そっと、公園を後にする。
月光に照らされた彼女の双眸は
深い悲しみを湛えていた。