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究極ミーチャ  作者: イナナキゴロー
12/30

君を想う②

挿絵(By みてみん)


【使用素材】

・Model tda式チャイナ輝夜 モデル:Tda モデリング:やまもと

     製作:deathell 改造:みさぽん 改変:レッドブレイド

・BackGround skydome3_star 製作:youkan

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「うッ!」


パイランは浴室内で胸を抑えてうずくまった。

その背にシャワーのまばらな水滴が降りかかる。


イリヤの邸宅で、(はか)らずしも行なわれた

ミーチャとの戯れの傷がまだ癒えていないのだ。


潰れ膨らんだ片方の乳房の先端から血が流れる。

水に流れる血の流れを追うパイランの精神は過去へと飛んでいた。


ファーランドの孤児院で育った幼年時代。

愛の無い職員たちの冷淡な対応と

寒くてひもじかったことをパイランは憶えている。


程なくして拳法の才能に恵まれていたパイランは

華僑一族のソウ家に目を賭けられ引き取られることになった。


温かい家、おいしい食べ物、甲斐甲斐しく仕えてくれるメイドたち。

孤児院の暮らしとは雲泥の差のある豊かな生活。


彼女はまさに幸福であった。

だがその幸福も長くは続かない。


他流派試合に挑んだパイランは相手の柔道家に強かに投げられ

脳に致命的なダメージを負ってしまったのだ。


ソウ家は、彼女の怪我が完治の見込みがないと知るや

あっさりと彼女を捨てた。


場末の不衛生な民間病院に移されたパイランは

動けぬ体のまま、ただ死を待つ身となる。


パイランにとっては忌まわしく怖ろしい最悪の記憶。

その切欠となった試合で拭った自身の鼻血の色。

その記憶がタイルに落ちる血を見てフラッシュバックしたのだ。


パイランは一息ついて、姿勢を元に戻す。

そして自分に言い聞かせる。


『私はもう大丈夫。

 あの地獄から私はここに帰ってきたのだから。


『たしかに、ここに戻ってきたのだ。なら何を怖れることがあるだろう。


『もう私を脅かすものは何もない。もう私を惨めにできる者はいない。


『私は力を手に入れた。誰しもが焦がれ、渇望し、心の奥底から望む力を。

 そしてようやく私は人間の尊厳を取り戻せたのだ。


『この力を私は手放すつもりはない。


『私が力を失うとすれば、それは誰かに敗北した時。

 

『だが……それは絶対に叶わぬ事ッ!


パイランは、小さい弧を描いて鋭く回転した。

浴室内に放射状に広がる水滴群。


彼女が地面に降りると同時に、

水滴群はビシャリと壁面を打ち、足指でカランに

触れられたシャワーは完全にその機能を停止していた。


誰がいったい私を倒せるというのか。

この傷をつけた彼女ですらそれは叶わないだろう。


パイランは、血の滲むのに構わず

自身の乳房を強く握り締めた。


なのに……なのに何故、こんなにも心はざわめき

こんなにも彼女を想ってしまうのか。

何故、こんなにも……


初めて味わう説明できぬ感情の奔流。


パイランはそれの答えを見出せぬまま

浴室を後にした。

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