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この世とあの世の生活

この世とあの世の生活〜第5話〜

作者: 福紙

現世で犯した失態で、阿鼻(あび)地獄の獄卒から現世での閻魔大王との生活を命じられた、阿鼻地獄の妖狐の獄卒・白刃(しらは)。妖狐の姿になれば5m程の白い狐となり、亡者を食らい、人の姿であれば刀で斬り刻む刑をしていた。生真面目でプライドが高い彼にとって、ずっとやって来た役目を解かれるのは屈辱であった。よろよろと閻魔庁の前を流れる煮えたぎった血の川の前で座りこんだ。


「はぁ…私はなんて事を…」


生まれも育ちも気がつけば亡者をただただ呵責(かしゃく)していた。獄卒の中でも地位も高く、地獄の最下層を任されるエリートだが、現世など知らない。白刃は傍にあった小石を血の川に投げた。


チャポンッ


《イテッ!!》


「?!」


とどこから声がした。そして煮えたぎる血の川ボコボコと気泡を大きくし、ザバァーッと柱が上がった。


《誰だ…?!石を投げたのは…?!》


女でも男でもない声が響く。そして目の前には頭部だけで5メートル程はあるだろう、黒い鱗に銀色の瞳の龍が白刃を睨んでいた。


「あ、杏慈(あんじ)?!」


《…白刃?!》


ドロンと龍から煙が出、視界が見えなくなった。白刃は黄金色の右目で煙からの人影を確認した。


「白刃!!今までどこ行ってたんだ?!」


黒い鱗の龍は上半身黒い着物で、下半身が龍の女になっていた。髪の毛は黒く外ハネで、龍の名残か角が頭に生え、眠たそうな銀色の瞳のサイドには黒い鱗が生えている。名は杏慈(あんじ)、白刃と同じ地位に位置する獄卒であり、鋭い鱗で亡者を呵責したり食らったりする龍である。ちなみに白刃の想い(りゅう)である。


「い、いや…現世にいた」


「現世?!何でまた?!閻魔大王様の許可ないと行けないのに?!」


と人のサイズになった杏慈は血の川から出て来た。また1から説明しないと行けないのかと頭を抱える白刃。


「…そしてまた現世に行かなければならない。閻魔様と」


「そう言えば、最近、閻魔様って現世で暮らしてたりしてたっけ?こん助がついて行ってるって聞いたけど…何でお前も行くの?」


「いや…その…閻魔様直々のご命令でな…」


「現世に触れたこともないお前が行って大丈夫なの?」


「…気がついたら獄卒で現世など関係なく、命じられた事をしていた私が大丈夫なわけがあるか!!…あ、いや、大丈夫。大丈夫だ。現世にいたにはいたし…一応」


「…大丈夫じゃなさそう…」


「大丈夫だ!!閻魔様がお裁きになられる時は帰ってくるし!お前とも会えない事もな…っ!…なんでもない…!」


と白刃はプイッとそっぽを向いた。杏慈はズルズルと龍の下半身を引きずり、近くの岩に巻きつく。


「あぁ、帰ってくるんだ?帰って来たら現世の話、聞かせてよ!なんか面白そう!」


「あぁ…」


「じゃ、またね!」


と杏慈は岩から血の川に飛び込んだ。すると大きな龍の背びれが見えて上流へ向かって行った。


「ふんっ!現世など、面白くも何とも…!」


と言う白刃だが、少し口元が緩んでいた。


「…現世でとんでもない事をしてくれたのに、逢い引きとはいい身分だな…白刃?」


と低く通る声が聞こえた。白刃は飛び上がるほど驚き、刀を持って立ち上がる。


「え、閻魔様?!」


「白刃さん、隅に置けないですねぇ…!」


「こん助ぇ!?」


と大きな岩の陰から閻魔大王とこん助が覗き見ていた。


「あやつは確か、貴様と同じ(くらい)の獄卒だったな。貴様のような堅物が…くくく…」


「閻魔様、白刃さんは女性に優しい紳士なんですよー。ファンクラブもあるぐらいで」


「ふぁんくらぶ?親衛隊の事か?」


「モテモテなのに…女性獄卒らからのラブコールも傷つかないようにサラリと流して、杏慈さん一筋なんですよ〜」


「何?!女たらしか?!貴様!」


「違います!!私は杏慈と幼馴染で…」


「やや!これではラブコメになってしまいますので、軌道修正しましょう!」


と、こん助はバッと布を広げた。それは白いTシャツで、黒字で“現世初心者です”と書いてあった。


「これを着て現世に行きますよ!白刃さん!ちなみに、僕の手作りです」


「私はこれだ」


と閻魔大王は岩陰から出て来て、赤地に黒字で“地獄の主人”と書かれたTシャツと黒いジーパンと黒いブーツを履いた姿を見せた。


「何ですか?!その衣は?!と言うかこん助!そんな衣は着ないぞ!」


と言うと、閻魔大王は、


「ほぅ?現世を知らず禁忌を犯した奴が何を言う?」


とギロリと赤い瞳で白刃を睨んだ。


「く…っ!!」


「さぁ、白刃さん。このTシャツを着て、僕の選んだ服を着て…一緒に現世をお勉強しましょうー?」


白刃は奥歯で色々込み上げてくる感情を噛み殺した。



「と言う事で、現世初心者の白刃の正式な現世進出を祝して乾杯!」


「かんぱーい!」


「かん…ぱい…!」


「完敗だと?」


「乾杯です!!」


現世のアパートにて閻魔大王とこん助、白刃の生活が始まった。


ちなみに白刃は白地の“現世初心者です”Tシャツに黒いズボンにゴツいベルトを着せられていた。


『絶対に…杏慈に見られたくない…!!いや、見せるものか!!』


酒に弱い白刃はオレンジジュースの入ったコップを握りしめ、決意した。

閻魔大王と白刃でV系バンドマンになってしまいそう。まぁまぁ柔軟な閻魔大王とカッチカチの堅物の白刃と純粋なこん助の現世生活どうなるんでしょうね。

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