ほくろ
先生には首筋にほくろがあった。抱かれてるときにばれないようにこっそりとキスしたことがある。先生も知らない、私だけの秘密だった。
私達が別れ話を始めたのは3分くらい前の話だ。お互いに特別な言葉はいらなかった。「別れようか。」「…うん、そうだね。そうしましょう、別れましょう。」と言った、まるで遊園地に行って次の乗り物を観覧車に決めたかのような流れだった。
これから私は身がちぎれるほどの淋しさを抱えて過ごすのかと漠然とした覚悟が芽生えていた。
「先生が知らない先生のことも、知ってるんだよ。」
「…俺も、あるよ。雪乃さんの耳の裏側にほくろがあるんだ。」
おもわず手で触ってみる。耳が熱くなったことだけはわかった。
ああ、まだ私は先生が好きなんだ…。
「私だけが知ってる秘密は、私だけのものにするね。」
だからねえ、私を忘れないでね…。