RELATE 1 ―発端・物語の始まり―
『アダムは、リンゴを取ることを禁じられていたからこそ、欲しがったのだ』
マーク・トウェーン(本名 サミュエル・ラングホーン・クレメンス)
気の遠くなるような、膨大な時の流れの中に一つの奇妙な〈落し物〉が在った。
其』れは、人の業。高みを求める、人の本能。
其れは、創造力。明確な始まりと終わりを齎す力。
其れは、神の力。世界を満たす、原則にして法則。
其れは、境界線。神と人とを隔てる、絶対的な壁。
其れは、可能性。人が神、そして全てに成り代わる為の術。
それを落としたのは〈神〉だと言われた。
……少なくとも人間達は、そうであると信じた。
しかし、全知全能たる〈神〉が、自らを脅かすであろう力を人間に与えるのか?
〈神〉でないとするならば、それは誰が。
……〈悪魔〉か、或いは〈神〉を超える者?
多くの問いと答えが、生まれては消えていった。
何度も何度も。幾度も幾度も。
誰も、答えを知らない。知りえない。知ることを許されない。
故にただ純粋に〈落し物〉を求めた。
全てを捨て、全てを賭けて。
力、命、富、魂、それらの為に、それらを費やし続けた。
だが、その〈落し物〉を拾ったのは何の変哲もない、普通の〈女〉だった。
彼女は革命家でも、国の指導者でも、稀代の大罪人でも、時の英雄でもなかった。
ただの〈女〉であり、二人の子を持つ〈母〉だった。
そんな彼女が求めたものは、たった一つ。
自分の周りに生きる、優しき者達の〈平穏〉と〈幸福〉。
それが〈女〉の幸せだった。
それだけが彼女の願いであり、求めるモノ。
だが、〈落し物〉を拾ったことで、〈女〉の全ては破壊される。
愚かな権力者達は、〈落し物〉を求め、〈女〉を狙いつづけた。
〈平穏〉も〈幸福〉も、壊れるのは簡単だった。そして〈女〉は囚われた。
〈落し物〉を持つ以上、その人間達を駆逐するのは、容易い事だというのに。
愚かな権力者達は、ありとあらゆる手段で〈女〉を脅し、蹂躙し、傷つけた。
それを渡せ! それは貴様如きが持って良い代物ではないのだ!
相手は、自分に危害を加える者達。だが〈女〉は力を使わない。
しかし、〈女〉は〈落し物〉を渡さなかった。…………そう、最後の瞬間まで。
人外なる力を持つ者より、普通の人間の方が、よほど化け物で。
普通の人間より、人外なる力を持つ者の方が、どこまでも人間らしかった。
ただ、それだけのこと。
そして、最後の時が来た。
〈女〉は〈落し物〉を無数の〈欠片〉に砕き、世界へと放った。
光と闇。
希望と絶望。
生と死。
正義と不義。
決して交わらない、相反する力を同時に内包しながら。
其れは、新たな道。種として完結した人類の新たなる進化。
其れは、知識の実。食べる事を禁じられた、魔の果実。
其れは、欠片。一人の選ばれし者の砕かれた、魂の断片(断片)。
其れは、神の理。真理を超え、真理を統べるモノ。
その日が新たな世界の「始まりの日」だった。
書き換えられた世界は、その世界に適応した存在に新たな可能性を示した。
……人の身でありながら、強大な力を持つ者達が現れ始めたのだ。
彼らの選べる道は、そんなに多くはなかった。
ある者は、その力が周囲の人間を傷つけることを恐れ、身を隠した。
ある者は、力に呑まれ自我を失い、力を暴走させた。
ある者は、己が欲望を満たす為に率先して力を振るった。
ある者は、信じるもの、守りたいものの為に力を使った。
彼らは時には徒党を組み、時には孤独に生きてきた。
人の歴史の中に異能の力を持つ人間が現れた事自体は、そんなに珍しい事ではない。
だが従来のそれは、一部の特殊な一族や少数の人間に限った話だ。
しかし、彼らの多くは一般人……特に十代の子供に多く現れた。
自身で御することも出来ないほどの強大な力を持ってしまった子供達。
それに対する権力を持った大人達の行動は、二種類しかなかった。
子供の保護か、能力の捕獲か。
前者を選ぶのは愛情や責任感、或いは人類の為に子供達を救おうとした者達。
後者を選ぶ連中の大半は〈落し物〉を求めていた欲望にまみれた権力者達だった。
……奴らを探し出せ! そして……手に入れるのだ! その力を!
そう叫ぶ、愚かな達は彼らを畏怖と執着を込めて、こう呼んだ。
《神理使い》と。
どうも、蒼乃翼といいます。大学入学前の若者です。
今作が初投稿の初作品となります。
素人に毛が生えたような、ヘッポコ作者ですが、何卒長い目で読んでいただけると嬉しいです。
このパートは、この連載の世界観を描いたモノです。
故に普通のプロローグは次のパートとなります。
では、次のパートでお会いしましょう(希望)