叁───硬貨
火花を散らすマントルピースの暖かい光と熱は、上質な羊毛絨毯の上に毛玉のように丸くなっている猫と憂鬱とした彼の顔を包んでいた。
なぜ、気持ちは晴れないのだろう?
どうして、何もかも上手くいかない?
猫が、擦り寄ってきた。
その見上げてくる琥珀色の目は、僕をも見抜くようだった。
その目が怖くて、僕は居間を飛び出し、自室に向かうことにした。
「ニャーォ」
父と、同じ目をしていた。全て見過ごした、自己と言う名の芯が通っていて、綺麗な、澄ました目。
逃げるように廊下を走った。
あの時のように。
「分からないかね?君の考えが子供の意地に過ぎないことが。」
そんなの......分かってる......!
今はまだそうだけど、何時か!!
「何時か......?私はその台詞を何千何万も聴いてきたよ、乞食共の土下座より安い。」
奴は、パイプをくわえながら、こちらを一瞥して、
「私のあとを継げ、お前にはそれしかのうがない。そう育てた筈だ。」
違う!
僕は......ぼくは操り人形じゃ.....
「ほう、操り人形?面白い事を言う、私は君に安泰な人生を送れるようにしただけだが?それとも君は他に生きて行ける方法があると?」
や......めろ......よ。
その蔑んだ目を!!
その他人行儀の口調を!!
「クッソッッッ!!」
自室のドアを蹴って開けた、また、いやな事を思い出した......
紅木で作られた椅子に荒く腰をかけた。
卓上に置かれた揺らめく時代を遅れた蝋燭の炎は儚いが、彼の顔を映し出すには十分だった。
一通の古びた手紙と、革袋に包まれた貨幣。それらを凝視し、彼は一枚の硬貨を掴みあげた。
ギュッと握り締めて、また炎の前で照らして、最後にその重さを確かめるように掌に収まる。
「こんなもの..........」
指でそれを弾く、赤褐色に鈍く光る円盤は、空中で何度も前転を繰り返し、光を屈折して。
やがて清粋な金属音と共に地に落ちた。