壹──怪物
「く.......クソがぁぁーーー!!」
恐怖で狂いそうになりながらも男は発砲した。
パンパンバンッ!乾いた音が木霊する。
「おいおいどうした!?照準がズレてるぞ!!!」
右に飛んだ彼女は難なくそれらを躱す。
落ち着け.......男は心の中で念じながら今度こそ彼女の脳天を狙う。
が、その刹那、彼女は消えた。
ズンッ!!
代わりにアスファルトに消えることのない足跡を残して。
時の心臓を停め、空間の肉を裂いた様に。
彼女は男の目の前に顕現した────
月光に照らされた彼女の姿が顕になっていく───
華美な紫色の上で、空を舞う蝶を刺繍した、胸元を大きく開く妖艷なチャイナドレスを着込み。
まるでそのドレスに合わせたかのような、腰まで伸びる爽やかな長髪は、白が掛かった淡い紫。月に照らされ、まるで真珠のように光を反射した。
端整な顔には大きくて潤った目があったはずが、恐ろしい目付きで鈍く、剣のように輝いている。口紅をつけていない、桜桃のような口。
身長は平均だが、しなやかで細長い四肢でいささか長身にみえる。それでいて、艶のある白瓷色の肌をしている。
次の瞬間自分の命を刈り取る事になるだろうが。その時、女神が舞い降りたかのように。
男はただただ、綺麗だと思った。
永遠かと思われるひと時は容易く終焉を迎えた。男の頭を狙って放たれたのは最速の一撃、寸剄。
爆裂音と共に砕け散った頭から飛び出た脳漿はアスファルトを塗りたくった。
「ありゃりゃ......やり過ぎたかな?」
赤く染まったアスファルトに君臨する一人の少女。
彼女の名をレミアと言う。
【怪物】レミア·カピストラーノと。
.......そしてその右手に腕輪を着けていた。それが彼女の怪力の原因である。彼女だけではいない、形は違えど、効果は同じく、森羅万象に莫大力を与える事。その効果を持つそれを─────
──────ルーンって言うんだぜ。」