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零──魔の都

「よお、坊主。シャンハイは初めてかい?」


騒がしく、罵声が飛び散っている薄汚れた酒場の中。ジョッキを片手に隣に座っていた男が馴れ馴れしく話し掛けてきた。


「え.....はい、そうですが......どうしてそれを?」


改めて見てみると、茶髪のその男はジャケットが良く似合っていた。

顔は.....まあまあマシな方であって、無精髭のせいか、本来の年齢より年をとっているように見える。三十代前後というところだろうか?


「お前の目で分かるさ、目で。」


わけのわからない事を言いながら男はポテトフライを口に放り込んだ。


「それにしてもお前.......こんな所に来るなんてとんだ物好きだな。カメラ持ってるって事は、記者かなにかか?」


彼の言う通り、職業は記者である。別段と隠している訳ではないが、これほど分かりやすかったのだろうか。


「はい、今回は民間人の生活を撮れと言われたんですが.......」


途中で道が分からなくなって変な所に迷い込んだ末に、半場強引にこの店に引き込まれてしまった、逃げ出そうとしたものの店長が二メートル級の巨漢なため怖くて動けない........座ってるだけという訳にもいかなので、ハチミツ酒を頼んだ。

.......そしてすごく場違いな感じがする。

貧弱と言うほどでもないが、さほど鍛えられていないし、薄いセーターを着崩している、目つきがぼんやりとしているどこからどう見ても一般人である。

......それに比べ周りはゴッツいオッサンや目つきの悪い若者ばかりだ。

だがここのハチミツ酒は意外と美味い。


しかし.......噂以上に治安が悪い。

ライトに飾られた色とりどりの看板の多い路上にはチンピラや買春女、ギャングなどが徘徊していて、果ては明らかに薬の吸いすぎによる幻覚が見えて走り回っている者すらいる。

後ろのテーブルの上の拳銃と白い粉はスルーした方がいいのか.....?


「ハハッ!そいつは運が悪い。」


心のそこから面白そうに彼は笑った。


「面白い奴だなぁ、お前。俺の名前はカイだ、よろしく頼む。」

「あ、僕はアドレット、ロイ.アドレットっていいます、こちらこそ。」


正直言って、カイの清々しい雰囲気は嫌いじゃない。何より知り合いがいる方が心強い。

それから少しの間色々と喋っていたらこれがなかなか気があったみたいだ。


「此処で出会ったのもなんかの縁って奴かな、どうよ、アドレット、シャンハイを案内してやろうか?」

「え!?良いんですか?」

願ってもないことだが.......こうも親切だとなにかと怪しい。

「いや......変わりと言っちゃあなんだが.........」


カイは「トントン」と机を叩いた.......

いつの間にか空のジョッキが増えている。


「財布......忘れちまって....」


........そうゆうことか.....確かにここの店長じゃあ食い逃げは怖い。

まあ、ビール数杯とフライドポテトで情報が手に入るのはむしろ安いほうだろう。


「安い買い物ですよ、それに道案内も欲しかったもので。」

「そうかそうか、そいつは助かった!」


というものの僕もさほど金を持ってないので慌てて更に注文をしようとするカイを止めた。

ハチミツ酒も底をつき始めたようなのでもう店を出ようと席を立ったが、カイが後ろに指をさして


「ちぇっ......まあいいか、そうだな......先ずはそのカメラを隠す事だな、後ろのこそ泥がずっと狙っているぞ。」



会計を急いで済まして、早々と店を出たカイを追った。


「ちょ....ちょっと待ってくださいよ〜」

「うん?別にシャンハイ来て早々地元名物強盗殺人にあいたいなら止めはしねーが?」

「え.......強盗殺人?!」


僕が驚いたら彼はいたずらっぽい顔をする。


「ハハハッ、なに、冗談さ。あそこに留まったら死にやしねーがそのカメラと財布はもう消えてるぜ?」


言いながら彼は歩き出した。


「まあ、取られても絶対に取り戻そうと思うなよ。特にお前みたいな来たばかり外国人はなおさらだ。」

「取り戻そうとかは兎も角.....どうして外国人はなおさらなんです?」


カイは不思議そうな目でこちらを見てくる。


「そんな事も知らないでここに来たのか?お前は?.......いいか、ここの連中を常識ではかろうとするんじゃねー。何故ならこいつらはちょいと不思議な力を持ってんだ、その力を俺らは─────




壊れた街灯の途切れ途切れの淡い光と月だけが頼りな漆黒の中。

銀盤が空に飾られた、星のない夜空の下。

廃墟ビルの影に潜む男が数人立たすんでいた。スーツを着ていて、目つきが悪い、この町では珍しくもない、ギャングの類である。


「な.....なんなんだ....あれは....!」


その中の中年の男は右手に拳銃を構え直しながら、そう呟いた。

彼はそれなりの部下を持ち、《組織》の中でも中の上の地位である。

如何なる時も冷酷、その手で葬った人間は三桁だと言われている。

その男が──────震えていた。


「に.....逃げましょうよ....!兄貴!」


後ろにいる青年は今にも泣きそうな顔をしながら喚いた。


「..........チッ.....!」


リーダー格である男は判っていた、逃げなければ殺られると、だが同時に体が、直感が、数十年もの経験が訴えている。

あれに背を向ければ────死。


数十メートル離れたビルの影がさすアスファルトの上。

火を見るより明らかに【別格】な者がいた。影のせいで輪郭しか認識できない─────あるいは男が無意識に目を逸らしただけかもしれない。

異常な覇気による圧迫、圧倒的な力による理不尽..........その全ての元凶である。


影の周りには男の部下だった物が散らばっていた。まだ辛うじて生きている人もいる、だが時間の問題だ......まだ即死の方が幸福なのかもしれない。あの傷では助から無い、何故ならもう人の原型すらしていないからだ。

男は最後かもしれない煙草に火を付けた.......その手が微かに揺れている。これが......報復なのかもしれない、彼はそう思った。


沢山、殺してきた。将来有望な若者、必死になって逃げるスパイの女、泣きわめきながらまだ家族がいると訴える男。

《組織》のため、自分のため、何より家族のために。仕方が無いと思いながら、罪を感じていた。


そうらしくもない感傷に浸っていた時、人型のそれはこちらを向いた。彼らは身を強ばると同時に自分の武器に意識を向ける。


「.........クソッ、死んでたまるかよ!!お前ら、一斉に掛かれ!!」


自棄になって男は叫んだ、周りは怯えるものの、殺るしかないと察っする。

バッ、と彼らは影に向かって走った。数は4人、拳銃を持つのは二人しかいない。残りはナックルとロングソードと言った接近戦用の武器を持つ。

彼らは数十メートルの距離を瞬時に詰めた、速さは並の人間からかけ離れていた。

あれ、を使用しているからだ。

リーダー格の男が銃口を影に向ける瞬間、ナックルの男は地を蹴った。

速い、彼の拳は影の胸元に向かって振るわれた。右ストレート、鋭くて、重い。

だが───


「..........遅いねぇ!!」


影がことばを紡いだ..........女!?

と彼らが呆気を取られた瞬間────

ナックルの男の腕はねじれた。

影.......彼女はおぞましい速さで左前へと踏み込んでストレートを躱した、そしてそのまま彼の右腕を掴み───捻った。


「グアァッッ────


悲鳴が終わる前に彼女は次の動作に出た。左足を軸にした回し蹴りは男を派手に吹き飛ばす。

リーダー格の男は発砲をしようとするものの、彼女は巧妙にガタイのでかいロングソードの男に射線がぶつかるように動いた。これだと味方に当たる.........そう思って指を止めた次の瞬間。


ドガンッッ!!とナックルの男がビルに衝突する間抜けな音が聞こえた。

ロングソードの男は剣を袈裟斬りに振るうが、彼女は先ず男の左足を払った。そうするとバランスの失った男の斬りは必ず浮いてしまう────その小さな隙に彼女は身を捻って躱してみせた。

男の懐に入った彼女は即座に体勢を立て直し、中腰になるよう右足を踏み込み、右拳を突きつけた───崩拳。

その拳は彼の体を貫通した、巨体の男は銃の扱いさえ慣れていない青年を巻き添えにし仰向けに倒れた。



────五秒、たったの五秒で。

リーダー格に男だけになった。


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