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第8話 月の祝福


 全ての話を話し終えた頃、辺りはすっかり暗くなっていました。星々がきれいにまたたき、月が優しく輝く中、城のテラスに大小二つの人影がありました。


「今日は本当にいろいろあったね。今まで逃げていた分のツケかな。これは……」


 青年はそう言うと、少女に向けて困ったように笑いました。しかし、少女は浮かない顔をするばかりで、青年の言葉に返答しませんでした。


「どうしたんだい?」


「あなたは……私の正体を知ってしまったんですよね」


「正体?」


「ホムンクルス――そう、私は人間ではなく、人間に創られた異物……」


 少女は胸をギュッと手で抑えながら顔を伏せました。


「悪魔――皆、私達兄姉をそう呼びます。あなたには知られたくなかった……気持ち悪いですよね? こんな……こんな、人間のなりぞこない……」


 少女の手の下には普通の人間ではない証――制御装置が埋め込まれていました。兄妹との戦闘の際、服が破け、その証の機械が見えてしまっていたのです。


「何を――」


「すみません。何も言わないでください。私、あなたにまで拒絶されたら……偽物の心でも傷んでしまう。だから、ここでお別れです。私は今から南の小国に――」


 少女の言葉は、途中で遮られてしまいました。そう、青年が少女を力一杯抱きしめたのです。


「君を拒絶なんかしない。そして、その心は偽物なんかじゃない。君は……ちゃんと人間だよ」


「!」


 青年の言葉に、少女の綺麗な青い瞳から、同じく綺麗な涙がポロポロポロポロと……後から後からこぼれていきました。


 少女の秘めたる願い――人間になりたいという願いが……

 ずっとずっとただの夢物語だと諦めていた願いが……初めて叶った瞬間でした。


「あなたから見た私は……ちゃんと、人間……なの?」


 とめどなく流れ出す少女の涙は、青年の服へと吸い込まれていきます。


「ああ、君は優しくて、人のために何かできる意志の強い可愛い女の子だ。そして……同時に自分のことには臆病で、少しばかりさみしがり屋の女の子でもある」


 青年は、ギュッと少女を抱きしめる腕に力を込めました。


「もう、一人で抱え込まないで。一人で泣かないで。僕が傍にいるから……いや、言い方が違うね」


 青年は、いったん少女から離れると、片膝をつき、まるで今からダンスに誘うかのように、少女へと手を差し伸べ、言いました。


「可愛いお嬢さん、僕と……いつまでも一緒にいてくれませんか」


 青年の言葉に、少女はやはり涙が止まりませんでしたが、精一杯の笑顔でこたえました。


「はい、喜んで」


 そして青年は、青年の手へと重ねられた少女の手に、そっと優しいキスを落としました。

 月がそんな二人を祝福するかのように優しく……闇夜を照らし続けました。


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