第3話 無知の罪
翌朝、青年が起きた時には、もう少女の姿はありませんでした。そして、一つだけ書置きが残っていました。
『今までありがとう』
少女の書き残した言葉の先には、一度書いて消したようなあとが残っていました。その言葉に気付いた青年は、急いで家の外にある森に入りました。そして、青年は少女を探すために、大きな声で森の住人達へと話しかけました。
「誰か彼女の行方を知っている者はいないかい? いたら僕に教えてくれ! 彼女がどこへ行ってしまったのかを!」
彼の声に反応し、森の住人達――様々な動物達がそっと顔を出した。
そう、秘密を持っていたのは、少女だけではありませんでした。青年には、生まれた時から不思議な力が宿っていたのです。それは、動物と話しができるという能力でした。
顔を出した動物達に、青年はさらに言葉を重ねました。
「頼む。僕に教えてくれ! 彼女がどこに行ったのか」
しかし、動物達は皆、口をそろえて「知らない」と言いました。色とりどりの綺麗な鳥達も、夜目が利くフクロウも、元気に走り回っていた野うさぎも――皆、悲しい顔をして「知らない」と言いました。
青年はあちこち走り回り、とうとう暗い森に入ってしまいました。そして、そこでも青年は必死に叫びました。
「誰でもいい! 頼むから、彼女に会わせてくれ!」
青年の必死の声に反応したのは、片目が潰れた大きなカラスでした。
「あの娘ならば、この森を真っ直ぐ抜けて城に向かいましたよ」
「城? それは――」
「もちろん、あの悪魔城ですよ。悪魔に魂を売ったと言われた王が政治を行っている……ね」
「悪魔城? どういうことだ? だってこの先の街は――」
「おや、知らなかったのですか? まあ、仕方がないことですかねぇ。あなたはずぅっと優しい優しい森の連中達に守られてきたんですから……」
「何を言っているんだ」
青年のかたい声に、大きなカラスはクスクスと笑いました。
「おや、これは失礼。言い方が良くありませんでしたか。でも、あなたもそろそろ知るべきかと――」
大きなカラスは、笑うのを止め、潰れていない方の黒い瞳で鋭く青年を見つめました。
「無知とはね、時として一番の罪にもなるのですよ」




