訪問②
「始めまして、A級冒険者のユウキと申します。そして、後ろにいるのが従者のアリシアです」
「しがないメイドですが、今日は精いっぱいおもてなしさせていただきます」
ユウキは、この世界に来てから基本的に初対面の相手には、このようにできるだけ丁寧に接するように心掛けている。
「お爺さまが言っていたとり、優しそうか方ですね」
「そうだろう」
両手をお腹のあたりで組んでニッコリ笑う美少女とそれを穏やかな笑顔で頷く好好爺はとても絵になっていた。
「しかし、今日は護衛はいらないと言ったのだが、息子に無理やりつけさせられてしまってね」
ハロルドは、申し訳ないという顔をし、後ろの護衛二人に目を向けた。
一人は、厳しい顔つきで、年齢は見た目30代後半、身長は190cm程で肩幅が広く体格が良いい、腕は筋肉が隆起しているのが服の上からでもわかる。
もう一人は、身長はユウキと同じ175cm前後、整った顔でユウキと同じ20代前半に見える。
「知人とはいえ、出生のわからない冒険者の家に行くのですから当然ですよ」
そうユウキが申し訳なさそうにしているハロルドに言うと、体格のいい方の男がユウキの方に体を向けた。
「私は、ハロルド様とシャルロッテ様の護衛の任務に就いている、デリクと申す。そして、後ろがエリック。今日は、よろしくお願いする」
護衛の男は査定するような目つきでユウキを見ている。
「こちらこそおねがいします。それじゃ、昼食の準備はできているので食堂に案内します」
ユウキは、相手の厳しい顔つきに気圧されながらハロルドたちを食堂へと誘導する。
「しばらくお待ちください。たいだいま持ってまいります」
一礼して食堂を出ていくアリシア。
席順はドアに近い椅子にハロルド、その横にシャルロッテ、ユウキはハロルドの正面に座り、護衛二人は、ハロルドとシャルロッテのそれぞれの後ろに立つ形になった。
「今日は、どのようなものが出てくるのか楽しみですな」
「私はお爺さまから聞いたソバを食べてみたいです」
そういうシャルロッテは先ほどの清楚で可憐な表情ではなく、未知なるおいしい食べ物に興味深々といった12歳という年齢に似合った子供らしい表情が見えてなにか微笑ましかった。
「今日は残念ながら蕎麦ではないんですが、私の好物なので気に入ってくれると嬉しいです」
「ユウキ君の好物ならまた、珍しいものなのかい?」
「こちらでは、珍しい料理だと思いますよ」
「それでは、来てからのお楽しみということですね」
シャルロットが期待に満ちたまなざしをユウキに向けて微笑んだ。そして、計ったかのようなタイミングで食堂のドアが開く。
「おまたせしました」
カートを引きながら、アリシアはそれぞれの目の前に料理を置いていく。前の4人は、物珍しそうにその料理を見ていた。
「今日の料理名は、うどんと天ぷらというものです」
「ウドン? テンプラ? やっぱり聞いたことがないですね。お爺さまは、どうですか?」
「テンプラは聞いたことはないが、確かウドンは勇者が作ったと言われる料理じゃなかったかな」
シャルロットの疑問に自信なさげに答えるハロルド。
「ハロさんはさすがですね。うどんだけではなく、天ぷらも勇者が作ったとされる料理です」
「ほう、聞いたことはあるが、実物は初めてですな」
「私の方から少し料理の説明をさせて頂きます」
アリシアが少し得意げな声色でうどんと天ぷらについて説明を始めた。
「なるほど。小麦粉で作った麺を魚醤油のスープにつけて食べるんですね」
「そうです。天ぷらは塩を付けて食べてみてください」
アリシアが説明し終わり、フォークを取ろうとするのと同時に護衛一人が、
「ハロルド様、シャルロッテ様、毒見の方を」
部屋の空気が一瞬で氷ついた。
さすがのユウキもこの発言にはいい顔をしなかったが、この部屋にはユウキ以上に厳しい顔つきになっている人がいた。
「私に恥をかかせるつもりか。下がれ」
「しかし、当主様からは最大限の注意をしろっと……」
「もう一度いうぞ。下がれ」
ハロルドから放たれる覇気で護衛の二人の額には、冷や汗が浮かびあがっているのが見える。彼らも仕事なので引き下がれないため、氷りついた空気は続いた。
しかし、この氷ついた空気を壊したの意外な人物だった。
「まぁ~! このテンプラという料理は、サクサクしてておいしいですね。やはり揚げたてだからですか?」
「あ、はい。そうです」
そうフォークで綺麗に使い、天ぷらを口に運ぶ少女に反応することができたは、アリシアだけだった。
「せっかくの揚げたてでおいしいんですから、毒見などして冷めてしまうのはもったいないです」
その発言に何も言えず、護衛の二人が固まっていると、
「はっはっはっ! これは一本取られたな」
「確かに、天ぷらは揚げたてが一番ですよ。シャルロッテ嬢」
少女のおかげで先ほどの冷たい空気はなく、ユウキとハロルドは笑っていた。
「先日こちらが、昼食をお願いしたのだ。それなのに毒見をするのは、礼を掻いているとは思わないか」
先ほどの厳しい顔つきではなく、やわらかい表情でデリクに話かける。
「わかりました。無礼な態度とってしまい申し訳なかった」
デリクはユウキとアリシアの方を向いて頭をさげた。
「もう気にしてませんから。今はシャルロッテ嬢に気にいってもらえて安心しているぐらいなんですから」
とユウキは美味しそうにうどんを食べるシャルロッテの方を向きながら答えるとシャルロッテと目があった。
「本当に気にいりました。テンプラもウドンに合っていて家でも食べたいくらいです」
「先日のソバもおいしかったがウドンの方も食べごたえがあっていい。しかも、固いものが厳しい老人にうってつけ料理だね」
勇者一行で勇者達がうどんを振るまった時も好評だったので、ユウキは正直心配はしていなかった。
「なら、今日お出しした料理のレシピを書いてお帰りの際にお渡しいたします」
「本当ですか! ありがとうございます」
余談であるが、この日を境にマックイーン家では、週をに1回はうどんの料理が出されるようになり、マックイーン家といえばうどん好きで有名になるほどになってしまう。
「先ほどから気になっていたのですが、ユウキ様がお使いになっている食器はなんですか」
とシャルロッテがユウキの手元を見ながら尋ねた。
「ユウキで結構ですよ」
「ならユウキさんと呼ばせてもらいますね」
「わかりました」
貴族の中には、冒険者を好んでいない人の方が、圧倒的に多い。そのため見下されることがほとんどだがシャルロッテにはそんな様子が全くない。
シャルロッテの目から感じられるものは先ほどのうどんの時と同じ、珍しいものへの好奇心近い。
「これは、箸といって、勇者が作った食器で、勇者が作った料理のほとんどはこれを使って食べるんですよ。扱いが上手ければこれ一つで突く、切る、つまむできます」
「そうなんですか。そちらで食べる方が風情があってよさそうですが、扱うのが難しそうです」
少し残念そうにする顔見せるシャルロッテに保護欲かきたてられたユウキは、
「よければ箸も差し上げますよ。使い方は、あとで時間があればお教えします」
「ありがとうございます」
残念そうな顔から笑顔に戻ったシャルロッテとユウキのやりとりをハロルドは嬉しそうに眺めていた。
この後、シャルロッテがウドンとテンプラをお替りして、あっさりと完食してしまった。
「アリシアさんが淹れてくれる紅茶はおいしいですね」
「ありがとうございます」
「こんなに紅茶も料理もうまいなんてユウキさんは羨ましいです」
「まあ~はい」
食後の紅茶を飲んでいるとシャルロッテがそんなことをユウキに言った。
できることならリボンつけて渡してあげたいが、そんなことはできるはずがないなとユウキは心の中でため息が吐いていた。
「それでは、今回訪問した用事を済ませてしまいますか」
「はい。そうですね」
ハロルドの後ろに控えている騎士が袋をハロルドに手渡した。
「こちらが今回の報酬にの前渡し金になります」
とユウキの前に袋を置いた。
「本当にわざわざ前渡しにしてもらってありがとうございます」
「礼には及ばんよ。今回護衛任務にあたってマックイーン家から騎士6名、従者2名がでることになっている」
「こっちは俺とアリシアがいきます」
ユウキ一人だけで来ると思っていたハロルドは少し驚きながらユウキから視線をユウキの後ろに立っているアリシアに移した。
「アリシア殿も冒険者なのですか?」
「はい。一応B級の冒険者です」
今度は、ハロルドだけでなく、ユウキ以外の全員が驚いた顔を見せた。
ここでのアリシアしか見たことがなければアリシアが凄腕の冒険者だということはわからないだろう。
「ちなみにアリシアは、火と風の魔法を使えるので確実に戦力になりますよ」
「もう驚き疲れたました」
ハロルドに疲れ切った顔でそう言われてしまった。
「アリシアさんは本当にすごいですね。メイドとしてもレベルが高いのに冒険者としてもすごいなんて」
「恐れ入ります」
シャルロッテが憧れの視線をアリシアに向けている時、ハロルド後ろに立っている青年騎士が突然一歩前に出た。
「このエリック=ラムゼイは若輩の身なれどユウキさんにお願いがあります」
「はい?」
今日初めてユウキはエリックの声を聞いたが、整った顔に似合ったイケメンボイスであった。
「自分と模擬戦をしていただきたい。自分はお嬢様と大旦那様を護衛するに6人の中の一人です。できれば実力を把握しておきたいのです」
「それは、私からもお願いしたい」
エリックが言い終えると、打ち合わせをしていたのか直ぐにデリクが話に乗ってきた。
ユウキ面倒くさそうに頭の横を掻いた。
(きっとシャルロッテのお父さんに俺の実力を測るように言われていたな)
「突然なのだからいやなら断ってくれてもいいよ」
ハロルドは善意で言ってくれているかもしれないが、ここである程度の実力みせなければ護衛する時にこちらの意見は一切聞いてもらえない可能性が高い。
(でも、今回はあまり危険な道ではないし、もともと護衛の騎士がいることだし俺が出しゃばる必要はないんじゃね)
勢いよく断ろうとユウキが口を開く。
「ことゎ――」
「わかりました。模擬戦をお受けします」
ニッコリと笑ってアリシアが答えた。
ユウキは大きくため息吐いて、斜め後ろのメイドを睨みつけた。
どうやらこのメイドはユウキに楽な道を選ばせるつもりはないらしい。