依頼そして依頼!
ユウキは今、B級モンスターの討伐に来ている。
こういうことは、とうに一年前に卒業しているはずだ。なのにどうして俺はこんなことをしているんだ。
その理由はバカみたいにはっきりしている。
「おおおおおおりゃゃゃゃっっ!!」
たった一刀でB級モンスターのグリーンワイバーンはあっけなく頭と胴体はなれた状態になった。
「これでこの依頼は完了ですね。では、次の依頼に行きましょう」
「もう日も暮れて夜になると思うだけど……」
「大丈夫です。依頼内容は夜行性のデビルバットの群れです」
「そういうことじゃない!つか段取り良すぎだろ!」
「ありがとうございます」
「褒めていない、皮肉だ」
3日前冒険者ギルドに出向いた際、依頼を受けるため受付にギルドカードを提出したら元勇者だとばれてギルドマスターに報酬を2割上乗せするからと塩漬けの依頼を頼まれた。
塩漬けされてる面倒な仕事などやりたくはなかったが隣にいるメイドが
「やります」
「なぜ塩漬けされてる依頼をうける?」
「塩漬けされている依頼ならば他の冒険者と鉢合わせることが少なく報酬で揉めることも少ないと思います。それと報酬がいいです。」
もっともらしい意見に反論の余地もなく、塩漬けされている依頼を受けることになったのが3日前の話だ。
「ここがデビルバットの巣がある洞窟です。私が最初火の魔法で相手の数を削るのであとは、お願いします」
「了解」
この世界では、適正があるものしか魔法が使えず、その中でも使える魔法は、自分に属性と親和性が合った魔法しか使えない。
俺の場合は勇者スペックもあり、闇以外全属性が一応使えるが、特に土と水の属性が親和性が高かった。
「バースト」
もの凄い熱の塊が洞窟の中を覆った。
バーストは火属性の中級に区分される魔法だ。
「今ので片付いたんじゃないか」
「いえ、私程度の魔力と連度で放ったバーストでは殲滅まではできません。」
っといってる傍から生き残りのデビルバットが洞窟から出ようとしている。
そのほとんどが火傷などの浅くはない傷を負っている。
「じゃー残りの処理をしますか」
「私は、魔力を少し回復させたいので休ませてもらいます」
「了解」
そこからは、タダの作業ゲーだった。
ただ出てくる負傷したデビルバットを両手剣で切っていくだけ。
「これでラストか?」
最後の一匹らしいやつ切って洞窟の中を確認したが生き残りはいないようだ。
「お疲れさまでした」
「おう」
「今どのくらい稼いだんだ?」
「この3日間森にこもって依頼をこなしているので、金貨2枚は稼いでいます」
「まだ、金貨2枚かぁ」
先日、買った家具や調度品の金額は、金貨15枚でこちらの所持金は金貨7枚、倉庫の売ることができる物は、金貨1,2枚ってとこだ。
「あと、四日で金貨4枚は厳しいな。しかも、体力も集中力も限界だぁ」
塩漬けの依頼を受けてから3日間ちゃんとした食事も睡眠もとっていない。
ここらへんが引き際である。
「そうですね、今日の夜は家に帰って休みましょう」
そういった自称完璧なメイドの顔にもさすがに疲れが見えていいた。
それも当然、彼女は元勇者のユウキと比べるのはおかしいが、普通の人間なのだから。
「あと、金貨四枚どうにか楽して手に入らないかね」
金策をお互い考えながら主とメイドは帰路についた。
家についたユウキは速攻で風呂に入り、その後最近についてベットに横になりながら考えていた。
最近のユウキとアリシアの会話は、以前のような事務的な受け答えだけではない、アリシアが勇者一行のメイドをしていた時と近い受け答えに変わっている。
そんな昔のことを思いだしているうちにユウキは夢の世界に落ちていった。
『勇・・・七海の・・・ことと・・あ・は任せた』
『勇ちゃ・・・・・ん』
『せん・・・輩』
本当に大切な人から死んでいった
こんな俺よりこの世界に必要だった
魔王を倒した後俺は生き残っていることに後悔すらした
『親友を置いていくなんて……なんて最悪な親友だ』
っとそこでユウキは目を覚ました。
はっきり言って最悪の目覚めだった。
窓の外をみるともうすぐ夜明け前なのか薄ら山の隙間から光が見えた。
「起きるか」
どうせ朝早くから働かなければならいし、もう二度寝する気分でない。
顔を洗いに台所にある水瓶に行こうとすると、寝間着姿のアリシアに遭遇した。
普段はメイド服着ていて服の私服のセンスはわからないが、寝間着は大人っぽいやつかと思ったら水色の水玉模様でかわいいセンスをしているじゃないか。
「おはよう」
「あっ、おはようございます」
一拍遅れて返したアリシアの顔は、まるでUMAを発見したかのような顔だった。
確かにそうなる理由はわかるが、仮にも主に対して失礼じゃないか。
「どうしたのですか?」
「たまたま目を覚ましただけだけど、アリシアがメイド服以外を着ているところを初めてみたな」
「えっ」
一度自分の姿みるアリシア
そして、赤い顔で目線を俺に合わせた。
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
俺の視界の最後には、綺麗な回し蹴りを繰り出そうとしているアリシアで、その光景を最後に俺の視界はブラックアウトした。
結果として、俺は二度寝する形になったのだった。
二度寝から目が覚めて朝食をとっている最中に朝から気になっていることを聞いた。
「なぁーめずらしく今日早く起きて顔洗おうと降りたとこまで覚えているんだけどそこからなんか記憶が飛んでるんだよな」
なにか知らないかと尋ねようとしたが、
「朝寝ぼけて頭を打って倒れたところを私がお部屋までお運びしました」
「確かに頭と首あたりにダメージがあるような気がする」
「でも、なんか見た気がするんだよなぁ」
一瞬アリシアの肩が不自然に揺れた気がした。
「そんなことより、こちらが今日の依頼になります」
まだ、食事中だというのに急かすように依頼書を渡してきた。
「この量は多いな」
「一日この量でなければ間に合いません」
「釣竿のためにやるしかないか」
「もう、釣竿をあきらめていかがですか?」
「それはできん」
瞬時に答えた。
あれには、お金には変えられない労力と費用がかかっているんだ。
「ならやらなければですね」
アリシアは、あきれた顔で微笑んだ。
朝食を済ませて、アリシアと一緒に家を出る。
今日はガルスの郊外の森で仕事だ。
「2割増しって言っても報酬はそれ程高くないな」
「そうですね。ガルス付近には、あまり高ランクのモンスターは、出没しませんからね」
「昨日のグリーンワイバーンは例外だろ」
冒険者にとってガルスという街は、あまりうま味がある街ではない。
だが、ここ拠点に各地に遠征して活動する冒険者や駆け出しの冒険者には、最適の場所ともいえる。
「今日こなす予定の依頼数は大小15件です」
「やっぱり多いな」
今日こなす依頼数に辟易しているとガルスの門についた。
「依頼で外に出る。これが依頼書とギルドカードです」
「確認した。通っていいぞ」
ギルドカードは、冒険者ギルドが保有している古代魔法技術によって製造され、複製は不可能になっている。盗難にあっても本人が持っていない限りは身分は表示されないため、身分証としては、高い効力と信用がある。
「このあたりでいいか」
「はい」
街から出て人通りの少ないことを確認したら、全身に魔力もこめ身体強化の魔法で一気に目的地の森に向かって走る。
「今日の最初の依頼はハイゴブリンの群れです」
かなりのスピードで走りながらアリシアは伝える。
ハイゴブリンは、普通のゴグリンより頭がよく連携して家畜や村を襲う。そして、定期的に住処を変えことで有名だ。
「場所はわかっているのか?」
「目撃情報をギルドからもらっているのでいくつか検討はついています」
「なので、ここからは、私が先導します」
「了解した」
癪だがやはり斥候としても優秀な彼女に任せるのが一番効率がいい。そう思っているとアリシアが地面についている足跡に気づき立ち止まった。
「この足跡は、新しいですね。この近くにいる可能が高いです。しばしお待ちを」
っとこのあたりで一番高い木の上に軽々と上って辺りを確認する。
アリシアの報告によれば、あと一キロ先にいるとのこと。
「じゃーいつもの通りアリシアが、魔法で先攻して、あとは俺がやる」
「わかりました」
そんな形でガルスの門を出てからハイゴブリン殲滅まで一時間もかからなかった。
普通の冒険者では、たった二人だけでこんな短時間でハイゴブリンを殲滅することは、できない。
魔王を倒した勇者一行のメンバーだった二人だからできる芸当である。
その後もユウキたちは、同じように依頼をこなし、最後の依頼が終わったころには日が暮れていた。
「今日は全部で金貨1枚の報酬ですね。依頼とは別で狩ったモンスターの素材を売ればあと銀貨20枚ほどいきます」
「じゃー疲れたし、ささっとギルドに寄って帰ろう」
森を朝と同じ身体強化の魔法で抜け、朝とは違った門番に依頼書とギルドカードを見せ冒険者ギルドを目指して歩いた。
アリシアは、夕食と風呂の準備をするためギルドの前で別れた。
「こちらが本日の報酬になります。あと、ユウキさんに直接護衛の依頼が来ていますが、どうしますか」
「あぁー今ちょっと疲れて休みたいので詳しい話は明日聞きいてもいいですか」
「わかりました」
正直今日を抜いて金貨3枚稼がねばならないのに時間がかかる護衛依頼など受けている暇はない。
用事もないので酒場のせいで騒がしくなっているギルドをそそくさと出た。
「疲れたぁ~」
独り言をぼやきながら帰宅するユウキを他の勇者が見れば元の世界の仕事帰りのサラリーマンのオヤジと揶揄することは決定だろう。
ユウキは空腹を満たすために、早足しであのメイドがいる自分の家に帰るであった。
「おかえりなさいませ。夕食の準備は整ってございます」
相も変わらず綺麗なお辞儀で迎えられ、これが日常化し始めていることにユウキは、ため息をつかずにはいられなかった。
夕食を食べ終え、風呂に入りまったりしているユウキは、ふと思った。
誰もやらない塩漬けの依頼をここ4日間毎日朝から夜までこなす日々……
「俺の静かで暮らす生活はどこにいったんだ」
とここ何日かお金を稼ぐことで深く考えようとしなかったことを考えてしまい額に手をあてて、浴場の天井を仰ぐのだった。