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衝突

 

 アリシアが我が家にきてから一週間がたったが残念ながらこれといって問題は起きなかった。真面目にメイド業に励んでいる。

 勇者一行のメンバーの時からそうだと思っていたがかなりの完璧主義者のおかげでケチをつけるところがまるでない。

 そんなことを庭に取り付けたハンモックの上で寝ながら考えていたら近くに人の気配を感じた。


「ユウキ様、昼食の準備がととのいました。そろそろ起きてください」

「了解ー」


 適当に返事をしハンモックから降りた。


 アリシアが来てから一週間しかたっていないが、我が家は変わった。雑草だらけだった庭はきれいに整備され、埃ぽかった家の中は、掃除と換気がちゃんとされるように住みやすくなったし、外食がほとんどだったが、今はアリシアが毎食作っている。


「今日はガルス湖で取れた貝を使ったパスタとサラダになります。」

「あぁ、いただきます」

「いただきます」


 ちなみにこの手を合わせ「いただきます」とういうのは、こちらの世界の習慣ではない。勇者一行は大半が日本人のためそれに影響されごはん時に「いただきます」っというのが癖になってしまったのである。

 あと、こうしてメイドと一緒に食べているのは主として命令した結果である。


「今日はこの後、いかがなさいますか?」

「そうだなぁーガルス湖に釣りにでも行くかな」

「わかりました」

 

 お互いその後は話をすることもなく、綺麗な所作でパスタ食べ始めた。

 

「ごちそうさまでした」

「紅茶はいかがですか?」

「ああ、もらう」


 このレスポンスの早さは、さすが元メイド部隊の副隊長としか言いようがない。まだ、信用しているわけではないが、アリシアのメイドとしての能力はやはり認めざるおえない。

 紅茶を飲み終え席から立つと後ろには、釣り道具をもったアリシアがいた。


「こちらがいつもの釣り道具になります。他に、必要なものはございますか?」

「いや、大丈夫だ。行ってくる」

「お帰りはいつになりますか」

「日が落ちる頃に帰ってくる」

「わかりました。行ってらっしゃいませ」


 アリシアに送り出されて歩くこと10分ほどで目的地の釣りポイントまで到達した。釣りは、数少ない俺の趣味でもある。元の世界でも大きく予定が空けば幼馴染と釣りに行っていた。

 

「今日の調子はどうですか?」


 別に穴場とういうわけではないが、あまり釣ってる人を見ない。ここに釣りにくると大抵麦わら帽子を被った初老の男性がいた。歳のわりには、背筋がピンとしており、釣りの腕は、客観的にみて俺より上だと思う。


「今日は全然ですな」

「ハロさんで釣れないなら俺は今日は無理かもしれないですね」

「はは、私は無理でもユウキ君は釣れるかもしれないだろ」

「そうですかねー」


 いつもながら優しそうな顔でハロさんは言ったが、ユウキがハロさんより多く釣りかえった日はここ3カ月ない。


「そういえば例のメイドの子とはどうだね?」

「そうですね、可もなく不可もってところですかね。まぁーお互い笑顔で仲良くやってるわけではないので気まずいです」

「そうか、上手くいってないんだね」


 ハロさんとユウキは、三カ月経った今でもお互いについて詳しい事は話していないが、釣り仲間として話せる範囲で世間話や相談などをする仲になった。

 ハロさんには昔世話になったメイドがいきなり押しかけてきたとだけ説明してある。


「本人の前ではとても言えませんが、メイドとしてはかなり優秀ですね」

「ほう、ならその気持ちを伝えてみてはどうですかな?」

「前にも言いましたが、気が許せない相手なんですよ。気を許したら一瞬で相手のペースに持ってかれそうで・・」


 重いため息が無意識に出た。

 追い出そうにも追い出す理由もないし、優秀のメイドとしてしっかり仕事をし、主をたててくれる。しかも、タダで働いてくれるのだから無職のユウキにはもったいなメイドである。


「今の状況を改善したいと思っているなら、ユウキ君の素の状態で接してあげるしかありませんな。距離を置いた状況では何も前に進みませんぞ」


 やさしく諭すようにハロさんは俺に言い聞かせた。

 だが、初日にあんな啖呵をきっといて今さらな感じある。

 結局は、


「前向きに検討します……」

「ははは、若い時に大いに悩み、考えればよろしい」


 いままでの暗さを吹き飛ばすような豪快な笑い方だった。

 

「そういえば、お孫さんが来年から王都の学校に入学するんですよね?」

「やっぱりさみしいですか」

「何をあたり前のことを言っているんだね?目に入れても痛くないかわいい孫と離れてしまうのがさみしくない爺はこの世にはいないんだよ。しょうがない、私の孫がどれ程かわいいいかユウキ君にもわかるように私が懇切丁寧に教えてあげよう」

「えっ!? それはこの間さんざん聞いたじゃないですか!」

「あの程度では、到底語りきれるわけあるまい」

「あれは、あの子が初めてしゃべった時のことなんだけど、なんと最初に――」


 完全にやってしまったとユウキは、今更ながら思った。

 こうなってしまったハロさんは、止めることはできない。きっと夕暮れ時までノンストップで語るであろう。

 今のユウキにできることは、夕暮れまでただただ頷いて話を聞くだけだった。

 でも、これだけは言いたい、


「初めてしゃべった時の話はもう五回は聞いたわ!!!」






「結局、夕暮れまで解放されなかった。七割は聞いたことある話だったし、しかも釣りもぼうずだし、最悪」


 とぼとぼ歩いてかえると家の前に荷馬車が止まっているのが見えた。胸騒ぎがして走って家の前まで行くと、玄関口で商人らしき格好の男とアリシアが話していた。話し終わたのか荷馬車の方に商人らしき男が歩いてきた。


「ここの旦那様ですか?」

「そうですけど、どちら様ですか」

「申し遅れました。ダミアン = ウィンストン申します。今回は我が商会に発注していただきありがとうございます」


(あれ?なんのことだ?

 俺はなにかを頼んだ記憶はないぞ)


「発注とは何のことですか?」

「あぁーこれは内緒のことでした。どうぞ家の中に入って確認してみてくだいさい。私はこれで失礼しますね」


 ダミアンと名乗る商人は、フフっと意味ありげに笑いながら荷馬車に乗って行ってしまった。

 不安に駆られながらもユウキはゆっくりと玄関の扉を開けた。

 

「おかえりなさいませ」


 この一週間でテンプレとなった綺麗なお辞儀で出迎えてくれたが問題はそこではない。

 変化は一目瞭然だった。


「そこの靴箱とその高そうなカーペットはどうした?」

「先ほどの商人から購入しました」


 っとこれまたテンプレのすまし顔で答えたアリシアに頭が痛くなった。


「もっとこの件に関し、詳細に話せ」

「はい、私はユウキ様とこの屋敷にふさわしい家具や調度品をあの商人から購入しました。そして、これが購入リストと金額になります。あるモノも担保にすることで支払いの方は15日まで待ってもらえるそうです」


 確かに購入リストには、無駄なもは一切ないが一つ一つが高い。あまりメーカーを知らないユウキにも幾つか耳にしたことがあるメーカーばかりだった。


「で、あるモノとは?」

「ユウキ様の部屋にあった高そうな釣竿です」

「はい?」

「ユウキ様の部屋にあった高そうな釣竿です」

「聞き取れなかったんじゃないわ!」

「そのおかげで二割引きにしてもらいました」

「そんなことが聞きたいんじゃないわ!」


 ユウキの部屋に飾ってあった釣竿は妖精族とドワーフ族が合作ししたオーダーメイドの釣竿で、この屋敷の中でユウキが一番大切にしているモノでもある。


「そういえば、防犯術式はどうした?合言葉を知らない限り開かないはずだぞ」

「知る機会がありました。あとは、企業秘密です」

 

 本日二回目の大きなため息をはいた。


「しかし、なんであれにした? 単なる貴重品なら倉庫に行けばある。どう考えても俺が怒るのが目に見えているだろ」


 そう、このメイドは、わざと大切な釣竿を担保にしたのだ。ユウキは、この1週間で初めて真剣な顔でアリシアに向かいあった。

 完璧主義者で筋が通らないことを嫌う彼女がただ俺を怒らせたいだけでこのような行動にでたとは考えられない。

 しばらく二人の間に無言が続く。



「あなたのことを友に頼まれたからです」


 突然で脈絡のない返答だったが、その声はいつものテンプレで感情がこもっていない声ではなく、心底から出た声のように思えた。


「そして、私は、メイドの矜持にかけてその頼みを承諾しました」


 ユウキは黙って聞いていた。

 そうしなければならない気がしたからだ。



 

 一人のメイドと元勇者がお互い真剣な顔を向き合わせている。


「優秀なメイドは、主が間違っている時諌めることができなければなりません。そして、今の無気力な目で日々を過ごしているあなたをを私は、看過することができません」

「気力がないというなら気力が出る理由をつくればいいこと、元気がないというなら精のつく料理を作ればいいこと、ストレスが溜まっているなら私で発散すればいい、もしあなたが前を向いてくれるなら殺してくれてもかまわない」



「私ができることは、メイドとしてあなたにこうして尽くすことだけ」



 なぜそこまでするというのが、ユウキが最初に浮かんだことだ。

 こんな、ただ腐っている元勇者にそこまでする価値は無い。

 彼女のこんなにも純粋な矜持は、とてもじゃないけど今のユウキには眩しすぎるものだが、


「お前の友とお前の矜持に付き合うのも一興か」


 なんて、もみあげをかきながらドラマでも言わないようなセリフで呟いた。


「その友人とやらは、とんだ重いメイドを俺に押し付けたようだな。おかげで俺は、大切な釣竿を取り戻すために働かなきゃいけなくなった」

「どのような処分も覚悟のうえです」


 まさに死を覚悟したような感じの声だった。

 ユウキはその友人の正体は何となくわかっていた。だから、このメイドを罰することは微塵も考えていない。


「なら、今から冒険者ギルドに行くからついてこい。一人よりアリシアのような斥候タイプが居た方が効率がいい」


 アリシアは、一瞬目見開いて驚いた顔したが、何かを感じとったのかどこか暖かみのある笑みを浮かべて、


「かしこまりました」


 とこれまた綺麗なお辞儀してユウキの後ろに付き従ったのだ。




魔法

魔法適正が高い者しか魔法は使えない。

無属性以外は使える属性には、個人の親和性が大きくかかわってくる。

魔法属性

火<水、水<土、土<風、風<火 無、聖、光、闇、




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