メイド襲来
ユウキは今、ガルス郊外の森の中でB級モンスターの討伐に来ている。
こういうことは、とうに一年前に卒業しているはずだ。だが、現実は剣を構えてモンスターと向き合ている。
その理由はバカみたいにはっきりしている。
「おおおおおおりゃゃゃゃっっ!!」
たった一刀でB級モンスターのグリーンワイバーンはあっけなく頭と胴体はなれた状態になった。
グリーンワイバーンといえばワイバーンの中では、最弱な部類だが、討伐報酬は高い。それを倒したのに関わらず、ユウキの顔は晴れてはいない。
3ヶ月前にユウキがこの国の王に望んだものは、こんな汗水ながしてお金稼ぐ生活ではなかったはずだ。
ユウキ達勇者一行が魔王討伐後から1年たって、国の復興の目途がたったころユウキ達勇者一行は、国王に褒美としてそれぞれの願いをかなえてもらった。
ある物は、貴族の位を、またある物は、魔法研究をするための施設や権利を望んだ。
ユウキは無気力の顔で願った――
「どこかに大きな庭付きの家で楽して静かに暮らしたい」
そこから3ヶ月は最高の日々だった。
王都から馬車で3、4日程離れたマックイーン領。
温泉と湖が有名な街ガルスで小さめの屋敷をもらって、生活費は毎月多くはないが、国から支給される。
昼間は、趣味の釣りか、日向ぼっこしながら昼寝、夜は温泉に入り、のんびり過ごしていた。
6月2日、全てはここから始まった。
今、ユウキの格好を見て元勇者だと答える人は、皆無に近いだろう。
髪はだらしなく伸ばした黒髪を襟足あたりで紐でくくり、釣り中に汚れてもいいように安物の麻の服、釣竿と魚が入っている網を肩に担いでいる。
「今日は、大物が釣れたから気分いいわ~」
今日はいつものように昼から釣りに出ていたユウキ。
独り言をつぶやきながら玄関のドアに手をかけると突然後ろから声がかけられた。
「お待ちしておりました。瀬名勇樹様」
声をかけられた方に体を動かす。
聞き覚えのある声、見覚えのあるメイド服、目を惹く銀髪、一度目にしたら忘れないであろう美貌だったがユウキは苦い顔で尋ねた。
「どちら様ですか?」
こちらの挑発的な言動を意にもかいさず、メイドはテンプレの笑みを浮かべこう答えた。
「今日からこちら家のメイドとなりますアリシアと申します」
「はっ!?」
唐突で意味がわからかった。否、言っている意味はわかるがわかる事を脳が拒否している。
「では、失礼します」
と混乱しているユウキの脇を通り抜け彼女は玄関から家に入ってしまった。
慌てたユウキは家の中に入って勝手にいろいろやり始めたメイドを応接室の椅子に座らせた。ユウキも向かいの席に着き、目の前のメイドを改めて見据えた。
「で、何のつもりだ?」
「何のつもりと聞かれましても、メイドをやるつもりとしか……」
一般的に考えていきなり人の家に来ていきなり「メイドをやります」なんてメイドはこの世にユウキの目の前に座っているメイドさん以外いないだろう。
しかも、ユウキの目の前に座っているメイドさんはただのメイドではないことをユウキはよく知っている。
「じゃー質問を変える。王族近衛兵部隊のメイド部隊副隊長がなぜ俺の家のメイドをやるなどを?」
そうこのメイドは、王族近衛兵部隊のメイド部隊副隊長で、勇者一行の諜報と家事を引き受けていた。公的な記録では、勇者一行に従うただのメイドだったが諜報又は斥候能力は、勇者一行随一の実力者。そんなメイドがなんの理由も裏もなくメイドをやるなどおかしい。
ここ三ヶ月は、国から何のアプローチもされなかったのでユウキは、問題を起こさなければ、このまま最高の生活が送れると思っていた。
「私は、もう王族近衛兵部隊のメイド部隊副隊長ではありません。これが除隊証明書と任命書です」
となにか契約書と思われる紙を二枚机の上に置いた。それを見てユウキは目見開いた。除隊証明書には最後の文に除隊を許可する代わりに任命書に書いてある職務に準ずることと記してある。
そして、任命書には、
「六日二日からメイドギルド王都本店所属 アリシアを瀬名勇樹の専属メイドに任命する。だ……と……」
しかも、この任命書には、王女のサインと国王のサインまで入っている。
つまり、これは王族の権限を使い発行したことになる。
「そして、これが王女様からの手紙になります」
『ソフィーから親愛なる元勇者へ
今日からアリシアをあなたの専属メイドにするからよろしくね。
あなたの楽して暮らしたいという望みには一人ぐらいメイドがいるでしょう。
あと、サインでわかると思うのけど、拒否権はないからからそのつもりでお願いね。
これは、彼女の願いでもあるのよ。
P・S 私の誕生祭パーティーには必ず来なさい!』
「とぉぉぉう!!!」
ユウキは読み終わった手紙を丸めて勢いよく床にたたきつけた。
憤然と席を立つユウキを、アリシアはあくまで平然とした態度でユウキを見つめてる。
「王国広しといえど、ソフィーア王女殿下の手紙を丸めて床にたたきつけるなどユウキ様以外にはおられないないと思います」
(どうする? いくら除隊しているといってもどう考えても何らかの思惑があるとしか思えない。俺は、国から毎月の生活費をいくらからもらって今は、年金生活みたいなものだ。あの王女なら俺がこれを拒否したら元勇者であろうと差止めくらいは、平気でやるだろう)
難しい顔で考えこむユウキ。
「なにか他に質問はありますか?」
「この任命書を見るに、メイドギルドからの正式な依頼になっているが、俺は今は、無職で君の給金を払っていける余裕はないんだが」
「それに関しては大丈夫です。これは、王家がギルドに依頼したもで、支払いも王家することになっています」
(拒否する理由がねぇーー)
ユウキは、目の前のメイドを見ながら断る理由を考えた。
「この手紙にも書いてるがアリシアさんが願いでと書いてあるが本当ですか?」
「アリシアさんでなくアリシアでお願いします。今日から私は、あなた専属のメイドとなったのですから。あと、敬語も不要です。主に敬語で話されては、私は、メイドとして笑い者です。以後気をつけてください。先ほどの質問の答えはYESです」
出会ったころの癖で、敬語になってしまったユウキだが、いよいよ拒否する理由がなくなってきた。
「しかし、なんでわざわざメイド部隊副隊長をやめてまで俺のメイドにアリシアがなる必要がある?」
「それは、先ほど言った通り私が除隊を願ったからです」
「だが、そんな簡単にやめられるものなのか?」
「その通りです。王族の秘密を多く知るメイド部隊副隊長がそう簡単に除隊が許されるわけがありません。ですが、許された理由が三つあります」
アリシアはこの質問がくるとわかっていたの丁寧に説明し始めた。
「まず一つ目は、非公式とえ私は勇者一行のメンバーの一人で王に願いを聞いてもらえる権利があるということです。二つ目は、勇者のメイドなら王族の秘密を悪用または、漏らす可能性が限りなく低いこと。まんがいち私が、裏切るようなことがあってもユウキ様なら簡単に私を殺すことが可能です。三つ目は、あなたの最低限の監視ができるからです」
アリシアはそう言って説明を終えた。当然、先ほどの説明に疑問を覚えたユウキは尋ねた。
「三つ目は、言ってしまってよかったのか?」
「かまいません。ユウキ様が、こちらに住まわれた時期から監視されておりますが、私が来たことでそれらの黙っての監視はなくなります。監視の件は、わかっていたのでは、ありませんか?」
確かに、この街に来てから誰かに監視されている感覚はあった。ユウキとて監視ぐらいはされると思っていたのであまり気に止めていなかった。
「それに、監視レベルも以前と違い、四六時中というわけではありません。私にもメイドの仕事がありますので」
この返答にユウキは眉を顰めた。このタイミングで監視のレベル下げる理由の方に違和感を感じたからだ。
「じゃー最後の質問だが、俺が君から王族の秘密を何等か方法で聞き出し悪用する可能性は考えなかったのか?」
「もし、私から秘密が漏れたとしても今のあなたなら……神器をもっていないあなたなら国としてはそれ程脅威ではありませんから。この理由を合わせれば私がここにメイドに来た理由は四つですね。」
「まぁーそうだな」
少し重たい空気が応接室によどむ。
これで話は終わりだと判断したアリシアは席からたち上がった。
「これで質問が終わりなら夕食の準備にとりかからせていただきます」
失礼しますと、この部屋から出ていこうとしている。
このままでは、最初から最後まで会話の主導権はアリシアのままだ。
ユウキは男として、微かなプライドを総動員させて、勢いよく立ちあがって指さし、大声で言った。
「も、もし、使えなかった即刻追い出すからな!うちに使えないメイドはいらないからな!」
せてもの反撃に高圧的に言ったつもりだったが、そんなことは、ありえないと言わんという自信満々の笑みを浮かべてスカート少し持ち上げ綺麗な礼をしながらこう答えた。
「メイドの矜持にかけて誓います」
その日の夕食は絶品のはずなのに悔しそうに食べるユウキの顔と勝ち誇ったメイドの顔が印象的な夕食となった。
王金貨1枚=白金貨50枚
白金貨1枚=金貨25枚
金貨1枚=銀貨50枚
銀貨1枚=銅貨30枚
処女作でまだいろいろ未熟なので感想などあれば気軽にお願いします。