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Hプロジェクト  作者: jun
3/4

3、探索

 アシェリーは壁づたいにゆっくり右へと移動して行く。おそらく部屋の造りは隣と似ているはず。


 ん? 何かしら……。右手が何かに触れた。両手で輪郭をたどり頭の中で形を作り上げてゆく。


 どうやら縦に伸びるパイプの様だ。更にパイプを辿って下へ手を下ろすと、何か大きな物がある。


 少しひんやりしていて四角い物。その下には楕円形で中心に穴が……。


「嫌だ! トイレじゃない!」

 アシェリーは思い切り手を中に入れて触ってしまった。


「どうした? トイレがあったのか?」

 男が心配して声を掛けてくれた。この暗闇でもたいして恐怖感が無いのは彼のお陰だ。


「あ、えぇ、トイレがあったわ! そっちはどう?」

 アシェリーは前屈するように床に貯まった水で、手を丁寧に洗いながら聞いた。


「いや、こっちは全然だ! ……!? まて何かあるぞ!」

 男が興奮した声を上げた。


「何、何があるの?」


「まてよ……ベッドだ! これはベッドに間違いない!」

 男が歓喜の声を上げるが、今現在なんの役にも立ちはしない。


「……そう、引き続きお願いね」

 それにしたって私の居た部屋とは違って、随分サービスがいいじゃない? 今見つけただけでも、トイレにベッド。布団もこちら側にあったし、水はバルブこそ隣にあったけど結局この部屋だし。


「あぁ、分かってる」


 ギシギシとベッドが軋む音が聞こえる。どうやらベッドに乗って壁を調べるつもりらしい。


 その数秒後、男の悲鳴が響き渡った。


「うおぉぁぁ~……」


「な、なな、何よ! 脅かさないで!」


 男からの返事が無い。ギシッギシッ…とベッドをゆっくり移動する音だけが響いてくる。


「ちょっと! 急に黙るの止めてよ、怖いじゃない!」


「……死体だ。髪の長い、多分女性だ」

 男が静かな声で言った。


「死体!? なんだってそんな物が……」


「……分からない、俺もさっき目が覚めたばかりだからな」

 男の声は先程、悲鳴を上げたとは思えない程落ち着いて聞こえた。


「本当に死体なの? 最近のアレは良く出来てるって言うじゃない」


「最近のアレってなんだ?」


「だからアレよ……男の人が一人でする時に使う……」

 恥ずかしい、何を説明してんのかしら。


「あぁ、ダッチワ……の事か。アハハッ、感触が全然違うよ。これは間違いなく本物の死体だ!」


 この状況で笑えるなんてどうゆう神経してんのかしら……。アシェリーは少し蒸し暑い部屋の中でうっすら鳥肌が立った。この男少し警戒した方が良さそうだ。


「そ、そう、とりあえず明かりを探しましょ」


「そうだな! 明かりがあればこれが本物の死体だと証明出来る」

 男は妙な張り切り方をみせた。


 そっか……明かりが点けば、嫌でも死体を見なくてはならないのだ。かと言ってこのままでは脱出どころではない。


 アシェリーは更に右へ移動すると、小さな棚の様な物に手が触れた。


 棚は三十センチ程で二段に別れ、壁に直接付けられているようだ。


 棚の中を手探りであさっていくと、ビニール製の小さな袋を掴んだ。


 これは……あれに間違いない! アシェリーはゆっくり胸ポケットに袋をしまった。


 更にもう1つ見つけ……無意識でズボンの左ポケットへ入れたのだった。


 男の方からは未だに、ギシギシとベッドを這い回る音が聞こえてくる。死体があるベッドにいつまでも居られる神経が理解出来ない。あくまで男が死体だと言い張っているだけなのだが。


「……死体の胸ポケットにマッチがあったぞ! あとは蝋燭かランプでもあればいいんだが」


「あっ、でも待って……仮に蝋燭があったとしても、使わない方がいいかも」


「なんで? 暗いのが好きなのか?」


「違うわよ! 酸素、酸素よ! これだけ密閉された空間じゃ酸欠の恐れが高いわ」

 とりあえず酸素を供給出来るような、隙間やダクトを見つけるまでは無駄には出来ない。


「言ってる事は分かるが、少し火を着けてみて部屋全体を見た方が早いだろ?」


 確かに男の言ってる事も最もだ。この暗闇の中、手探りで探索するよりよっぽど確実な気がする。


「それもそうね。何か燃やせそうな物はある?」


「……ちょっと待ってな」


 再びベッドを這い回る音と布が擦れるような音。男のハァハァと言う息遣いが聞こえてくる。


「チョット何してんのよ? ハァハァ言って大丈夫なの?」

 暫しの沈黙があってから男が口を開いた。


「火を着けるぞ」


 カシャカシャと男がマッチを取り出す音がする。カシュッ……カシュッ、マッチを擦る音がするが一向に火が着く気配が無い。それどころか火花すら見えない。


「クソッ! 湿気ってやがる! クソックソッ!」


 ベチッベチッ……と生々しい音が聞こえてきた。男が苛立ついて自分の腕か腿でも叩いているらしい。


 どうやらこの男かなり短気な性格のようだ。


「落ち着いて! せっかく見つけたマッチが無駄になるわ。私に貸してちょうだい」

 アシェリーは音のした方向へとゆっくり歩いて行く。


 アシェリーの声など届いていないかのように、尚も男がマッチを擦る音が聞こえる。


 音が近い。男のチッと言う舌打ちの音も聞こえてきた。


 暗闇を探る手が何かに触れた。男に違いない。


「ねぇ、聞いてるの? 冷静になって! 隣の部屋で見てくるからマッチを貸してちょうだい?」

 アシェリーは男の肩辺りを掴んで冷静になるよう促す。


 突如アシェリーの手が払い退けられた。


「イタッ……何するのよ!」


「うるさい! 俺に命令するな! 俺が隣の部屋に行って見てくる」

 男はアシェリーを押し退けるように立ち上がり、隣の部屋へと続く明滅する明かりに向かい歩いて行く。


「落ち着いて! 冷静なって! 私でもギリギリ通れる程の穴なのよ? あなたには無理よ。途中で引っ掛かったら私の力じゃ助けられないわ」



「……すまない。助け合わなきゃな。あんたに任せるよ」

 男の声のトーンが少し下がり、落ち着きを取り戻したようにも感じるが。


 コロコロと変わる男の態度は恐怖でしかない。

はっきり言ってこんな特殊な状況でなければ、同じ空間に居るのも拒否したい。


 しかし今は、こんな男でも一人よりはましであり。利用してでも脱出の糸口を掴むべきである。


 アシェリーは男からマッチを受け取ると、隣の部屋へと続く穴に頭から這い進んで行った。


 砕け散った鏡の破片に気をつけながら自分の部屋? に戻ってきた。


 アシェリーは隣の部屋から覗く男の視線を避けるように、部屋の隅に行くと大きく深呼吸を一つしたのだった。


「はぁ……」

 さっきまでは薄汚れて不安だらけの部屋だったのだが、今は妙に落ち着く。


「おい! まだか? マッチが使えそうかなんて直ぐに分かるだろ」


 男が苛立ちを隠し切れぬように声を発した。


「あぁ、そうね。直ぐにチェックするわ」


 アシェリーは脱出の糸口が掴めるまで、なるべく男を刺激しないようにする事にした。


 ……ダメだ。マッチは全部で六本あったが微妙に湿気っている。


「ダメ! 六本あるけど全部湿気ってるわ」


「クソッ! なんだってんだ、ぬか喜びさせやがって!」


「そんな事、私に言われても困るわ」

 まるでマッチが湿ってるのは私のせいみたいな言い方だ。


「あっ、いや、アンタに言った分けじゃない。こんな下らない事をした奴らに言ったんだ」



 ……!? 奴ら? 何故複数系なのかしら。まぁ、これだけの事を一人で出来るとは思えないけど。ひょっとして彼の記憶が無いと言うのは、嘘なのかもしれないと思い始めた……。

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