第一話 歩み
この世界には魔法がある。
この世界には機械がある。
そしてこの世界には人がいる。
では神はいるのか?
そんなあやふやで不確かなものは存在しない。
あるのは力を持つもの、そして持たざるものだけである。
この世界の名はエル・ランドと呼ばれている。
高度に発達した機械と魔法が当たり前のように存在する世界だ。
そしてこの世界には魔法はあるがエルフやドワーフといった異種族は存在しない。
知的生命体として認識されているのは人間のみである。
今この世界で最も力強いものは大国や名のある冒険者といったものではなく”企業”である。
かつて起こった”大戦争”と呼ばれる全世界を巻き込んだ戦争により国は疲弊し、その力を失ってしまった。
しかし企業は戦争事業により様々な兵器を開発し利益を生み”力”と”富”を独占し、世界の支配者と呼ばれるまでに至った。
そして数ある内の企業の中に”大企業”と呼ばれる企業が存在する。
一つ目、”敷島重工”
二つ目、”ヴェルグリッド機関”
三つ目、”ツィアートシュピース”
四つ目、”エクスフォースカンパニー”
五つ目、”龍鋼全鉄”
そして六つ目、”ラブレラ”である。
一般的に企業という言葉を使うとこの内のどれか、またはこれら全ての企業を指す言葉になる。
そしてなぜこれらの企業が大企業と呼ばれるか。
それは大戦争中期に謎の天才科学者が発明した”スレイブジェネレータ”と呼ばれるエネルギー発生装置を保有しているからである。
このスレイブジェネレータ(通称SG)は作られた当時はあまり企業から関心を向けられていなかった。だがとある企業、ラブレラがそのスレイブジェネレータを搭載した新型アームドフレーム(通称AF)を戦場に投入したことにより状況は一変した。
かつての戦場は魔法と機械の力により組み上げられたAFが多数行き交い大企業の資金力に物をいわせた物量作戦のような形だった。
撃っては撃たれ、斬っては斬られ、それが戦場の常である。
だがそこに投入された三機のSG搭載型AFは各企業の物量を個人の力で跳ね返し、押し潰した。
圧倒的なスペックを誇るその三機は瞬く間に幾多の戦場を滅ぼし、ラブレラに利益を与え続けた。
当然その他の企業も指をくわえてみていたわけではない。
なんとかしてそのSGを入手し分解しその構造を研究しようとした。
だがそのすべてが失敗に終わった。
構造は把握できるしそのジェネレータを構成している素材がなんであるかも理解できる。だがなぜそれほどの”力”を発生させ続けることが可能なのかは誰にもわからなかった。
結果的に各企業は理由は不明だが結果は理解できるという謎の塊のようなジェネレータを搭載したAFを作り上げた。
そしてそのSG搭載型AFが格企業に生まれたことにより既存のAFは駆逐されていき今ではSG搭載型AFはスレイブアームドフレーム(通称SAF)と呼ばれ、見つけた瞬間逃げなければ死ぬとまで言われるほどになった。
そしてSAFを所有している数=強さという定義が完成し、各企業がこぞってSGの奪い合いを始め現在の六つの企業に落ち着いたというわけだ。
SGは発見当初はを全部で38基存在したがそのうちの二基は研究の為に分解されており、現在の総数は36基である。
最大保有数はもちろん最初にSAFを作ったラブレラで10基である。
次がエクスフォースカンパニーの7基
ヴェルグリッド機関が6基
ツィアートシュピースが5基
敷島重工が4基
龍鋼全鉄が4基
となる。
そして大戦争が終わった後も戦争による需要と供給は失われずに様々な中小企業や、もはや権威しか残っていない国、各所の街の要望に応えるため企業は働き続ける。
ここは企業街と呼ばれる企業が庇護を担っている世界で最も安全な街の一つである。
辺りは賑やかで人通りも多く住民の笑顔が絶えないといった様子だ。
見た目は完全に自動化とハイテク化が進んでおり一切の乱れのない歩道や全面ガラス張りのビルに大型モニターなど、まさに最先端といった様子だ。
行き交う人々の間には自動掃除用のメカが時折走っており人ごみの中をすいすいと走ったりもしている。
そしてその人通りの中心で一人決意を秘めている青年がいた。
「(いよいよ……いよいよ面接だ……ここで頑張ってあいつらをみかえしてやる!)」
スーツに黒鞄を持った青年、黒い髪は短めに切りそろえられており顔立ちはそこそこ整っている…というよりはさわやかイケメンといった感じだ。
慎重は180センチと高めであり筋肉もほどほどについている。
そしてそんな青年は周りの女性に見られながらも歩を進め”ラブレラ”に向かう。
そう、いまこの場所は大企業ラブレラが庇護を担当している街なのである。
つまり世界で最も安全と呼ばれる企業街の中でも群を抜いて安全な街なのだ。
青年が向かったのは企業街の最北にあるラブレラの支社の内の一つである。
沢山のビルが並んでいる街の中でも更に大きいビルである。
巨大な円柱を取り囲むように背の不揃いな直方体の建物が並んでいるビルのに向かって歩みを進める。
やがて青年は中心の円柱の建物、およそ300メートルはあるだろう、に入り受付に向かう。
「す、すいません!この度御社の面接を受けに参りましたシュウと申します!」
声が裏返っていたのか、緊張のし過ぎなのか、自分が若い子だからなのかは知らないが受付のお姉さんはくすっ、と少し笑うと美しい声で説明を始めた。
「ようこそラブレラへ、面接の説明は12階の奥にある新入社員応募説明会と書かれた部屋で一時より始まります。移動の際はあちらのエレベーターをお使いください」
そういって受付のお姉さんは右手側にある三基ならんだエレベーターを示す。
「あ、ありがとうございます!行ってきます」
「くすっ、ええ、いってらっしゃい。頑張ってね!」
お姉さんから励ましの言葉をもらえ一層やる気の出たテラはエレベーターに乗り込み12階を目指す。
12階に到着し目的の部屋に入るとそこは大きな部屋でホールのようになっていた。
もう既に人が何人かおり、頻繁に腕時計を確認するものや何故か辞書を見ているいるもの、顔が蒼くなっているものもいた。
テラは適当に席にすわる。特に席順などは決められているわけではないらしい。
「よ、あんたも応募してきた人?」
軽い声で隣から声をかけられた。
隣を見ると自分よりも少し長い茶髪を適当の伸ばしている青年がいた。歳の頃は自分と同じだろう。
「ああ、そういう君も?」
「ああ、俺はジュンってんだ。ま、仲良くやろうぜ」
なんだかとても軽い調子の人だ。一応スーツを着てはいるものの少し崩してきているためか、軽い雰囲気に拍車がかかる。
「僕はシュウっていうんだ。よろしく」
「しっかし30分も前なのに人が多いねぇ~、やっぱ天下のラブレラだからか?」
「だろうね。まぁ入社できれば人生成功したも同然といわれているくらいだしね」
「まぁな。お前って外から来た人間?それとも中から?」
「ああ、僕は中からだよ」
ここで言われている”中”と”外”とは企業街の中から来たかそれとも外から来たかをいっている。
最初から中に住んでいる人間はいわゆる富裕層に分類され安全な生活を送ることが出来る人間だ。比べて外から来た人間はその街を収めている企業に対して一定以上の兵役と金を収めなければ正式な企業街の住人として認められず、家を買うことや医療サービス等の補助を受けることが出来ない。
また企業街そのものに入るときも中からの招待か金を納めなければならないので中と外の格差はかなり激しいものになっている。
そもそもここまで企業街の生活環境がいい理由はやはり魔物に怯える必要がないからだろう。
かつての大戦争により世界は荒廃し自然は荒れ、さらには凶暴な魔物がうろついているとあっては企業に守られた企業街は外の人間から見たらエデンのように見えるだろう。
以上の理由により中と外の差別はかなり激しいものになっているのだ。
「なるほどね、まぁ育ちよさそうだしそうじゃないかとは思ってたけど。あ、ちなみに俺は生まれは外で育ちは中なんだ。両親が俺を生んだ後にこっちに移住したきたらしいんだ」
「へぇ、てことは外のことはあんまり覚えてないの?」
「なんも記憶にねぇな。ていうか俺がここを受けに来た理由は親父が死んじまったからなんだよ。正式な住民として認めてもらうための兵役と税をまだ納め終わってないんだけど社員になればそれ全部飛ばして家族全員が住民として認めてもらえるからな」
「え?君っていくつなの?」
「あん?18だけど」
「君のお父さんって何年兵役を納めたの?」
「3年だ。本来は5年間だからまだ兵役期間が残ってる。んで親父が死んだのは俺が子供の頃だ。だから俺がでかくなるための間はおふくろがパートとかで稼いでてくれたんだよ。んで、おふくろと妹に楽をさせつつ収入を得るには企業の社員になるしかねぇって感じで来たわけよ」
「すごいね……僕なんかと違ってはっきりと目的を持ってその為に頑張っているんだね」
「そういうお前はどんな理由なんだ?何となくとかは禁止だからな」
「え……っと、その、みんなを見返したくて」
「見返したい……ねぇ。なんだお前、いじめられてたの?」
「そういうわけじゃないけど……昔から何やっても平均くらいしかできなくて、なんでもいいから人に誇れるものが欲しくてここに来たんだ」
「へぇ……別に人並みにしかできないってのも悪くはないと思うけどねぇ」
ジュンの言葉に沈んでいた顔を上げるシュウ。
「そ、そうかな?」
「それって逆にいえばどんなことでも人並みにはこなせるってことだろ?だったろそれを自慢しろよ。自分には苦手なものが何一つありませんってな」
「なるほど……そういう考え方もあるのか……」
「俺から言えばお前はくよくよしすぎなだけだと思うぜ。もうちょい胸張って生きてみろよ」
「そ、そうだね!頑張ってみるよ!」
と、そこへ一人の男性が入ってきた。
スーツがあまり似合ってない筋骨隆々とした頭はスキンヘッドで肌は小麦色の男性だ。
その男性はホールの一番前に設置された壇上の上に立つとマイクを握って話し始めた。
「ようこそ応募者諸君!私は今回の新入社員応募の説明を行うザックという者だ!今回はよろしく頼む!」
ザックと名乗る男性は明るく芯の通ったガッシリとした声で、ザックの性格をわかりやすく伝えるような声だった。
「ここに集まっている皆はすでに体力テスト、魔法技能テスト、学力テスト、を通ったエリート揃いだ。その辺の中小企業ならすぐにでも採用されるような逸材揃いだと私は思っている。そして今回行われるのは面接だ。この試験で最後になるため心して受けてくれたまえ。名前を呼ばれたものから隣の個室に入って面接を受けてくれたまえ。終わったものから順次解散してくれて構わない。合否の通知は一週間以内に通知されるから期待して待っていてくれ。説明は以上だ。何か質問は?」
はきはきと説明を続けるザック。
と、そこでジュンが手を挙げた。
「はい」
「ふむ、どうぞ」
「席が50人分ほどありますけど実際来てるのは30人程度ですよね。これってどういうことっすか?」
「いい質問だね。答えは簡単だ。前回行ったテストのほかに秘密のテスト項目があってね。それは君たちの日常生活を監視し大きな問題を抱えていなかったり、または起こさなかったものだけが今ここにいるというわけだ」
さらりと重大な発言をするザック。
日常生活監視だって?プライバシーとかはどうなっているんだ。
「え゛?そ、そんなことってしていいんですか?」
ジュンもだいぶ驚いているようだ。当然だろう。
「いいに決まっている。この街を管理し守り、支配しているのは我がラブレラなのだ。自分のものにいちいちお伺いを立てる必要などない。それにここにいるのは日常生活で特に問題なしと判断された潔白な者だけだ。自身を持ちたまえ」
いい笑顔で答えるザック。
そういう問題じゃないだろうと突っ込みたかったがそんなことは言えない。
僕たちは文字通りこのラブレラに生かされているのだから。
「えっと……ありがとうございました」
「うむ、ほかに質問はあるかね?…ないようだな。では一時半から面接を始める。最初の者と次の者は名前を呼ぶので呼ばれたら指示に従って待ちなさい。では」
そういって退出するザック。
係りの女性によばれて最初の人と次の人が部屋を出ていく。
あたりは先ほどの答えに対して少し焦っているような雰囲気だ。
「…まさか監視してたなんてな。ちょっとびっくりしちまったわ」
「僕もだよ…でも文句は言えないよね。文句を聞いて、その問題を解決するのもラブレラなんだから」
「それもそうだけど……やっぱ企業ってのはスゲーな。改めてそう思ったよ」
「ホントだね……」
先ほどの説明だけで少し疲れてしまったジュンとシュウ。
少し時間がたってからジュンが呼ばれる。
「お!んじゃ、行ってくるわ」
「うん、頑張ってね」
笑顔で部屋を出ていくジュン。
かなうことなら彼には受かってほしいものだ。
そして、ついに自分の番が呼ばれた。
「シュウ・アマギリ、面接の部屋の前で待機していなさい」
係りの女性に呼ばれ部屋を出て、個室の前にある椅子に座り待つシュウ。
そして先ほどまで面接を受けていた男性が出て行った。
ついに自分の番だ!頑張れ、僕!
そうやって自分を奮起させ僕は部屋のドアをノックした。
これは「ゲームのようで異世界で」の息抜きに書いた作品です。
更新は不定期になりますのでご了承ください。
なんでもありで設定が甘いところも多々あるので間違いや矛盾があればご指摘いただけると幸いです。