二話目 心の傷
それから、謡姫は陸遜に喬家に連絡してもらい、二日間陸家の世話になることになった。
謡姫は陸遜がよほど気に入ったのか、ずっと陸遜のそばを離れなかった。
陸遜は、あまり部屋から出ず食事も部屋の中で食べていた。
何で、みんなで食べないんだろう?と、謡姫は、不思議に思った。
「ねぇ、なんでおへやからでないの?陸遜のかーさまとか、きょうだいとあわないの?」
「あぁ、俺は違う母上の息子だから。」
「??だから?」
「俺は父上の、前の妻の間に出来た子供だ。
だから、あの人から見たら目障りだし、父上は俺の母上を溺愛してたから。
でも、母上が病にかかったら、あいつ、母上になんか見向きもせずあの人のところに………、
……母上が、死んだ時もだ。」
謡姫は、聞いてはいけないことを聞いてしまったと思った。この人の心の傷にふれてしまだたんだと…
「……何でだろ、君に会ったばっかりなのに、君といると落ち着くし、なんでも話せるんだ。」
「私も、陸遜といるとたのしい!、だから、陸遜が言いたいことがあったり、さびしかったりしたら、よんで!なんにもできないかもしれないけど、ずーと、陸遜のそばにいるっ。」
「謡姫…。」
「 陸遜は、陸遜のとーさまと、しゃべったりしたの?わたし、とーさまのことしらないもん。」
「え、二喬殿の父上じゃないのか?」
「わたしのかーさまは、大喬っていうんだよ?喬じいは、おじいちゃんだよ?」
陸遜は、顎が外れる位の驚きを隠せなかった。
何故なら、謡姫が母と言った大喬は妹の小喬とならんでものすごい美少女で江東の二喬と称されるほどであり、まだ誰の妻にもなっていないはずなのに六歳の娘がいるなど、聞いたこともなかったからだ。
「かーさまがね、とーさまは、やさしくて、かっこいいのよっていってた!…でも、とーさまはね、やらなくちゃいけないことがあって、かーさまとわかれたんだって、そのときにとーさまが、かーさまにきれいな首飾りをくれたんだって、それで、
"俺は、必ずお前を迎えに来る。
その時ままで待っていてくれ"
って、いったんだって。そのあと、わたしが生まれたってかーさまがいってたんだ。だから、わたしもかーさまといっしょにまってるんだ!
…でも、ちょっとさびしいんだ。
かーさまも時々さびしそうなかおしてるの。
…そんなかーさまのかおみるとかなしくなるんだ」
謡姫の顔は、さっきの元気がなくなり寂しげにうつむいていた。
「俺がそばにいる。」
「え?」
「謡姫がいってくれたように、謡姫が寂しい時、悲しい時は、ずっと謡姫のそばにいるよ。」
そう言い、陸遜は優しげな微笑みを謡姫にむけた。
「ありがとっ!」
謡姫は、そういって陸遜に抱きついた。
可愛らしい笑顔で。
陸遜は、そっと謡姫を抱きしめた。
二人の心の傷が、溶けていった。