ゼクトール、経済失策を打開する。
第二次、対ケティム戦が終了してしばらくのこと。
ゼクトール絶対君主国は、戦争……もとい、元々疲弊していた経済をたち直らせるため、観光事業へ傾注していた時期がありました。
このお話は、経済復興委員長会議より始まります。
「――ということで、経済問題打開策として、観光事業開発推進で、意見の一致を見ました」
議長役のジェベル首相が一時的にその場を締めた。
「観光といえば名所巡りがデフォルトだよな。旅行なんてあんまり連れてってもらったことないし、わかんないや」
ひょんな事からゼクトールの国王に着いた桃矢。十七歳の歴史で旅行らしい旅行は、家族(桃果付き)で行った海水浴と中学の時の九州方面修学旅行だけだ。
「ゼクトールは奇跡の島! ついこないだまで、世界と断絶していた島。観光名所の一つや二つ、あるでしょ?」
クッキーをかじりながら会議に出席している桃果である。
ちなみに桃果の肩書きは軍事参謀長。ポストは、ミウラ防衛委員長の下である。
日本の国会に相当する委員長会議に出席できる権利を持たない。今回はあくまでオブザーバー出席である。もちろん、桃果発案の出席である。
「名所……名所ねぇ?」
首をかしげる委員長たち。
「ちょっと、山とかあるでしょ? ゼクトール山とか!」
桃果が身を乗り出す。
「申し訳ありません、ゼクトールに山はありません」
にこやかに答えるジェペル。
珊瑚礁が、申し訳なく思いつつ隆起。さらに恥ずかしながら、ちょこっとてっぺんだけ顔を出した。そんな島がゼクトール島。
地形はフラット。山もなければ谷もない。
「じゃ、川は? 大自然の中、急流下りできる川なんか……」
「モモカ様。誠に申し訳ありません。山がない以上、大きな川もまたしかり」
丁寧に答えるジェペルである。
「じゃ、湖は? 朝霧に煙る湖!」
「申し訳ありません」
桃果、いやな空気を察してか、やや間を開ける。
「森なんか……」
「申し訳ありません」
「遊園地」
「椰子の木にぶら下げたブランコなら……」
「独自進化した動植物」
「先代のゼプタ国王が持ち込んだ外来種によって絶滅の……」
「……」
無機質にクッキーを口に運ぶ桃果。
そのとき、このタイミングでエレカが挙手をした。
「ゼクトールにゃよ、きれいな海があるじゃないか。世界でも最大級の遠浅の海。そして最高級の透明度。こいつをアピールしない手はないぜ!」
「でかした!」
ドンと片足をテーブルにおろす桃果。エレカをほめる。
ちなみに、オブザーバーに発言権はない。
「え、海で何をするんですか? 海水浴?」
ノアが目を丸くして聞いてきた。
「ダイビングで国おこしよ!」
今度はテーブルを叩きまくる桃果。
「熱帯魚たくさんいるじゃない! 入れ食いじゃない! グレートバリアリーフ顔負けの浅瀬があるじゃない! これよこれ! ダイビングツアー! 大成功間違いなし!」
何度も言うがオブザーバーに発言権はない。……咎める者は一人といないが。
「ゼクトールに、みやげ物屋はあるの?」
「はい、ゼクトール公務員の綺麗どころを売り子に配置しているのですが、なにぶんゼクトールは遠隔地。旅費自体がかなりの額になるもので財布の紐が固くて……」
商務委員長のジムルが消え入りそうな声で答えた。
「客さえ来ればこっちのもの! 宿泊費用とダイビング費用を安く抑えて、かわりにおみやげを売りつけてお金を落とさせるのよ!」
「おお!」
「ゼクトールせんべい。ゼクトールまんじゅう。ゼクトールペナントなんかいいわね! そうそう、珊瑚の破片で適当に造った石灯籠なんかも必須ね!」
桃果の勢いに流され、委員長達は土産物物産会議へと突入した。
みやげ店の奥で客を待ってるだけ、なんて、受け身すぎなくね?
新幹線の売り子みたく、籠やワゴンに乗せて攻めの販売すればよくね?
それでは固定店がカラになってしまいますよぉ。
留守番雇えばいいじゃん!
留守番に新たに配置する人件費はバカになりませんよ。
近隣の村にヒマしてる子供がいるでしょ? お手伝いさせればいいじゃない!
僕にも発言させてください。
はいはいおやつですよ。今日はチョコクッキーですよ。
わーい!
このように、白熱した委員長会議を経て、ゼクトールは世界に、ダイビング王国としてデビューしたのであった。
デビューだけなら誰でもできる。
要は、人気が出るか出ないか。需要は有るや否や。である。
ゼクトール本島の海は遠浅である。
ホバークラフト型強襲揚陸艦でないと上陸できない地形。それがゼクトール防衛戦に一役買ったのは記憶に新しい。
珊瑚礁が、人知れずこっそり隆起した島。それがゼクトール。
そう、ゼクトール周囲数百メートルは遠浅過ぎる海にして、浅すぎる海。
干潮時は平均水深五十センチ。満潮時でも一メートル。
初心者でも溺れない海として有名。
ダイビング経験者ならわかるはず。
初心者ならいざ知らず、海外でダイビングを楽しもうなどと思いつくリア充共は、全て中・上級者。
ある程度の深度がないと面白くない。
ゼクトトールの海でも、沖合に出れば深い場所がある。
ただし、エンジン付きでないと身動きとれないハゲシく渦巻く魔の海流。ダイビングなど言語道断、海難事故確実!
いざ蓋を開けてみると、お客さんが来ない。
で、方針転換。
一部の日本人より熱望されていた、「エンスウの聖地巡礼ツアー」。
大量の旅行客誘致を狙った首脳部。ゼクトール日本大使館を通じ、オタのとりまとめ役にリベートを渡す。
これが大成功!
どっと、大きいお友達……もとい、団体客がやってくることになった。
団体名「エンスウ・ファンクラブ聖地巡礼団」。ちょっと大きなお兄さんの団体。
ここぞとばかりにおみやげ攻勢に入る大人のお姉さん……もとい、売り子さん。
大人のお姉さん。ナイスバディで笑顔のさわやかなお姉さんが積極的!
ところが、聖地巡礼団の皆様は、こういった攻勢に慣れてないらしく、腰が砕けてしまった。
何も買ってくれない。て、ゆーか、お姉さんと口がきけない。逃げる。
大失敗!
と、おもいきや――。
この団体、そこそこの金額をみやげ物屋に落としていってくれた。
店の留守番にかり出された近所の子供達。
下は四歳から上は十歳の女子。
ヨウジョヨウジョと意味不明な声を出しながら、お兄さん方は、幼い売り子さんが勧めるまま、金の続く限り買いまくっていった。
これに味をしめたゼクトール首脳部。
みやげ物を増産。国を挙げて幼子を繰り出すものの……。
――未成年の労働は禁止――。
国際社会から、総突っ込みが入った。
なんかスゴイ勢いで怒られた。
残ったのは、賞味期限を切らしたせんべい、まんじゅう。在庫超過のペナント、珊瑚の石灯籠。累々。
ゼクトール観光事業。最終決算は赤字であった。
続きはあるんですが、書いてる時間がないので一旦完結させて頂きます。
また再開しますんで、そのときは4649!