ゼクトール国王抜きの秘密ガールズ会議
議長であるマープルの第一声がこうだった。
「ではこれより、第一回、『いかにすればトーヤ陛下よりご寵愛を受けられるか』会議を始めます」
かなり穏やかでない議題である。
「現在の勢力分布を……アムル法務委員長から、解説お願いします」
ハイ! と元気よく返事して立ち上がるアムル。長めのポニーテールが背中で揺れる。
「現在、トーヤ陛下の本命はモモカ様。対抗がミウラ国防委員長。穴がジェペル宰相であろうと思われます」
「このままでは、三名による寡頭体制、あるいはトロイカ体制が確定いたします。これはゆゆしき事態!」
マープルは、アンダーフレームをクイと上げ、得意顔で話を進める。
「確定してしまえば、我らの入り込む隙間がありません。三名に水をあけられる前に、なんとか我らも潜り込まねば、一族の名折れです!」
眉を吊り上げ、うんうんと頷くメンバーたち。
議長のマープル財務委員長、先ほどのアムルをはじめ、ノア農務委員長、サラ外務委員長の四人だ。
順に十六歳・十五歳・十三歳・十三歳と若い。
「質問があります!」
挙手したのはサラ。おかっぱ頭で、接触感覚が柔らかそうなイメージの幼児体型である。
「基本的な質問ですが、ご寵愛と何のことでしょうか? 具体的に何をすればよいのでしょうか?」
紀元前より、ここゼクトールにおいて、王の寵愛を受けるとは、一族の反映を約束される事。笑い事では済まされない。
そして、各委員長は各々の一族代表でもある。言い換えれば、箱入りのお嬢さん達。
「エッチ的な事をすればいいのですわ」
マープルが、当然とばかりに答えた。
「エッチ的な事って、何ですか?」
興味津々、アムルがポニーテールを揺らしながら質問してきた。
「そう来るであろうと思って、オブザーバーにエレカ国土交通委員長を呼んであります」
あ、知らないんだ。マープルさん知らないんだ。ひそひそ話が聞こえてくる。
「こほん、こほん! ではエレカ委員長どうぞ!」
マープルは金の巻き毛を手ではらい、無理矢理話を続けた。
「エレカです。話は聞かせてもらった」
ドアを開け、ニヤニヤ顔のエレカが入ってきた。黒いショートヘアに黒い瞳。ボーイッシュな美人である。
「率直に聞こう! 君たち、赤ちゃんは、母ちゃんのどこから体外に出てくるか知っているか?」
「おヘソじゃないんですか?」
おっかなびっくり、アムルが聞いてきた。
「子供の作り方を述べよ。はい、マープル委員長!」
「た、たぶん……、お布団の中で――男子と女子が、脇の下とかをコチョコチョしてると、赤ちゃんができるのでは……?」
エレカが大きく息を吐いた。
「オーケー、オーケー、わかった、わかった。てめぇらがガキだという事がよくわかった」
エレカが息を吸い込んだ。
「俺は変化球が嫌いだ。牽制球も嫌いだ。直球勝負でいかせてもらう!」
エレカの目がハゲシク輝いた。
「赤ちゃんは『ピー』から出てくる! と婆ちゃんが言ってた」
「ええーっ!」
エレカが放った衝撃の事実に、四人の委員長が驚きの声を放った。
「エッチ的なこととは――」
エレカが謎の間を開けた。
「男の『ピー』が女の『ピー』の『ピー』に『ピー』するんだ」
早くも自主規制が入った。
「で、『ピー』の中で『ピー』が出て『ピー』と『ピー』して『ピー』だ」
ドッドッドッドッドッドッ!
部屋中に響くエンジン音。いや、四人の心音だ。四人とも目に妙な熱を帯びている。
「ま、まさか!」
アムルがいち早く回復した。
「『ピー』の『ピー』にも?」
「そうだよ!」
ドッドッドッドッドッドッ!
「いや、おめぇらの心音うるさいって!」
「エレカさん! 男の人の『ピー』ってどれくらいの『ピー』なんですか? あたし怖い」
泣きそうな顔をするアムル。
「心配すんなって。お前らの父ちゃんや母ちゃんも『ピー』してたんだから」
カラカラと声を出して笑うエレカである。
「男の人の『ピー』って、どのくらい大きいんですか?」
ビクビクしながら、それでいてワクワクしながらノアが聞いてきた。
「そうだな、俺がこっそりアニキが一人で『ピー』してたのを覗いたときは……」
エレカが腕をグイと突き出した。
「俺の腕を1とすれば、『自主規制中です』は『自主規制中です』くらいかな? いや、なにこれ、エンジン音?」
四人の委員長は言葉もなく、ただ心音を高回転に留めているだけ。
「男は『自主規制中です』の状態じゃなきゃ『自主規制中です』できないんだよ。で、攻略法なんだが……」
四人の目がエレカに集まった。
「力ずくでヤっちまうんだよ! いやちょっと四気筒エンジン音うるさいって!」
「ど、どうやって! 無理矢理って? だいいち――」
マープルの口がわなないている。
「ゼクトールで強姦罪は重罪ですことよーっ!」
「ヘタレのトーヤ陛下にゃそれくらいがちょうどいいんだよ!」
会議室に四人の心音が木霊する。
「で、手法だが――」
四人の目がエレカに集中した。穴が開くくらいに集中した。
「ダレた男の『禁則事項です』を無理矢理『禁則事項です』させるには、ケツの『禁則事項です』に『禁則事項です。禁則事項です。禁則事項です』すると一発で『禁則事項です』するから、そこで女が跨がってだな、腰を『禁則事項です』して『禁則事項です。禁則事項です』すりゃ、あとはこっちのモンだ!」
委員長エンジン音がピークにまで達した。
我に返ったマープルが叫ぶ。
「それこそ強姦じゃないですか!」
「バカヤロウ! 中『■■』すりゃ和姦だ!」
エレカの反論。やたら説得力がある。
「よーし、ノッてきた! 今からトーヤ陛下をヤッてくるぜ!」
エレカは、目をギラギラ光らせながら、部屋を飛び出していった。
開けっ放しのドアから入ってきた涼しい風が、四人の頬をなでる。外より部屋の温度が高かったのだ。
「はいはい、皆さん、会議ご苦労様。今日のおやつはバームクーヘンですよ」
ゼクトール宰相のジェベルが、シロップで艶々に光る黄金色のバームクーヘンを持って部屋に入ってきた。焼きたてである。
たちまち広がる甘い香り。
「わーい!」
今までの緊迫感はどこへやら。四人の委員長は、にこにこ顔でおやつに手を出した。
色気より食い気。みんな年相応の顔をして口を動かしている。
「あ、そうだ! エレカ委員長が!」
いちはやく我に返ったアムルが、ドアの向こうへ視線を送る。
「大丈夫ですよ」
笑顔のジェベル。
「モモカ様に通報済みです」
ジェベルの得意技。笑顔なのに怖い。で、あった。
というわけで、目立たない娘たちに光を当ててみました。
エレカはこの後、桃果と自転車でチェイスするわけですが、それはまた後の……もとい、前の話。
ふぃーっ =3
……。
なろう委員会から怒られたらどうしよう?