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ゼクトールにテレビが潜入しました!

『AZW特派員こと命知らずの美人突撃レポーター、あなたのロゼ・ガードナーです! スタジオ、聞こえる? ただいまゼクトール国際空港へ降り立ちました! これから我が社の独占生放送が始まるのよ!』

「やあ、ロゼ! こちらスタジオのチャーリーだ。相変わらず無茶をする。そこが君のチャームポイントなんだがね!」

 スタジオ見学者、爆笑。


「それにしてもロゼ、よくもまあ、交戦中の敵国へ堂々と侵入できたものだね? あそこたしか避難勧告が出ているヤバイ国だろ?」

『まじめな話、普通に申請したらすんなり入国できたわよ。愛と真実の人、ロゼ・ガードナーは、このチャンスを神様からの贈り物と思う事にしたわ!』

「十日前に、合衆国艦隊が行動不能になったばかりだからね。気をつけてくれよ。君に何かあったら、大変な損害が出る……保険会社に!」

 スタジオ、今度はクスクス声がわき起こる。


『保険会社を潰すくらいの――ああ待ってチャーリー、空港出口に軍人さんがいたわ! 早速インタビューよ!』

「おいおいロゼ、僕よりインタビューが大事なのかい?」

『スゴイ美人の軍人さんよ! 日に焼けているけど、金髪にアイスブルーの目、スゴイ美人よ。ちょっと冷たそうだけどね。スゴイセクシーな水着、着てるけど』

「オーケー、ロゼ! 僕の事はほっといてインタビューを敢行してくれ!」

 スタジオ、爆笑の渦。


『ハーイ、軍人さん、私、合衆国AZW特派員のロゼ。インタビューいいかしら?』

『あ、いや、あの、本官は――』


『安心して。これはゼクトール国内には流れないの。あなたの名前も聞かないし。これでいいでしょ?』 

『は、いや、あの――』


『じゃ、軍人エックスさん、さっそくだけど、あなたこの戦争をどう思う? ああ、ケティムと合衆国、どちらでもいいわよ!』

『わ、わた、わたしは、ゼクトール軍人として、一命をかけ戦っただけです! トーヤ陛下万歳!』


『オーケー、オーケー! どうやら軍関係者は立場があるようね。チャーリー、空港と可愛い軍人さんはこれまでにして、いよいよ国内に潜入するわ』

「よーしわかったロゼ。十分注意してくれよ。じゃ、僕からのプレゼント。一旦CMに入ろうか!」

 スタジオ、笑いの中、カメラが引いていく。






「何が、プレゼント! だ、あのバカ!」

 ロゼは美しい顔を歪めて、空港の外へ出た。


 メイン司会者、チャーリーとロゼは、犬猿の仲である。そのことを知っている取材クルー達は、見て見ぬフリをして小さくなっていた。

「見てなさい、この生番組を成功させて、あの鳥頭を蹴落としてあげるわ!」

 ロゼは、通りの真ん中を肩で風切って歩いている。


「おっと、ごめんよ!」

 ロゼの肩ギリギリ。自転車が猛スピードで走り抜けていった。

 危険を察知したロゼが、身体を回転させて避けたから良かったものの、一歩間違えば衝突していた。


 自転車に乗っていたのは、短い金髪に浅黒い肌をした、一見、少年かと思ってしまったが、水着姿の少女だった。

「危ないじゃないの!」

 そこに二台目の自転車が……。


「邪魔よ! どきなさい!」

 その声は、まともにロゼの背中に突っ込んできた。ロゼの人生で、初めて自転車に轢かれた瞬間。

「この国では歩行者より自転車、自転車より戦闘機優先なのよ! 覚えておきなさい! このグズ!」

 すっころぶロゼに罵倒が飛んだ。何も悪い事してないのに。


「待ちなさいエレカ! 今日という今日は、地の果てまで追い詰めるわよ!」

 ロゼを轢いた自転車よりの声が、ドップラー現象をおこしながら遠ざかっていく。

「な、なに? この国?」

 怒りに顔を歪ませて、大魔神がごとく立ち上がるロゼ。


「だ、大丈夫ですか、ロゼさ――」

「いいから!」 

 ロゼを心配したクルーの声を途中でブチ切るロゼ。


「みんな! ナマ白い東洋人種のガキ見つけなさいよ! それがトーヤ国王だから――おっと!」

 ロゼは修理中の家を見つけた。戦争のニュース的シンボル、破壊された家、である。

「シュナイダー! 中継再開の合図を! 天気予報? そんなのカットなさい!」

 ロゼがクルーをせき立て、先頭切って走っていく。


 大勢の人が出て、家を修理している最中だ。家はあらかた組み上がっていて、あとは屋根を葺くだけとなっている。

 家の持ち主らしい老いた男が、小さな椅子に腰掛けていた。


『AZW特派員のロゼ・ガードナーです。名前は伺いません。ゼクトールでこの番組は流れません。インタビューよろしいでしょうか?』

『合衆国の人かえ? いいよ』

 老人と交渉するロゼ。

 合衆国は敵国だというのに、この老人、とても気さくだ。


 ロゼは、ディレクターであるシュナイダーからのOKサインを確認。老人へのインタビューに入った。

『お家の被害は、今回の戦争によるものですね? ご家族の方で戦争の被害にあわれた方はおられませんか?』

『そうさのう』

 一言そういって立ち上がる老人。ロゼは天を見上げた。老人の背が異様に高かったのだ。


『儂の息子がのう、ケティム戦でミョーイ島に立てこもってのう。あちこち撃たれたんじゃ。平気な顔をしとったが、実は重傷なんじゃよ。名前はジバというんじゃが、幼なじみのアルトちゃんと、休む間もなく仕事に出て行ったわい』


 スタジオ司会者のチャーリーが言葉を挟んできた。

「やあロゼ。そのご老体、表情に変化がないね。疲れてるのかい? 聞いてくれないか?」

 たしかに、息子が重傷という割に、老人は平然とした顔をしている。むしろ笑顔の部類に入る表情を浮かべている。


『なんて非人道的な……』

 ロゼは、それを老人の諦めととった。


『国は……、国王はそれに対してどう答えてくれたのかしら?』

『うーん、まあ、代わりにアルトちゃんの娘のミウラちゃんを引き立てててくれれば、それで満足じゃ』


『ハーレムね!』

「うーん酷いねぇ」

 ロゼとチャーリーは、老人に同情した。チャーリーは顔をしかめるという演技付きで。


「ロゼ、こんなとき国王陛下はどこにいるんだろう? 市民は知ってるんだろうか?」

 チャーリーがゼクトールに罠を仕掛けてきた。市井の人々が、殿上人である国王の動向など知るはずがない。それをあえて聞いたのだ。

『国王は、どこで何をなさっているか、ご存じですか?』

 ロゼは、それを知った上で乗った。

 老人の答えは決まっている。「知らないよ」もしくは「王宮だろ」のいずれか。


『そうさのう』

 老人は通りの向こうに目を移してこう言った。

『たぶん、護衛と一緒だろうて』

 意味ありげに笑う老人。


 ロゼは通りの向こうを見た。ひょっとしたら、トーヤ陛下のなま白い顔を見られるかと思ったのだ。


 だが、


 通りを歩いていたのは、南国特有の浅黒い日焼け肌を持つ少年と、少女二人の三人連れ。

 背の低い少女が対戦車ライフルを担ぎ、背の高い少女はサブマシンガンを携えている。

 子供達が武器を持つ。戦争がもたらした悲劇の映像。


『あの子は?』

『一番の被害者じゃ』

 老人は黙祷するように目を閉じた。


 被害者!

 ロゼはこれに食いついた。


 ディレクターの許可を待たず、少年少女に突撃取材を敢行するロゼ。

「そこの坊や!」

 ロゼと視線を合わせる少年。少年と言うには年が上すぎる。青年と言うには若すぎる。

 十代半ば?

 手に、魚の入った魚籠を持っている。


 きょとんとした顔の少年。少女二人は、銃口を持ち上げていた。明らかに警戒している。

 まずは少年の心をほぐす事。


「お姉さんは、合衆国のテレビ局の者よ。あなたの名前は聞かない。この番組はゼクトール国内じゃ流れません。だから何喋っても怒られないわ。インタビューしていいかしら?」

 テレビと聞いて、まず食いついたのは少女二人。カメラに向かってダブルピースしている。こうなればしめたもの。


『君、そのお魚は? 君が釣ったの?』

 少年は魚籠を持ち上げた。これ? という顔をして指を指す。

 ロゼは、大人の笑顔で肯定した。


『僕のお昼ご飯です。釣りが下手なので、骨っぽい小魚しか捕れなくて。戦争があったから、しばらくの間、自給自足なんですよ』

 屈託無く笑う少年。戦争の悲惨さと少年の笑顔、そのギャップが絵になる!

「かわいそうな少年!」

 チャーリーが仕切るスタジオは、その絵によって静まりかえっていた。


『ねえ君。君の家へ連れて行ってくれる? あと、王宮も案内してほしいんだけど』

『はあ、王宮の隣で寝起きしてるんで、案内しますよ。そこの角曲がったところですから』

 ヘロヘロと笑う少年。少女二人と、ゼクトール語で歌を歌いながら歩き出した。


「カメラマン君! ゼクトールの王宮をバッチリ納めてくれよ! なにせ世界初公開だからね!」

 スタジオのチャーリーが、ウインクする。

『まかせてチャーリー! 白亜の王宮、もうすぐ公開よ! チャンネルそのままにね!』

 ロゼの軽いノリに、スタジオで笑い声が起きた。






『え、と……これ、王宮?』

 ロゼの言葉に迷いが生じている。

『はい』

 少年が、白い歯を見せて肯定する。


 瓦礫の山を。


『この黒くて煤けた瓦礫が?』

『そうっす』


 王宮は、建て替えられていない。市街地の家々より後回しにされている。

 カメラが瓦礫の周囲を映し出す。


 瓦礫の山のふもと。廃材でたき火をしている少女が数名。

 たき火を利用して、湯を沸かしたり、椰子の葉っぱ包み焼きを調理したりしている。のほほんとした風景。まるでキャンプ。


 それは、ロゼの原風景でもあった。たいへん懐かしい。


 少年は、たき火を管理している少女に魚籠を渡した。少女は、縦ロールの入った金髪を優雅に手で払いのけ魚籠を受け取った。

『で、ここが僕ん家です』


 少年が指さすのは、瓦礫の隣に張られたカーキ色の古びたテント。

 テントの傾斜を利用して、ポニーテールの少女と、長く編んだ三つ編みの少女が、洗濯物を干している。


 ロゼは、嫌な予感がした。気になって仕方ない事がある。

 テントの横のポール。そこには、ゼクトール国旗が掲げられていたのだ。






 日本にて、

 風呂上がりにコーラ片手でテレビを見ている高校生がいる。

 二月堂高校柔道部レギュラーの津本君だ。

「あれ? 桃矢じゃん!」

前回、最終回と言いつつ……。

某巨大戦艦の例もある事ですし、ここは一つ。

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