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ゼクトールよ、永遠に!

 空母打撃艦隊敗北の二週間後、合衆国は正式に敗北を認めた。

 合衆国の世論が戦争を止めたのだ。


 ゼクトールに在住する、十八歳から五十歳の年齢層を占める女性構成率が九十八%を超えている事。

 それを知った合衆国国民と軍部に、厭戦気分が蔓延したのだ。


 誰だって弱いものいじめはしたくない。

 弱さを武器にしたゼクトールは、合衆国に勝利した。


 ただ、そのゼクトール国内情報を組織的に、まことしめやかに合衆国へ流した組織があった。噂では、組織のリーダーこそが、ゼクトールの新任軍事参謀であるとされていた。


 また、空母打撃艦隊に勤務する兵士の間で、海中を泳ぐ四百メートル級の巨大な鯨を目撃した、という集団幻覚が発生したのも、厭戦に拍車をかける一因であった。




 そして、 ケティム・合衆国双方との抗争原因になった、ミョーイ島沖油田であるが……。


 ゼクトールの手により、完全封鎖されてしまった。


 ずいぶん荒っぽい封鎖をしたようで、海底の地形までが変わっており、油田再開のためには、新しくボーリング調査から始めねばならぬ体であった。


 さまざまな幸運が重なり、どうにか現場海域を視察することに成功した技術者が、合衆国に帰還を果たした。

 彼は、「まるで、怒れる巨人が拳を振り下ろしたかのような壊れっぷりだった」という談を残し、肩を落として去っていったという。


 油田再開発経費とゼクトール軍事力による圧迫のため、世界は、この豊富な産油量を期待された油田群の開発をあきらめることとなった。




 さて、ケティムは……。


 アメリカ海軍の派遣を認める根拠。エリミネタ・ボネビル社とゼクトール前国王との契約を合衆国議会が認めた事であるが……。

 それは同時に、合衆国が、ミョーイ島の所属は、ゼクトールにあると公式に認めた事をも意味する諸刃の剣である。


 ゼクトール戦争に勝って、初めて効力を発揮する議決である。負けてしまっては、負債にしかなりえない。


 よって、合衆国は、自らの言動一致を守るため、国際会議の場で、しかたなく、しぶしぶ、ゼクトール擁護に回る事となる。


 ケティムは、自然環境破壊、人権問題、国際協約の不履行など、叩けばほこりの出る国である。

 国際協調の場で、ハシゴを外された形のケティム。以後、立場を悪くしていくのであった。




 忘れているかもしれないが、ゼクトール・ケティム間の戦争は、第一次ミョーイ島沖会戦以後、継続されていた。

 ゼクトールの王と、彼の片腕である軍事参謀長ですら、うっかり戦争継続中であったことを忘れていた、その後の戦いをこれから語ろう。


 ケティムは数度にわたり、打撃艦隊をゼクトールに派遣するも、すべて失敗に終わる。


 ある時は想定外の気候変動により、ある時は、驚異的な機動行動を見せるたった三機の赤いフランカー(鹵獲機)により、ある時は……。

 回を追うごとに、不思議とゼクトール領域から離れていく会戦・もしくは事故の場。


 第三次ゼクトール戦が終了。

 とうとう本国沿岸部まで追い詰められたケティムが、弾道ミサイルの使用を決意。

 ところが、ここでケティム国内で致命的な事故が起きる。

 弾道ミサイル燃料注入中に、作業ミスにより(ケティム公式発表による)ミサイルが自爆したのだ。それも何故か核弾頭部分が。


 合衆国のスパイ衛星が撮った衛星写真を前に、スイス在住のとある軍事評論家が、「どうみても高々度、あるいは大気圏外からの垂直攻撃と思えて仕方ないのだが……」と自信なげに、あるテレビ局の討論会で発言したという。

 他のゲストパネラーに、大いに突っ込まれ、スタジオが盛り上がったという話だ。


 いずれにせよ、ミサイル事故における汚染物質拡散により、百年単位で基地の使用が不可能となる。

 さすがに合衆国と中国を中心とした多国が介入、ゼクトール一国が反対表明する中、終戦協定が斡旋されることとなるのだが、それは後年のお話。


 なお、その同時期、白い長毛に覆われた複数の四つ足大型獣が、ケティムの地下に設けられた中心基地で暴れていた、というヨタ話が、ケティム国内のネットに流れた。……のだが、短期間でその話題は消えてしまった。

 あまりおもしろくなかったからだろう。




 さらに数年後。

 ゼクトール発の新システムが、世界のエネルギー状況を一変させる事になる。


 その内容は、ある一定以上の熱量が必要であるが、その熱を九十五%の効率で電力に直接変換できる、というものである。

 まるで異星人の思考方法と技術、と賞され、各国で検証研究競争が行われる。


 ゼクトール王立開発チーム(平均年齢十五.七歳)は、基礎といくつかの簡単な応用の世界特許を取ったものの、その使用に制限を設けたり、使用料を取るなどといったケチくさいことは一切しなかったという。

 ……もともとは、ゼクトールの慢性的な財政赤字を一気に可決しようともくろんで開発した新システムだが、当時の議会のノリで、無償にしようと決まったらしい。



 

 全世界が、エネルギー革命に驚喜・震撼、パワーバランスが塗り替えられる、混沌とした新しい時代……。


 ゼクトール国民は、若き独裁者と、側近の軍事参謀による強権支配の元――。


 相変わることなく、水の心配をしながら、のほほんと暮らしているのであった。

13.6.13 誤字修正

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