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第一話 Bパート


 変身した私の姿を見た幽魔達が、騒めきだす。


「お、お前は……白の杭姫!」


「正解よ!」


 そう答えると私は杭を二本出現させ、両手に一本ずつそれを構えて幽魔の群れへ突撃する。


 右で薙払いつつ、左で突く。薙払いにより数体が吹き飛んだ。しかし突きは躱されたので左を引き戻しつつ右で斬り上げる。杭に刃は付いていないが、先端が鋭く尖っているので、切り裂くことが出来るのだ。一匹撃破。


 死んだ幽魔はしばらくすると灰になり、消えてしまう。シロいわく、これは死ぬ事によって彼らにとって異世界であるこの世界で存在を保つことができなくなるからなのだという。


 右からの相手の突撃を身体をバックステップで躱しつつ左の杭を逆手に持ち替え、擦れ違いざまにそいつに左手に持った杭を突き立てる。二匹目。


 もう一本杭を取り出し、再び二刀流ならぬ二杭流になると、左右から近付いてきた二匹の幽魔にそれぞれ投擲する。私の手を離れた二本の杭は、それぞれ相手を貫通して地面に縫い止める。


 正面から更に一匹接近。私の頭上5メートルの高さに杭を出現させ、先端を下にして落下させる。そして、そいつが私に剣を振り下ろす瞬間、私はバックステップでその斬撃を紙一重で躱す。そしてちょうどそのタイミングで杭が落下し、その幽魔を串刺しにする。


 続けて四方からそれぞれ長剣と短剣と突撃槍と鎌を持った幽魔が同時に接近する。囲まれた。


 両手に再び新たな杭を掴み、取り敢えず正面の突撃槍を持った相手に向かい、駆ける。相手が繰りだす突撃槍を垂直の軽い跳躍で躱し、そのまま突撃槍に着地する。相手が混乱している隙にそいつの顎を蹴り上げ、その勢いのまま右手の杭をそいつの頸部に突き刺しつつバク転し、背後から迫っていた短剣を持つ幽魔の背後に降り立つ。そいつが背後の私に気付き振り向く前に、私はそいつの背中の中心に杭を深々と突き立てていた。


 残った二匹に加え、更に何匹も迫って来る。


 私は魔力を素早く練りつつ杭を一本召喚すると、それを両手で地面に突きたて、魔術名を詠唱〈コール〉する。


「氷杭乱牙〈アイス・パイル〉!!」


 詠唱〈コール〉と同時に魔力を杭を通じて地面に流し込む。そしてその魔力は魔術回路に変換され、地面から氷で出来た杭を大量に出現させる。その杭たちはすべて外すことなく幽魔を串刺しにした。


 上空から鳥型の幽魔が2体迫る。そのくちばしとかぎ爪による奇襲を身体を捻ることで躱し、その内の一羽の胴体を蹴り飛ばす。もう一羽は再び空高く舞い上がり、二度目の急降下一撃離脱攻撃を敢行してきた。私は長めの杭を一本と短い杭を三本まとめて出現させる。右手で短い杭を三本まとめて握り、左手に長い杭を持つ。そして、急接近してくるそいつに対して右手の短杭を弾幕として繰り出す。命中に期待はしていない。当たればラッキー、と言った程度だ。そしてそれからわずかな時間差を付けて本命の左手の杭を投げ付ける。


 上空から接近するそいつは弾幕の短杭をぎりぎり躱す。そしてそこに一瞬の隙が出来る。私はそこに左手に持つ長杭を投げ付ける。深々と杭は突き刺さった。そして、先ほど私に蹴り飛ばされて伸びていた(そしてつい今し方私に反撃しようとして起き上がった)幽魔を新たな杭で切り裂くと、次の幽魔にその杭を投げ付けた。


 私は右手をのばし、武器を召喚する。


「召喚〈オーダー〉!杭打ち機〈パイルドライバー〉!!」


 私の声に応えて、右手に小型の杭打ち機が出現・装着される。杭打ち機は私の前腕に被さるように装着されている。左側面にレバーが付いていて、これで杭のリロードを行う。


 私は一匹に狙いを付けて発射する。射出された杭は狙い違わず命中する。私は間髪入れず杭打ち機のレバーをガシャリと引き、虚空から出現させた次の杭を装填する。因みに、杭の出現と装填はレバーアクション一つで一瞬で行われる。


 身体の一部を槍のような形にして突撃してきた幽魔を右手の杭打ち機で撃ち抜きつつ、左手にも一本杭を持ち、後ろから近付いてきた幽魔の振るうレイピアの一撃を受け止める。鍔迫り合いになり、一瞬の膠着状態が訪れる。そこに勝機を見たか、一気に複数の幽魔が襲ってくる。右手の杭打ち機はリロードしてないから使えない。ピンチだ。


 私は目の前の鍔迫り合いしている幽魔に蹴りを入れて吹き飛ばすと、杭打ち機をリロードしつつ必死に身体を捩って紙一重で躱す。完全には躱し切れず、脇腹の部分が軽く裂けて少し血が滲む。


「…痛ッ…………!!」


 痛みを堪えつつ幽魔が密集しているところに杭を撃ち込む。素早くリロード。左手の杭を投げ捨てつつ、杭打ち機で杭を発射する。手当たり次第に撃ってリロードして撃ってリロードして、という作業を繰り返す。右から二匹、左から三匹。バックステップで距離をとりつつ右の二匹を撃墜する。続けて短めの杭を三本まとめて取り出すと、左手の人差し指から小指までの四本の指で挟み、一気に投擲する。その内の一匹はそれを躱してさらに接近する。私は新たな杭を逆手に構えそいつの頭上にジャンプした。予想外だったのだろう、一瞬そいつの動きが止まる。私はそれを逃さず、そいつを脳天から串刺しにする。そして、あらかた幽魔もいなくなった頃。


「グルオオォォォォッ!!」


 という獣じみた咆哮が響いた。


「琴音、気を付けて!トロールが出て来る!」


「オッケー!」


 シロの声に返事しつつ、次の相手に備える。トロールというのは幽魔より階位が上のモンスターの一つ

だ。幽魔がショッカー戦闘員だとしたらがトロールはショッカー怪人と言ったところか。因みに、その上の階位にはショッカー幹部に相当するデーモンという存在がいる。


 トロールは一言で言えば巨人だ。その豪腕から繰り出される戦斧の一撃は強力で、その威力は即死レベル。弱点はその巨体故の鈍重さ。自慢の豪腕も当たらなければどうということは無い。


「よし、行くわよ」


 誰に言うでもなく呟くと、私は杭打ち機をトロールに向け、杭を発射する。もちろんこの程度で倒せるとは思っていない。幽魔とは訳が違うのだ。私は駆け出しつつリロードし、一発目と違うところからもう一発発射する。ちょうどトロールの右側5メートル程の場所に、遮蔽物の無いちょっとした広場がある。そこは半径5メートル程の円形をしている。そこに何としても誘い込みたいところだ。そうしないと、私の大技は使えない。


 トロールは転がっていた大きなビルの破片(言うまでもなく鉄筋コンクリート製)を軽々とこちらに放り投げた。あわてて逃げる。


「いやいやいや!誰よ、トロールは豪腕な分鈍重だから近くでの攻撃に当たらなければどうという事はないとか言ったの!」


「琴音だよ!」


「もとはと言えばシロからの情報じゃないのよ!」


 いやな汗が背中を伝う。成分比率は冷や汗7割、脂汗3割と言ったところかな。あんなの当たったらグロ画像が一枚出来上がってしまう。そんなデッドエンドはごめんだ。


 転がるようにして2撃目を回避する。細かい破片が身体にぴしぴしとぶつかる。地味に痛い。


「ああもう、面倒臭いわね!落ち着いて狙い撃つことも出来ないじゃないの!」


「て言うか、何か前倒したトロールより強くなってるよね」


「…やっぱり?」


 気のせいじゃなかったか。私は再び駆け出しつつ思った。


 レバーを引いて杭をリロードする。そうしていつでも撃てるようにしてから、広場の反対側へと私は更に走る。


「琴音、避けて!」


「!」


 突然のシロの声に、反射的に横っ飛びに跳ぶ。すると、私がこれからは走る予定だった場所に車が落ちてきた。


「な、何よこれっ!?」


「……自動車、かな…………?」


「それは見れば分かるわ!そうじゃなくて、何で私のこれから走るルートが予測できるのよ、あいつは!」


「……知能が上がってるって事?」


「その可能性があるわね」


「うーん…、考えられる可能性としてはトロールという種族の別の種って可能性と、突然変異ってところかな?」


「何にしても、厄介なことに変わりはないわね……」


「取り敢えず、当初の予定どおり広場の反対側へと行こう」


「そうね」


 私はなるべく急ぎつつトロールに耐えず注意を払いながら走る。


 そして、ようやく私はトロールと広場を挟んで対峙する。射撃とリロードを繰り返して疑似的に連射を行い、トロールの意識をこちらに向けさせる。


 こちらに向き直ったトロールが、不意にアスファルトの地面にその戦斧を叩きつける。その衝撃によって弾け飛んだアスファルトの破片が、無数の砲弾となって私に降り注ぐ。慌てて私は建物の影に隠れる。あんなのが当たったら一溜まりも無く、か弱い私は潰れてしまうことだろう。


「琴音は、か弱くないと思うよ?」


「う、うるさいわね、シロ」


 それは私自身がよく分かっている。ていうか、


「シロ、心を読まないで!」


「てへっ☆」


「☆を付けるな!」


 戦闘中なのに、シリアスになれない。大丈夫だろうか、私。集中力が切れたせいで、うっかり死んじゃったりしないでしょうね?


 で、トロールはというと。先程の場所から5メートルほどこちらに近付いていた。


 よし、追加攻撃。杭打ち機をリロードして、相手の腹部を狙撃する。腹部を狙った事にさしたる意味はない。何となく弱そうなところだったから、と言った程度だ。


 そして狙い通り、トロールはその手に持つ戦斧を振りかざし、こちらに近付いて来た。同じように、狙いを付けて撃つ。


 トロールが投げ付けてきたアスファルトの塊をバックステップで躱しつつ、杭打ち機を気にせずリロードし、更に撃つ。そしてそれとは別に魔力を練り、大技の使用に備える。


 私の杭打ち機や杭は単なる武器ではなく、魔法を発動させる際の媒体も兼ねている。所謂魔法の杖とかステッキのようなものだ。ちなみに杭打ち機がなくても、多少使い悪くはなるけれど何もない状態でも魔法は使える。


 トロールが広場に足を踏み入れるまで、あと5歩、4歩、3、2、1……。


 今!


「いっけぇっ!」


 私は杭打ち機を相手に向けると、魔術名を詠唱〈コール〉して魔法を起動させ、魔力を相手にぶつける。


「凶吹雪破〈ブリザード〉!!」


 絶対零度の吹雪がトロールを襲い、トロールは急速に冷凍される。この吹雪は、遮蔽物があると威力が著しく下がるのだ。


 さて、


「フィナーレといきましょうか」


 私は改めて杭打ち機をリロードすると、新たに装填された杭に魔力を込める。


「破魔の杭〈ラストパイル〉!!」


 撃ち出された杭は、莫大な魔力を纏い、目標へと一目散に飛翔する。よく見ると、杭を魔力による膜がうっすらと被っているのが分かる。


 そして────。


 杭は凍り付けのトロールの胸に深々と突き刺さり。


「チェック・メイトよ」


 次の瞬間、その身体は粉々に砕け散った。




    †‡†




「お疲れ様、琴音」


 〈境界〉からこの世界に帰ってきた私に、シロがそう声をかける。


 私は伸びを一つすると、


「本当に疲れた……」


 ため息を吐きつつ言った。お腹の傷は殆ど塞がっている。魔法少女になると回復力は上がるけれど、疲労までは回復してはくれないのだ。


 私はもう一度ため息を吐くと、駅に向かって歩きだした。今日は疲れた。早く家に帰って、甘いものでも食べるとしよう。




魔法少女☆琴音 第1話 完

 設定では、琴音の衣装は白の杭姫とかいう名前の割にはピンク色の部分が随所に見られたりと、完全な白いコスチュームではありません。まあそれにも色々と理由というか設定があるのですが、まあそれはいつかまたの機会にでも。

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