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作者: 速水代瑠

 ある朝、僕が大学に向かっている時の話だ。

 僕はいつも通り電車に乗っていて、空席を見つけて座っていた。僕の使う電車は下り線なので、車内はいつもガラガラに空いていて、立っている人は扉の所で張り付いている人がいるくらいだった。

 そんないつもの変わらない朝だったんだけど、その時はなにかが違っていたんだ。僕は視線を落として、何かしらの違和感を感じていた。最初は僕、その違和感の正体に全然気がつかなかったんだ。でもしだいに時間がそれを教えてくれた。

 僕が見ようとしていたものは、電車の通路にできていた影だったんだ。その影は僕の対面に座っている人達を、太陽の画板の上に黒く綺麗に映し出してた。

 僕には、なんだかその影が美しく見えて仕方がなかった。その一時にしか現れず、決して完成させることなく消えゆく影に、僕はぬくもりと儚さを感じていた。その影は僕の心をとらえて離さない。たった一瞬目を離すことさえも、それは許してくれなかった。

 でもそんな美しい影も、通りかかる人達に踏まれていく。ただ一時の安らぎを得るために、その一時にしか現れることのない影を踏みにじっていく。

 その時その影の美しさに気づいているのは、僕しかいなかったのだろう。他の盲者たちは、みんなそれをただの床だと思い、影さえも見ることができないでいる。

 僕はその場で、みんなにこの影の美しさについて説明してやりたくなった。その影がどんなに綺麗な輪郭をもち、どんな絵具でさえも表現することができない色彩をもっているのか。

 でも僕はそんなことしなかった。いや、できなかったというほうが正しいかもしれない。僕は常識という名の拘束具によって、その場で声を発することすらもできなくなっていた。僕はそういう時、いつも道徳とか常識がうっとうしく思う。そんな人が自然に形成していった多数決派の意見に、僕は強い苛立ちを感じ始める。周りの人間が全て異形の存在であるかのように感じる。

 でも僕はいつも気づくのだ。一番変わっているのは自分だということに。この中で一番おかしいのは自分だということに。

 しばらくして、電車は僕が降りる駅についた。そして僕も電車から降りるために、他の大勢の盲者と同じように、その美し影を踏みつぶしていった。

 私はよく道端にある一本の木や、なんでもない雲の形などに、心を惹かれて足を止める事が多々あります。

 周りから見たら立ち止まってる変な人に見えているんだろうけど、私にとっては美しい花や絵を見ているのと、なんら変りのないことなのです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 主人公の世界観が分かりやすく描けていて面白いです。
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