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スリーピース  作者: 双色
4/『青い鳥』
22/36

21/スリーピース

 /4




 そういえば昔、一度理紗と大喧嘩をしたことがある。

 ……いや、昔というにはまだそれほど時間が経っていない。早過ぎるかもしれないが前言撤回だ。三年ほど前の、まだ中学二年だった頃の話を昔というべきかどうかは、この際個人の感覚に頼ることにする。少なくとも俺は、あいつと十何年も付き合ってきた俺としては、三年なんてのは割りと最近に部類されるのだ。

 壮絶な喧嘩の果てにどうにか関係を持ち直せたのだが――といっても、修復に支払った労力がないわけではない――その後変わったことと言えばなんだろう。まあ、少しばかり理紗の奴が素直になったというくらいだった。

 何故今更そのようなことを思い出してみたりしたのかといえば、漠然と今の状況がその時に重なったからである。あの時もお互いの意地が衝突して、どっちもそれを曲げなかったことがいざこざに発展したのだ。だから、今と同じかどうかと言えばそれは断固として否であり、どこまで行っても似ているの範囲を出ない。

 だったら結末は半分見えたみたいなものなんだろうけれど。

 さて、厄介なのはそこにこじつけるまでとそれからだ。

 最後の最後に一仕事、俺には残されているのだからな……。

 などと思いつつ朝だった。早朝である。

 ここ数日はこの時間の登校にももう慣れ始めていたので、そこまでの苦には感じない。生徒会室に行くと一日で復活を遂げた鈴童は先にそこにいて、昨日俺達(主に理紗)が纏めた書類に目を通していた。俺が入室するのを音で確認すると、眼鏡をずらしてこちらに視線を向ける。書類を見ている状態から顔が動いていないので上目遣い気味だ。

 鈴童は不気味なものを見る目で、まさかね、とばかりに目を背ける。

 仮にも生徒会の一員である俺に早朝登校の労いもなければ時頃の挨拶もなし。どことなく気まずい沈黙が流れて、それがこのまま漂い続けるのかと思っていると意外なことに鈴童が先に口を開いた。

「これ、貴方達がやってくれたんでしょ? 昨日、お姉ちゃんから聞いた」

「俺よりもほとんど理紗だけどな」

「見ればわかる。私が修正しないといけないのが何枚かあるから、それが貴方でしょ?」

 酷い。実に酷い。そして反発できない自分が悲しかった。

 シャーペンをくるくると回しながらさらに鈴童が続ける。

「どういうつもりよ。こんなことして。貴方達がこんなことする理由なんてないのに」

「そんなことないだろ。俺達だって生徒会だ」

「そうだったかしら。……まあ、昨日のことは私の失態だから、何も言わないけど」

 遠回しに礼も言わないと言ってるようなものだ。別に感謝されたくてしたわけではないが、それはそれで何だか寂しい気もする。もっとも、こんなことで現状を打破できるだなんて思っちゃいない。これもまだ仕込みの段階だ。どこまで煮込めばいいのか、先の見えなさ過ぎる仕込みだけれど。

「これからどうする気? オーディションも終わって、もう貴方達に手なんて残ってないと思うけど。創設祭は諦めて、またの機会でも窺う方針に切り替えたの?」

「さあな。まだ何とも言えねえよ。まずはメンバー集めからだしな」

「そう。だったら早く見付かるといいわね、いいベーシストが」

 自分が参加するつもりは、微塵にも存在していないらしい。

 そうだろうな。そりゃそうだ。

 これくらいで折れてくれては張り合いがない。今までの時間が全部無駄になる。切り出すなら今だろうか。昨日のことで恩を売って、そこからもう一度勝負を持ちかけるというのはどうだ。下手な交渉をしてそれが破綻すれば、今までが全部無駄になり兼ねないが。さてどうするか。

 鈴童に交渉を持ちかける。

 今はまだ早いと保留する。

 重大な分岐点だった。

 いくら日があるとは言え、いくら式がほとんど成立した後だとは言え、最終的な問題はそこに終着するのだ。ベーシストの不在を解消しなければ事は解決しない。そしておそらく誰よりも適任であるのは鈴童だ。今更代わりなんて見つかるはずなんてなかった。初めからこいつを引き入れる算段で話を進めていたんだからな。

 鈴童はもう話を切り上げて資料の確認に戻っている。余念がないと言うかなんと言うか、一枚にかけている時間がやたらと長い。真剣なところ申し訳ないが、作業は一度中断して貰う。黙っていては埒が明かないのだ。ここらで口火を切っておかないと間に合わないかもしれない。

 そう決意して、俺は鈴童に呼び掛けた。直ぐに、だがゆっくりと顔を上げる。

「俺は、俺達は絶対におまえから離れていかない。約束する、絶対だ」

 口にした本人が驚いていた。何で今ここでそんな誓いを明言したのかが自分でもわからない。違うだろ。今必要なのはそんなことじゃないというのに。――と、冷静に否定する理性は偽物だった。目的は違くても、伝えたい気持ちはそれで、本物の気持ちだったのだから。

 俺がどうして鈴童に固執していたのか、考えてみなくても少しだけわかった気がする。ベースの腕だとか作曲技術だとか立場的有利だとかは一切関係なく、むしろそんなことはどうだっていい、バンドの話ではないんだ。ただ知って欲しかった。一人でいることが悲しいことだと、誰かといることはこんなにも楽なことなんだと。誰だって知ってる当たり前を知らない、完全無欠なこいつに教えてやりたかった。

 そうだ。

 昔の幼馴染みに似ている一人ぼっちを見て、放っておけなかった。それだけのことだ。一人だけの生徒会、一人だけの世界、そんな鈴童の箱庭があまりに寂しいと思えたから気になったのだろう。奇しくもそれが、自分の好きな誰かの過去に酷く類似していたから余計に。

 本当は知っているかもしれない。きっと気付いているだろう。だって鈴童は笑っていた。声は歌声で表情に関しては見てさえいないから何もわからないが、しかし間違いなく笑っていたはずだ。理紗の持ってきたあの音の中にいる鈴童は俺の中のどこにもいない鈴童で、楽しそうに笑っていた。

「……急にどうしたのよ。まだそんなこと言って、私を引き込むつもりなんですか」

「おまえが本当に嫌ならもう諦めるさ。でも違うだろ」

「違わない。私は貴方達となんていっしょにいられない。一度身をもって体感したんだからわかるはずじゃない。これからも何度だって私は貴方を突き放す。いっしょになんていれるわけない」

「じゃあ何回でも戻ってくるって、約束する。あれぐらいのこと、なんでもねえよ」

 実際はかなり凹まされたが関係ない。俺だけなら鈴童を見失ってしまうかもしれないが幸いにも俺は一人じゃない。三人いる。鈴童と同じところにいられる、理紗がいるんだ。誰か一人が駄目でも他の誰かが何とか出来る。ほら、問題なんてどこにもないじゃないか。

「詭弁……にもなってない」

 そりゃそうだ。

 思わず同意してしまうくらい、俺の思考はおめでたい前向きシンキングだった。でもいいだろう。今必要なのは詭弁でも理屈でもないのだ。

「二人とも離れていったら? 二人一緒に戻ってきてくれるの? 三人なんて、そんなのは別に関係ない。今までも失った物の数の方がずっと多いんだから」

 鈴童は冷静な鉄面皮を剥がそうとしないで、あくまでも平静を装っている。いつの間にかシャーペンを握っていることには気付いているだろうか。この様子だと気付いていないのだろうな。よく見ると小刻みに肩が震えている。

「もう怖いから嫌なのよ。みんなどこかに行くのがわたしは怖い。自分が普通じゃないって、思い知らされるから」

 喪失感が恐ろしいから、何かが自分の一部になることを自ら否定する。そのやり口はよく知ってる。同じことをやらかしてる奴が近くにいたからだ。けれどそれは逃避の選択でしかない。追いかけるんじゃなく跳ね除けるなら確かに裏切られることも傷付けられることもないだろう。だがそうして得られるのは無害な空虚だけだ。一人ぼっちが悲しいことを忘れさせる麻酔にしかならない。

 そして鈴童の一番の間違いは、それがいつしか逆転していたことだろう。失くすのが怖いから手に入れる前に捨てる。つまり外部からの傷を拒否して、自傷に切り替えているだけだ。結果は変わらないとこいつはきっと知らない。酷く歪で脆く不安定な在り方だ。

 俺は言った。

「普通じゃない奴なら俺も知ってる。俺はそいつとかれこれ十年は馬鹿みたいにいっしょにいるんだ。今更一人増えたってそれは変わらないよ」

 離れた心はまた寄り添えるとも知っている。

「信用できない」

「信用なんてしなくていい。でも俺は勝手にそう信じるよ」

「バカじゃないの」

「バカでいいさ。それが最善なら何よりだ――だから、もう一回勝負しろ。今度は三人でだ」

「……だから、ってなに。可笑しいじゃない」

 そいつは俺のつっこみだ。既出の再利用は禁止させて頂きたい。

「それで証明してやる。絶対にどれだけ離れてもついていく。絶対に見失ったりしない――今度はもう、絶対に負けない」

 三人寄れば文殊の知恵だ。古来より人間は『三』という数字を神格化している。だからバンドも三人揃えば何だって出来る。一人だけ実力が劣っていても付いていける。他の二人がその一人を引っ張り上げられるからだ。

 理紗に、鈴童に、俺が揃って初めて完成する。

 それはきっと、最高のスリーピースになるはずだ。

 ……。

 たぶん。

「とにかく、もう一回だけで、今度は理紗も混ぜて三人で演ろう。そしたらおまえだって――」

「うるさい」

 鈴童が、ここにきて語句を強める。

 強い拒絶の色が瞳に滲んでいた。冷え切った声色で突っ撥ねられる。正面から睨みつけられて、俺はそれ以上何も言えなかった。我ながら情けないと思う。だがこればかりはどうしようもないのだ。慄いたわけではない。ただ鈴童の訴えるような目があまりにも真摯だったからそれを無視してまで何か言おうと思えなかったのだ。

 また室内に沈黙が戻ってくる。

 外の風が窓を叩き付ける音がうるさいくらいに静かだ。時計の針の音も、下手をすればお互いの心音も聞こえてきそうなくらいである。何か言わないと。今度は俺の番だ。何でもいいから鈴童の否定を否定し返さないと、ここで終わってしまったらもう次に繋げない気がする。

 しかしなんと言えばいい。

 何を言って鈴童をその気にさせればいい。

 解らない。

 時間だけがちくたく進んでいる。ああ、もう。こんチクショウ。

 なんでもいい。なんか言え。

「俺……は――――」

 他に言い様があったとは思うのだが、焦っていたとしか思えない。

 気付けば俺は次のように叫んでいた。

「俺は――おまえが好きなんだよッ!」

「…………」

 あ。と間の抜けた声が出ていたかもしれない。

 自分の発言が取り消せるなら直ぐにそうしたいのだが、ここで下手に撤回しようものなら状況は悪化するばかりだ。ならもう開き直るしかないだろう。開き直って突き進むしかない。ここまでしたんだ。もうこれ以上破綻することが怖くないなら前進あるのみだ。

 チキンレースはもう止めた。

 嘘じゃない。俺が鈴童を好きだというのは嘘なんかじゃない。美人だし歌うまいし性格がいいのかは知らんが才色兼備で成績も優秀で、ほら見ろ嫌いになるところなんてないだろ。そんな女の子とバンドが組めたらって、なんで思っちゃいけないんだ。男として当然じゃねえか!

 もう最早自分でも収拾の付かない思考が夜空の天体みたいに廻っていた。

 混乱の極致とは今の俺を以って言い得るのだろう。

 好きでいい。間違いなんかじゃない。

 だってこいつは、俺の好きなあいつに似てるんだから。

「何度だって頼んでやる! ああ、百一回目とかそんなもんで済むと思うなよ!」

 聞いている鈴童の沈黙が物凄く痛かった。

 だから痛みを忘れる為に走り続けるしかない。

 止まってしまったらもう吹っ切れそうにないから。

「何万回でも言うさ! 俺らはおまえが好きだからいっしょにバンドが組みたい! 文句あるかよ!」

「…………うるさい、黙れ」

 温まった、どころか沸騰した精神を一気に冷ます一言だった。

 極寒の、氷点下の、マイナス百度の視線が向けられていた。もしかしたらこれは殺意だろうか。

 本気で恐ろしかったから止まってしまう。そうして襲ってくる激しい後悔と羞恥に今度は顔が沸騰しそうになる。どうするんだよこの状況。取り返しが付かないくらい終わっちまったぞ、これどう見ても。

 振り切った意識が真っ白に燃え尽きた。

 俺はこの気不味さをどうにかすることよりも、そして鈴童を説得することも忘れて、自らの保身だけを考える。既にバンド云々の問題では収まらない。この状況、この感じ、これは命に関わる。

 張り詰めた緊張の中で。

 不意に、鈴童が視線を外した。そうして。

「……うるさい。恥ずかしいからもう止めて」

 ぽつり、初雪みたいな言葉が溶ける。

「どうせ、何て言っても聞く気なんてないんでしょ。もういいから、わかったから」

 わかったとは、どういうことなのか。

 鈴童は徐に鞄の中に手を入れて中から財布を取り出し、机の上に置いた。無論目的があって取り出したのわけだが、俺の硬直した視線に気付いて一度それを中断したのだろう。咳払いをして、また睨まれる。しかしその目はさっきまでの冷え切った視線を放つことが出来てない。人間らしい熱を持った眼差しが、思えば初めて向けられた気がする。

 目が合ったのもほんの僅かな間だけだ。つい、と顔を明後日の方向に向けて、横目にもこちらを見ようとしない。そんな鈴童が聞き取りずらいくらいに細々とした口調で言う。

「……考えて上げてもいい」

 リアクションできない俺は言葉に詰まる。

 口を唖然として開けたまま閉口する。

 鈴童はその姿に憤慨したらしく、耳まで真っ赤にして今度は怒声を張り上げた。

「もう一回だけなら、勝負して上げること、考えてもいいって言ったんです!」

 身を乗り出す際に地震が起きたのかと思った。それぐらいに勢いを付けて体を突き出してきたのだ。手を突かれた机が震度七強くらいで揺れる。鼻の先がぶつかり合う程の間近に迫った鈴童の目は、怒っているのか呆れているのか、もうどんな感情に由来しているのかわからない。

 一つだけわかることがある。

 鈴童もまた俺と同じくらいに、このどうしようもない状況に開き直ってしまったのだろう。

 それでも尚、考えてやる、と曖昧な肯定の言葉を選んだのはさすがというべきか。

 向き合っていたのは実質一秒ほどもなかったと思う。俺には苦痛でしかない一瞬だったのでやたらと長く感じられたが、実際はとめどなく聞こえていた自分の心音を一度跨ぐ程度の間でしかない。

 憤然として傲然と、鈴童は長髪を翻す。どこかへ行くのだろうか。俺の後ろの扉へ向っていた。

「あの……鈴童さん、どちらへ?」

「コーヒーを買いに行くだけです。この部屋暖房ないから、寒いのッ」

「コーヒーなら買いに行かなくても淹れられるだろ、ここ」

「あぁ、もう、うるさいッ。ほっといてよ!」

 地鳴りと地響きが同時に起こる。

 校舎が倒壊するのではないかと心配になるほどとんでもない勢いで扉を閉めるものだから、反射的に俺の背筋は強張った。荒れまくりだ。鈴童が滅茶苦茶荒れていた。人間とはあそこまで見事に壊れることが出来るのだと、アルコールを知らない十七の俺は知る。

 そうして一人残された。

 なんだったのだろうか結局、と先刻までのそれを咀嚼する。言葉の綾とでも言うべきか、しかしそれでも俺は真実鈴童に対して好きなどと言ってしまった訳だ。それに対する鈴童の反応はどうだったか。激怒して部屋を飛び出していってしまった。

 けれど。

 約束はした。

 再戦の確かな確約ではないにしろ、一方的に拒絶するだけの今までと比べれば大きな進歩と言える。

 これは成功したと言ってもいいんじゃないか。いや、それに際して俺が失ったものは確かに大きいけれど。それでも、確かに。まだ先に繋がる何かがあったのだ。ならばこれはやはり、先の選択が正しかったことを意味するだろう。

 やれやれだ。ここでなら、もう一息ついてもいい頃合だろう。

 峠は越えた。果たしてその峠の先に何が待っているのかはまだわからないが。鈴童が僅かにでも心を開いてくれたと思うと大躍進だ。自分を称賛してやりたい。よくやったよ、俺。頑張ったじゃないか。

 大きく息を吐く。溜息なのか深呼吸なのか或いは安息なのかはわからない。しかし小さな達成感が胸の中で少しだけ誇らしかった。いやいや、まだ役割は残っているのだ。鈴童ともう一度セッションする為にはその前に俺が個人的に何か対決で勝利しなければならないのだから。それが何になるかは今のところ不明である。

 とはいえ、俺もここらで一休みだ。

 鈴童がそうしたように、コーヒーでも啜って落ち着こう。

 立ち上がってコーヒーメーカーに向う。と、その途中であるものが目に留まった。それは先程鈴童がバッグから取り出して放置した財布である。中身を掠めようとかは一切考えていない。ただ違和感があったのだ。だから気に留まって、それが窓にこべり付く霜みたいに気持ち悪かった。

 考えれば簡単にわかることだろ。

 単に鈴童が持って行くのを忘れただけだ。自販機に飲み物を買いに行くと宣言して、そして財布を忘れたのだ。ないこともない。あんな訳の解らない状況だったのだから、誰がどんなぽかをしても俺は驚かないだろう。しかし今回ばかりは例外だった。だって鈴童がそれをしたのだ。あの、鈴童静歌が。

 違和感は募り募ってそして――確かな、嫌な予感に変わった。

 不意に踵を返す。鈴童の後を追おうなどと、どうして思ってしまったのだろう。

 足取りは少しずつ速くなる。そうなるごとに嫌な予感は確実な悪魔のイメージになって頭を侵食していった。――今までだって可笑しなことは色々とあったのだ。それらが積み重なって今、大きな不安に姿を変えている。

 考えてもみろ。

 目の前の課題が片付いて落ち着いている今だから俺にもわかる。

 鈴童が何もない場所で躓いたりするか。自販機へ行くのに財布を忘れるか。業務を他人に任せて先に帰るか。思い出すのはいつかの昼休み。練習中に旧音楽室を訪れてきた鈴童の、退室後の奇妙な行動を思い出す。背中を預けてへたり込んでいたあの姿。あれは聞き耳を立てていたのではなくて、本当は――

 走り出す勢いで扉を開ける。

 廊下を走り、校舎の外へ向う。自販機までの最短のルートを辿れば追いつけるはずだ。もしかしたら引き返してきた鈴童と鉢合わせるかもしれない。そう思いながら走り抜け、曲がり角を折れたところで。

 冷たいリノリウムの廊下に座り込む、鈴童静歌を見付けた。


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