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スリーピース  作者: 双色
3/『窓の向こうの空の果て』
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13/特別練習

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 理紗の言っていたリサーチというものがどういう過程を経てどういう結果を得たのかを俺は知らない。しかしそれは唐突、そして突然にやってくるのだった。そう。普段どおり練習している最中に、ちょうど通して演奏できるようになった記念すべき一曲目を合わせた後のことである。

 俺は演奏後の心地よい脱力に身を任せて余韻を感じていたのだが、そのときに理紗がぽつりと零した。

「今日はこの後で特別練習があるから」

 ペットボトルの水を煽る。なんかこの感じは嫌いじゃない。

「特別、練習? なんだよそれ」

 当然の疑問が口から出た。特別ってなんだよ。

 ちなみにいつからか俺達非合法二人組み(校則だから非合則とでも言うべきだろうか)は放課後に堂々と練習を行っている。創設祭のオーディションが近くなり、申請さえすれば今は旧館の空き教室が借りられるのだ。勿論、俺達が普通に申請しては通る可能性が低いので、そこはそれ、立場を濫用したとでも言っておこう。

 生徒会に入るという式の第一段階がこうして一つ、意味のある結果をもたらしていた。

 しかし特別練習とはなんだろう。一気にレベルアップできる秘策でもあると言うなら、正直もっと早くに出して欲しかったのだが。

「自分のこれまでの努力を無駄にするようなことは言わないの。折角あたしについてこれるようになったんだから、自分の頑張りを誇るべきでしょ。ていうか、そんな非論理的な方法はないわよ。霊光波動拳でも伝授しろっての?」

「れい、こう……?」

 そういえばこいつ、こないだ俺の家から大量に漫画を掻っ攫って行ったな。

 例の少年漫画が部屋の本棚からごっそりと消えていた――具体的には四巻から七巻辺りが抜け落ちていた――のを思い出した。しかし幸いだ。あれを読んだ理紗が武術会を開こうなどと言い出すのではなく、バンドを組もうと提案してくれたのは心からの救いである。

「『ふしぎなアメ』くらいにしておいてくれ」

「努力値が上がらないわよ、それだと」

 またマニアックな。

 冗談はこれぐらいにしておこうと思う。

 あまり無駄な話に時間を割くのも勿体無いしな。

「特別練習ってなんだ?」

「うん。まあ、今後の為の『宣言文』みたいなもの。証明とかで最初に変数の範囲を限っておいたりするあれよ。あれがないと証明も式も成り立たないから疎かには出来ないわよね」

 意味がわからんのだが、それはつまり。

「なんかの伏線みたいなものか?」

「そうとも言うわね。ま、用心に越したことはないって言っとく」

 備えあれば憂いなし、とでも言いたいのか。

 俺には理紗の考えなど微塵も理解できないのだけれど。

「ん。じゃ、もっかい初めから通そっか。準備して」

「はいはい」

 お喋りの間に体力も回復した。

 放課後は長い。これからが練習も本番だ。まだ半分も終わっていない。

 と、思っていたのだが。理紗の言う特別練習というのはこいつの頭の中でそれほどまでに重要なのか、練習は普段よりも早めに引き上げられた。あの後に二三度音合わせをし、他の曲を軽く練習した後で早々に片付けを促される。そうして下校時間よりも早く校舎を出た俺達は、その脚で次の目的地に向った。

 得意気に鼻歌を歌いながら、それが今までに聴いたことのあるメロディではないので理紗が考察中の新曲かもしれないとか思いつつ、その背を追いかける。果たして、辿り着いた場所は実に意外な場所で、そこは学校から歩いて十五分ほどの距離にあった。

 かきーんかきーん、と鉄の音が甲高く響き渡る。

「バッティングセンター?」

 コイン制度で楽しめる、しかしながら映像がついていたりと妙に本格的なバッティングセンターだった。

「そ、バッティングセンター」

 胸を張りコインを購入する。意気揚々と打席に立った理紗は自分が制服姿だということを忘れているみたいにばかすか打ちまくった。恐ろしいほどである。ホームラン性の当たりを軽く飛ばしまくってやがる。信じられない。そしてこいつの隣では打ちたくない。

 しかしそんな切ない願いも理紗の怒声に許されず、二人並んで仲良くバッティングを楽しみましたとさ。

 今回のオチ。

 百球近くもフルスイングして腕がだるんだるんになったり握力がすっかすかになった俺は、それでも何故か元気過ぎる理紗にその後キャッチボールを半ば強制的に付き合わされてしまい、晴れて翌日には盛大な筋肉痛を患った。……全くもって、意味がわからなかった。


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