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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
間章 運命が扉を叩く音
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四話 一番良い装備を頼む

 西暦2467年、秋。抜けるような秋晴れの日、特務執行課札幌派出所の会議室にヤクザ警察の面々が集まって額を突き合わせていた。全員いつになく深刻な表情である。


「それで、」


 重苦しい空気を押しのけるように、全員の心境を代弁して上井場が増田に問う。


「本当に、これを、我々だけで、やれと?」

「……そうなる」


 増田が渋い顔で答えると、一斉にため息が漏れた。


「流石にこれは……」

「無謀ですよね」

「つまり死ねと」

「これだけの事をひっそりと」

「支援も無く」

「あるのは情報だけ」

「いやちょっと待て。ここ読め、今回は令状あるぞ」


「「「「「「な、なんだって!?」」」」」」


 和仁は手元の書類に目を落とした。

 それは独立独歩の気風が強い特務執行課に本庁から来る書類としては珍しく、単なる情報提供ではなくはっきりとした指令だった。

 指令内容は三日後に来日する自由アメリカ北西区大統領ウィルソン氏をこっそり護衛をしろ、というものだ。


 ウィルソン大統領は国民の人気が高く有能な人格者であるが、政策面で過激派のホーク副大統領と対立している。

 ウィルソン大統領は内部政策重視の穏健派で、国の地力の向上に力を入れている。今回の来日も日本と技術交換のための条約を結ぶ事が目的だ。対してホーク副大統領は他国の紛争に積極的に介入するべきだと主張している。

 ホーク副大統領としては、他国ではあるが理不尽に虐げられ自由を束縛されている国民を国民の正当な要請によって救援するのが自由を愛するアメリカの務め、というのが表向きのスタンスなのだが、軍拡や増税、法律の過度ともとれる引き締めなど国民を圧迫する政策を主張しており、明確な証拠は無いが他国でわざと争いを起こして鎮圧に協力する事で貸しを作った、など色々と黒い噂も多い。


 特務執行課に届けられた書類は、端的に言うとホーク副大統領がウィルソン大統領を暗殺しようとしているからそれを防げ、という命令書だ。

 大統領を日本国内で殺し、日本の手で大統領が殺されたと偽装する。日本は前首相の時代に自由アメリカと対立していたため、動機もでっちあげが可能だ。大義名分を得て、副大統領から大統領になったホークが日本を攻める。占領するなり降伏させるなりして、日本を丸ごと手に入れる。筋書きとしてはそんなところだ。とんでもない悪党である。

 はっきりとした確証は無いものの信憑性が高い情報のようで、本庁も動くのだが、本庁は本庁で潜入している副大統領配下の密偵や暗殺者の炙り出しで手一杯で、護衛そのものまで手が回らない。そこで荒事に慣れた特務執行課にお鉢が回ってきたのだ。


 仮に護衛に失敗し大統領の暗殺を許してしまったとしても、最低限日本がやった事ではないと証明できれば戦争を回避できる可能性は高い。が、人気が高い大統領なだけに、殺された場合自由アメリカの世論は熱くなるだろう。それを上手くホークが誘導し、難癖つけて無理矢理押し切って開戦という流れも考えられる。最善は大統領を守りきり、かつ副大統領の指示で暗殺者が送り込まれたという証拠を挙げる。次善が大統領を守りきる。それ以下、つまり大統領を守りきれなければ「失敗」と言えるだろう。


 さらに言えば先日ホーク副大統領と南ロシアのナンデーニン・ジャナンデ大統領と接触があり、どうやら密約を結んだらしい、と推測されている。日本と自由アメリカ北西区が戦争になればロシアも敵に回るという事だ。血で血を洗う大戦争になる。なんとしてでも護衛を達成しなければならない。護衛を成功させれば日本は大統領に大きな貸しを作る事ができるので、メリットもある。


 なお、今回に限っては事が事なので特務執行課にも令状が出ている。令状が無くてモメたせいで犯人を取り逃がしたり暗殺を許してしまったりしたら洒落にならない。


 令状アリという事でちょっとやる気を出した面々は書類と睨めっこして作戦を練り始める。


「大統領のSPは五人か。周囲を固める必要はないな。連携も取れない」

「すると我々の方針としては大統領の行く先に先行して露払いと、狙撃ポイントの封鎖制圧、SPが行動不能にされた場合カバーできる位置で尾行する、とこんな所ですか」

「わざと隙を作って泳がせて捕縛という手もあるのでは」

「いや、危険が大きすぎる。そこまでする義理も無い」

「SPと大統領は全員拳銃と最新の防弾チョッキ装備か」

「格差を感じますねえ」

「本庁の装備も負けていないが」


 ヤクザに資金は提供しても警察装備までは提供できない、という昔の慣例がまだ残っており、特務執行課は装備や備品諸々の配備が遅く、かつ型落ちが多い。特務執行課の面々は好きでレトロな装備で任務を遂行しているわけではないのだ。


「SPだけでなく敵方も似たような装備が予想されていますね」

「むしろこれ敵方のが良くないか?」

「副大統領は過激派ですからね。そちらのツテがあるのでしょう」

「ふむ。防弾チョッキに手榴弾……このマシンガンというのは?」

「さあ、文脈からして銃の一種だと思いますが」


 全員の顔が一点に向いた。視線に気付いて書類から顔を上げた和仁が意図を汲んでここぞとばかりに解説をはじめる。


「マシンガンとは弾薬を自動的に装填しながら連続発射する銃の事です。機関銃とも呼ばれます。フルサイズの小銃弾を断続的に発射することで戦場を広範囲に制圧できるものを指し、射手と装填手の二人で操作するものや、射手一人で扱えるものがあります。弾薬の供給は多数を帯状にしたベルトリンク方式で行われるものが多いですが数十発ほどを銃に装着するマガジン方式もあります。長所は弾幕を張れる事、集弾効果によって貫徹力が高まる事。短所は弾薬の消費が激しい事、銃や弾薬が重く、機動性に乏しい事です。第三次大戦前ですら弾薬の消費の激しさが短所として挙げられるほどですから、今の時代では輪をかけて消費が重くなっているでしょう。そんなものを持ち出してくるあたりに本気度合いを感じますね。マシンガンは引き金を引くだけで装填、撃発、排莢のサイクルの繰り返しが連続して行われ、多くの機関銃ではボルトの往復運動によってこれが実現されています。二脚を用いて移動しながら射撃を行うマシンガンなどは照準器などを用いて標的を目視する直接照準で射撃し、銃架を用いる重機関銃などは直接照準の他に銃身の仰角を指定して遠距離にある一定区画を掃射する間接照準射撃が可能となります。一人の射手が多数の敵兵士を殺傷し得る火器ですが、運用は基本的に二人以上で行い、射手が発砲し弾薬手はベルトリンクの保持などを行う形態が多く、第三次大戦までは歩兵部隊にとって一般的な支援火器でした。連射し続けると銃身が過熱し、内部のライフリングが容易に磨耗してしまうため、銃身が素早く交換できるものが多いですね。200~500発程度の連射で交換するのが目安とされ」


「清場」


 途中で増田が遮った。


「はい?」

「五十字以内で簡潔にまとめろ」

「……はい。基本的に固定式の連射銃です。秘密裏に多数用意するのは難しいでしょう」


 会議室にしばし重い沈黙が降りた。多数は難しいという事は、複数なら可能という事である。

 厄介どころの話ではない。特務執行課札幌派出所で最も回避力に優れた和仁でも弾丸は避けられず、最も頑丈で生命力が高い馬坂でも当たり所が悪ければ一発で戦闘不能になる。この時代の銃は有効射程が短く距離を取れば当たり難いのが救いなのだが、連射されたら下手な鉄砲数撃ちゃあたる理論で成す術も無く嬲り殺される。


「そんな物が一丁あるだけでも状況によっては皆殺しになるぞ」


 馬坂が唸る。 


「で、そのマシンガンに加えてやっこさん達は全員近代装備ってわけだ」


 来田が呆れたようにパンと手の甲で書類を叩いた。


「なのに私達はほとんど江戸時代装備」


 蘭がやってられないと書類をテーブルに投げ出す。


「これはない。体の良い自害命令としか思えない」


 木安田は目を閉じて天井を仰いだ。

 他の面々も似たような反応をする。しかし増田は厳しい顔で断言した。


「どれほど困難であれ、命令が下ればやらねばならん。曲がりなりにも公務員だからな。嘆いても任務遂行は絶対だ。どうせなら建設的な案を出せ、そのための会議だ」


 本日何度目かの沈黙。和仁も和仁なりに打開策を考えるが、書類の情報を読めば読むほど困難に思えてくる。思考はどうしても遺書の内容にばかり傾く。

 しばらくして、上井場がふと思いついて言った。


「人員はいっぱいいっぱいだとしても、装備なら本庁に請求すればなんとかなるのでは?」


 全員それだ、という顔をした。

 今回は慣例が~、と言っている場合ではない。慣例を守って国を守れなかったら馬鹿としか言いようが無い。そして本庁は融通が利かないがそこまでの馬鹿ではない。


「分かった。一番いい装備を頼んでおく」


 増田は力強く頷いた。作戦当日まで三日しかないが、三日もあるとも取れる。手配から配給まで間に合うだろう。

 メンバーに一筋の光明が見え、やるだけやってみよう、という雰囲気が生まれた。


「別の地区の特務執行課に声かけるか?」

「手稲署の阿智谷がこぼしてたんですけど、どこもスケジュール厳しいみたいですよ。応援なんてとても頼めませんよ」

「いや、それぞれの任務に適した人材を交換して作業効率を上げる」

「なるほど。朝司」

「はい、連絡つけときます」

「清場さん、敵方の装備、特に銃器とスコープについて分かる事分かるだけ書き出して下さい。来田さんは大統領が通る場所を狙える場所のピックアップ。狙撃ポイント絞るのに使います」

「狙撃地点全部抑えたらどう出てくるか分かり難くなる。泳がせるわけじゃないが幾つかわざと残して監視し易いようにした方がいいな」

「でもこれ狙撃で来ると確定した訳じゃないですよね。爆弾とか毒とか直接襲撃とか、そのあたりの警戒は?」

「設置トラップは木安田が確認しろ。毒と直接はSPと本人が警戒するだろう」

「上井場さん議事録つけてる?」


 がやがやと活発に意見交換が続き、朝から始まった会議は夕方まで長引いた。









 そして西暦2467年十月七日。制服を着込んだ清場和仁は札幌国際空港の搭乗口の傍で馬坂と共に怪しい人物がいないか目を光らせていた。装備の手配は間に合い、制服の下に最新の防弾チョッキを着込んでいる。さらにスタングレネードにアーミーナイフ、強心剤など、普段の作戦と比べて装備が格段に充実していた。銃は訓練する余裕が無かったため持ってきていないが、戦力は大幅に向上している。

 肌がぞわぞわとする、特に危険な任務の前の独特な感覚がする。この感覚がある任務でも何事も無く終わる事はあるし、無い任務で大怪我を負う事もある。実際和仁の右頬の刀傷は極簡単な任務で不意打ちを受けたものだ。これから何が起きるかは誰にも分からない。

 遺書の出番が無い事を小雪に祈りつつ、和仁は腕時計を見て気を引き締めた。窓の外を見る。薄曇りで、晴れ渡ってもいなければ雨の予感もしない。過ごし易い天気だ。

 そんな空に小さな点が見え、徐々に大きくなってくる。目を凝らせばそれは着陸のために高度を下げる大統領専用旅客機であると分かった――――



 クロルのネーミングは執筆中にハマったものにすぐ影響される(´・ω・)

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