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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
間章 運命が扉を叩く音
94/125

一話 あいつは人の話を聞かないからなぁ

 西暦2467年、地球。様々な問題を抱えつつも栄華を極めた二十一世紀初頭はとうの昔に過ぎ去り、地球全域に蔓延りしつこく首を締め上げてくる核の呪いに苦しめられながらも人類はしぶとく生き残っていた。


 第三次世界大戦から四と半世紀が過ぎ、混乱や戦乱は収束したものの、主に放射能汚染が文明の再生を邪魔するため技術水準は低いままだった。働き盛りの年齢の途中で寿命が尽きてしまったり、死病に罹る割合が多かったりするため、労働力の確保が難しいのだ。科学や政治において革命を起こし得る天才と呼ばれる人間が生まれても高確率で早くに天に召され、あまり功績を世に残せない。


 資源の問題もある。本来ならば石油や石炭を消費しつつ太陽発電や水力発電で間を繋ぎ、採算が取れるレベルでの自然エネルギー・核融合発電に移行するのが理想だったのであろうが、一旦文明が崩壊してしまった。低下した技術・文明でずるずると石油・石炭を消費し尽くしてしまったのだ。

 文明の高度さは凡そエネルギー消費量に比例するため、水力や風力、太陽光といった限られた(しかも効率が低下した)発電源に頼らざるを得なくなった状況ではエネルギー消費はどうしても低くなり、文明の発達も頭打ちになる。

 2010年頃の時点で核融合発電の実現まで五十年と言われていたが、第三次世界大戦を境にほぼ振り出しに戻っており、研究を再開しても人材確保の難しさや失われた知識、一度技術継承が途絶え、更に熟練する前に寿命が尽きてしまう事が多くなった加工業などの所為で遅々として進展しない。

 核分裂の発電利用も論外である。世論が許さないし、政府も科学者も核分裂は禁忌として扱った。


 ただ二十五世紀に入ってからは放射能も暴れ疲れて弱まり始めたのか、世界的に人口の減少は下げ止まりの傾向にあった。幾つかの地域・国家では僅かながらも上昇に転じている。人類は長く苦しい冬を耐え抜いて希望の光を見いだし、再び手を取り合って前に進みだしていた。









 日本は四方を海に囲まれた海洋国家であり、他国との交流に船か飛行機が必要であるという点で国際的に不利だった。動力船や飛行機を動かすためには当然燃料が必要で、その燃料が二十五世紀では大変貴重なのだ。専ら椿油や石油を作る藻類オーランチオキトリウムから抽出した油が用いられたが、生産量が少なく、大々的な交易にはとてもではないが使えない。

 ならば日本が国際社会で孤立しているのか、と聞かれればそうでもない言える。


 日本は第三次世界戦争後の混乱収束が信じられないほど迅速であり、その後も大きな混乱が一度も起きなかったため、二十一世紀当初の娯楽・技術情報をかなり良く保存している。再現できるかどうかは別として。日本が保有する技術情報を求めて渡来する外国の技術者や使節は多い。


 また日本は民度が高く、犯罪率が低い。第三次世界大戦後、大多数の国では様々な不安や不満を原因として暴動やクーデターが頻発し、人心は荒みきった。現在では国としてまとまり落ち着いているが、それでもどこか殺伐とした気風は抜けない。一方日本は外国から見ると別世界かと思うほどのほほんとしている。

 日本政府が北政府と南政府に分かれるのに伴い自衛隊が解体され軍ができ、軍事面では二十一世紀よりも格段に緊張感が強まっているものの、民衆レベルで見れば牧歌的と表現しても良い。

 生物濃縮を避け放射能をできるだけ体に取り込まないようにする独特の菜食も日本独自の進化を遂げ、健康食として各国で人気を博している。そういった要因から、観光やバカンスで世界中から金持ちが結構な頻度で訪れる。


 ところで日本が石油代わりに用いる燃料である椿油はその名の通り椿から得るのだが、椿は青森以北では育たない。

 日本は放射能汚染が酷い本州を避けるようにして北海道に政府を置く北政府、九州に政府を置く南政府に分かれている。北政府は椿から燃料を得る事ができず、寒冷な気候のためオーランチオキトリウムの育ちも悪い。従って海外との交流はほぼ南政府任せとなっている。しかし南北政府を合わせた日本という国の中心はむしろ皇居がある北政府だ。

 第三次世界大戦勃発時に日本に落とされた核爆弾は東京と大阪の二箇所。当時の平成天皇は北へ北へと避難し、北海道にたどり着き、戻るに戻れずそのまま札幌に居を構えている。

 北海道は天皇に追従するように避難してきた人々の多くを受け入れるだけの広い土地があったため、西暦2467年現在の北海道総人口は四百万人と、日本人口の半分以上を占めている。インフラもかなり整っていて、特に札幌は道路が全てコンクリートで舗装されており、上下水道が完備され、30%の家庭に電気が通っている(電気料金が高いため電線を引かない家庭も多い)。


 札幌中心街から少し離れた裏通りにある清場家は、その30%に当たる電気が通っている家庭だ。木造二階家四十坪の取り立てて特徴もない平均的な家で、裏庭に果樹と菜園がある。住人は戸主である清場和仁(26)と、その妻の清場小雪(23)の二人。一時期娘がいた事もあるのだが、立って歩くようになった頃に病気になり亡くしている。以降妊娠しても死産、流産と続き子宝に恵まれていない。この時代では悲しい事に珍しくもなかった。


 和仁は警察に勤めていて、以前犯人を取り押さえる際に抵抗に遭い、右頬に刀傷を負っている。元が柔和な顔立ちなので傷跡との差し引きで弱そうにも強そうにも見えない絶妙な容姿になっている。邪魔にならないからという理由で黒髪を短く刈り込んでいて、思慮深い性格だ。同僚からの信頼も厚い。

 小雪は図書館の司書で、大和撫子というよりは姫武将、というような凛々しい容姿だ。腰まで届く長髪を日によってきまぐれにセットしている。非常にマイペースな性格で、いつも和仁を翻弄しつつ手綱を取る。

 二人とも二十歳を過ぎ、人生は峠を越えて下り坂に入っているが、持病も無く家計も安定し大過なく日々を過ごしていた。








 初夏のある日、和仁は窓の桟に留まって囀る雀の鳴き声で目を覚ました。隣で眠る小雪を起こさないようそっと布団を這い出し、音を立てずに障子を開けて廊下に出る。ぎしぎしと軋むひんやりとした板張りの廊下を渡り、台所の流し台の蛇口を捻って顔を洗った。冷たい水と一緒に眠気を洗い流し、タオルで拭って振り返ると真後ろで眠そうなに目をしょぼしょぼさせた小雪が枕を片手で抱えて立っていた。和仁の心臓の拍動が一瞬三倍速になる。長い髪が柳の枝のように前にばらばらと垂れ下がり亡霊のようだった。


「おはよ」

「……おはよう。あの、ほんと……ほんと意味もなくこういう事やるのやめくれませんか。いつか心臓破裂する」

「前向きに善処します」


 イラッとした和仁の手からタオルをもぎ取り、小雪も顔を洗う。和仁はため息を吐いて薪の上に畳んで置いてあったランニングシャツとハーフパンツに手早く着替えた。日課のランニングに行くのだ。職業柄体力づくりは欠かせない。


「いってらっしゃい」

「いってきます」


 背中に眠たげな声を受けながら勝手口から外に出る。伸脚、屈伸と軽く体をほぐしてから走り出した。

 凸凹した建物群の向こうから太陽が頭を出し、二車線道路の歩道を走る和仁を照らす。街路樹が作る影に入ればひんやりと冷たく、街路樹の切れ目に出れば日に当たってじわりと温かい。しかし走り続ける内に体が温まり、細かい温度の変化も感じなくなっていく。


 早朝という事を考えても街は日本有数の大都市だとは思えないほど静かだ。ただしそれは二十一世紀初頭の基準での物言いであって、この時代ではこれが普通である。この静寂の一番の要因は全くと言っていいほど車が走っていない事だ。


 まず二十一世紀よりも段違いに人口が少なく、頻繁に長距離移動をする必要がある人間も少ないため、車の需要も少ない。すると大量生産が行われず単価が高くなり、ますます需要が減る。年々ジワジワと値上がりする鉄を筆頭とした金属資源もそれに拍車をかける。燃料も当然高価で、車というのは半ば金持ちの道楽品だった。かつて日本にはりめぐらされていた高速道路は例外なく緑に埋もれ、全国を繋ぐ主要道路が辛うじて整備されている程度である。どうしても遠くへ移動する必要がある場合は都市部でも一時間一本程度の電車を使うか、木炭バス(※)を使う。

 従って電車もバスもまだ動いていない早朝は静かなものだ。


 早朝のランニングは完全にルーチンワークと化していて、走っていて特に何があるわけでもない。淡々と走り、豊平川の土手の前で折り返した。復路では早起きの住民が軒先の鉢植えに水遣りをしたり、ベランダに身を乗り出して朝日を浴びながら歯磨きをしていたりしていて、会釈をしたり挨拶を交わしたりする。

 二十数分後、軽く息を弾ませ額に汗を滲ませた和仁は自宅の手前でスピードを落とし、少し歩いて裏口から帰宅した。


「ただいま」

「はいおかえりー」


 台所に立って小皿に少し掬った味噌汁を味見していたエプロン姿の小雪が片手でタオルを放って寄越した。本日の髪型はポニーテールだ(※2)。ボリュームのあるたっぷりとした髪が背中でまとまってゆらゆらしている。和仁は一瞬無性に思いっきり引っ張ってやりたくなったがぐっと我慢した。子供っぽい無邪気な悪戯は温かく見逃すのが大人であって、同じレベルでやり返すのは社会人のやる事ではないと自分に言い聞かせる。


 タオルでガシガシと頭と顔を拭いながら居間に移動し、汗っぽい服を脱いでハンガーにかけスウェットの上下に着替える。それから年中出しっぱなしの堀炬燵に入って置いてあった朝刊を広げた。一面を飾っているのは今年のトマトの豊作を報じるニュースだ。トマトを山盛りに盛った籠を抱えた笑顔の農夫の写真が大きく載っている。和仁は今月の家計は楽になりそうだと機嫌を良くした。菜食中心国日本ではこうした食物、特に作物関連ニュースが大きく取り扱われる。


 この時代、食べ物を食べるという事は放射性物質を取り込むという事だ。ただし食材によって放射性物質の摂取量は変わってくる。

 例えば、ほうれんそう、ブロッコリー、小松菜、パセリなどは含まれる放射性物質が多い。これらは葉が直接大気や雨に触れることで、放射性物質が付着するためだ。対してキャベツや、大根、ゴボウなどの根菜類、トマトなどは比較的放射性物質の量が少ない。放射性物質は根から吸収される事が少ないからである。


 当然ながら好き好んで放射性物質を多く取り込む者はおらず、必然的に体に優しい大根やゴボウ、トマトの消費量と生産量は増え、反対にほうれんそうやブロッコリーは減っていく。

 根菜やトマトは日本の食卓の中心を飾る文字通りの主菜であり、それらの価格変動は家計にダイレクトに影響する。ニュースの一面が野菜一色になる事が多い由縁だ。


 ページを捲り主なニュースをざっと辿った和仁の前に味噌汁とご飯が盛られた茶碗が置かれた。主菜は一口サイズに切った大根とゴボウをトマトソースで煮込んだものだ。エプロンを取った小雪が対面に座り、一緒に手を合わせていただきますと唱える。


「トマト安いって?」

「そーそー、もうスーパーのトマト大行進凄いね、ワゴン山盛り。例年七円安ぐらいかなー。ウチもしばらくトマト漬けでいくかんね。トマトのトマトソース煮込みトマト添えとかトマトとトマトのトマトサラダとか」

「お、おお……そんな家計切迫してたか?」

「嘘嘘。トマト多めにはするけど他のも出すよ」

「良かった血液トマトソースになる所だった」

「それでもいいんじゃない? 輸血楽になるし」

「ああまあ吸血鬼も嫌がりそうだしなあ」

「酸欠とかなんとかそんな理由で死ぬところだけが欠点だね」

「ヘモグロビンさんは偉大なお方。リコピンとは格が違う」


 料理をバランスよく口に運び、咀嚼しながらのんびりと四方山話をする。


「リコピン?」


「リコピン、あるいはリコペンとも呼ばれる。綴りはLycopene。鮮やかな赤色のカロテノイド顔料の一つで、トマトやニンジン、スイカ、グミ、パパイヤなど赤色の果物・野菜に含まれる有機化合物。赤ければ含まれてるとは限らずイチゴやサクランボには含まれない。植物と藻類や他の光合成有機体では、リコピンは多くのカロテノイドの生合成における重要な中間体の役割を果たす。構造的には、8個のイソプレン単位が集まったテトラテルペンであり、炭素と水素からのみ構成されるため水には溶けない。リコピンの11個の二重結合が深赤色および抗酸化性を与えている。その強い発色と無毒性のためにリコピンは食品の着色料として多用されている。水産加工品とかゼリーとか。カロチノイド色素とか野菜色素とかトマト色素って書いてあったら大体リコピンの事だ。大戦前期の研究グループによればリコピンは体内で強い毒性を示す活性酸素、ペルオキシナイトライトと素早く反応し過剰な活性酸素が害を与えないよう除去する仕組みを持つらしい。リコピンは反応後も分解されず分子構造が少し違う異性体になるため毒性を取り除く効果が持続する。活性酸素のペルオキシナイトライトは炎症部に多く見られ細胞のガン化に関連していると考えられているんだが、当時実験でリコピンとペルオキシナイトライトを溶媒に入れてかき混ぜた後、高速液体クロマトグラフィーで生成物を分析した結果、リコピンがペルオキシナイトライトと反応し、別の安定な物質に変化していたのが分かったそうだ。また膀胱ガンにも有効とされる。膀胱の内側の上皮細胞は、上部消化器官の組織・肺組織・皮膚・小腸の組織と同じ環境毒物にさらされている。呼吸・食事で摂取する毒物のほとんどは尿中に直接排泄されるか、あるいは代謝を受けた二次産物となって間接的に排泄される。したがって毒物が上皮組織に働きかけるに十分な時間があるわけだ。統計からリコピンがこの膀胱ガンの予防に効くことが分かっている。分裂前のアメリカハーバード大の研究者がトマトたっぷりのピザやスパゲッティに前立腺ガンの予防効果があるという報告も上げている。40~75歳の男性47000人を6年間追跡。前立腺ガンになった812人と、ガンが見られなかった人について、46種類の野菜・果物の好みを調べたそうだ。流石大戦前は調査規模が違うな。前立腺ガンの予防に効果が有ったのはトマトを使った料理とイチゴ。特に、トマト料理を週に10回以上摂ると45%、4~7回では20%、ガンになる危険性が減っていたんだとさ。生でもソース・ジュースでも良く、イタリア・ギリシャなどトマト料理を好む国で前立腺ガンが少ないという報告と合っている……といっても古いデータだから今はどうか知らん。とにかくこれもリコピンが原因で、赤色色素が酸化物が出来るのを防いでいるらしい。 追撃の肝臓ガン抑制効果でリコピンの株は更に上昇する。肝臓ガンにかかったマウスに50ppmの濃度に薄めたリコピン水溶液を40週間飲ませたところ、飲ませない場合に88%あったガンの発生率を43%まで下げることが出来たそうだ。これはどっかの会社と大学の共同研究だったかな。大腸ガンの発生を抑える効果も動物実験で立証されてる。具体的にはネズミの腸に発ガン剤を入れた後、4種類の植物色素を別々に毎日胃に送り込み、6週間後に腸の状態を調べた。トマトの色素であるリコピンと、緑の葉に多くトマトにも微量含まれるルティンを与えた2つの群で、前ガン病変の発生が何も与えなかった群と比べて減少した。35週間後の比較データによると、多量のリコピンと微量のルティンを含むトマトジュースを与えたグループが21%、リコピンだけを水に混ぜたグループが33%、ルティンだけを水に混ぜたグループが38%水だけを与えたグループが54%。もっとも大戦前に一般的だった発ガン性物質に関連した効能ばっかりだから放射性物質に対する効果はそれほど望めない。過信は禁物だ」


 嫁のツテで和仁は図書館から優先的に本を借りては読み漁り、使い道のない無駄知識を蓄えている。絶対記憶能力があるので一度読んだら忘れないのが利点だ。もっとも千ある知識の内一つが役に立つかどうかというところだが、和仁はそれでも満足しているし、小雪も機会があればペラペラ知識を披露する和仁を面白そうに眺めている。


「なるほどね。動物実験にマウス使うのは昔からなんだ」

「……要点そこじゃないんだけどな。まあいいか」


 微妙に人の話を聞かないのはいつもの事。

 ラジオもテレビもない、会話だけの食事をぐだぐだと食べ終わる。食後のみかんを白い筋まで丁寧にとってから丸ごと口に放り込んだ和仁は、自室に戻って鞄を取ってきた。台所に置いてあった弁当を入れ、留め金を閉じる。うつ伏せに寝そべって新聞を読みながら二個目のみかんを剥いていた小雪が顔を上げて不思議そうにする。


「あれ、もう行くの?」

「あー、今日はな」

「そっか。帰りは?」

「いつも通り」

「なら晩御飯と布団一組用意して待ってるから」


 小雪は髪の毛の先を指で弄りながら言った。なんでもないような口調だが目を合わせようとしない。和仁はニヤッと笑った。


「一組?」

「……一組。何? 嫌? 仕事で疲れてるなら―――」

「いや大丈夫だ、そっちの体力ぐらいは残る」

「そう? じゃーいってらっしゃ~い」

「いってきます」


 和仁は鞄片手に家を出た。

 徒歩二分ほどの場所にあるバス停に着くと、すぐに道の向こうから木炭バスがトロトロと走ってきてとまった。大きなキャンピングカーほどしかない小型バスだ。和仁は手動ドアを開け、乗車券をとって乗り込む。バスはゆっくりと発車した。

 乗客は和仁の他に八人。そもそも席が十五しかない。木炭バスは馬力が低く、坂道になると乗客が降りて押さなければならないほどだ。幸い札幌市内に坂はないのでその必要はないのだが。あまりたくさん乗客を乗せるとそれだけで動かなくなる。


 和仁は職場に着くまでの間に鞄から『世界で一番美しい人体図鑑』を出して読んだ。三百年以上昔の図書でかなり退色していたが、色鮮やかな色彩の名残が見て取れる。ちなみに前日は『プロ野球名鑑2011』を、その前日は『芥川龍之介全集』を読んでいた。節操が無い。

 速読を習得しているため頁を捲るペースは早い。職場に着くまでの三十分で三分の二ほど読み進めた。


「次は資料館前~、資料館前~」

「降ります」


 運転手がよく通る声で告知し、和仁が答える。車内放送用マイクや停車ボタンなどという便利な代物は歴史の彼方に消え去っている。声を出せば済む所をオートメーション化するほど資源も費用も余っていないのだ。

 本に栞を挟んで鞄にしまい、バスが止まるのを待ってから金を払って降りる。


 街路樹の影の下を五十メートルほど歩いて左手。平らな屋根の四角い建物がある。入り口には「警察庁重犯罪対策局特務執行課札幌派出所」と書かれた看板が傾いて立っていた。風で煽られたらしい。和仁は看板を直し、職場に入っていった。




 放射能関係の記述はネットから引っ張ってきた信憑性に欠ける情報なのであまり真に受けないで下さい。和仁の長台詞は大体wikipediaからの引用です


http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%A8%E7%82%AD%E3%83%90%E3%82%B9


※2

作者はポニテ萌えである

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