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ノーライフ・ライフ  作者: 黒留ハガネ
三章 魔力の深奥
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間章 零話 地球の話をしよう

 西暦2013年、世界は核の炎に包まれた。

 旧日本政府跡に残された数少ない資料によれば、引き金となった核ミサイルは某半島から発射(※ただし空中分解、暴発した)されたとあるが、別の国の資料にはアメリカが発端だと主張する内容が書かれており、また別の国の資料にはロシアが全ての元凶だと記されている。核戦争による混乱で情報が錯綜していた事もあり、各国の資料には一貫性が無い。

 今となっては真相は闇の中で、唯一確かなのは無数の核爆弾と核ミサイルによって文明がスタボロに破壊されたという事だ。

 もっとも人の住む地域全てが核爆弾で直接破壊された訳ではない。世界中の主要都市のほとんどが瓦礫の山となった事は間違いなかったが、七日間に渡る核兵器の応酬が終わった時点で、まだ人類は八割以上生き残っていた。

 真に恐ろしいのはその後だった。

 交通機関の麻痺によって貿易は停止し、食糧自給率が低い国はあっという間に餓えていった。医薬品に生活必需品、化石燃料、全ての輸出入がストップする。買占めの嵐が巻き起こり、至る所で暴動が起き、それを止めるべき政府も軍も機能不全に陥っている。どうしようもなかった。

 更に追い討ちをかけるように新型のインフルエンザが爆発的に広まった。ばたばたと人が倒れていくのに、医療機関はまともに機能していない。病の拡散を防ぐための各種規制、予防の呼びかけもできる訳がない。組織というものが崩壊しているのだ。

 放射能の影響も人類を揺さぶった。

 直接的影響―――発癌率の上昇、出生率の低下も勿論脅威だったが、政府が倒れた事によって情報統制が無くなり、根も葉もない噂が蔓延した。人参は放射能を体から除去してくれるとか、夜型の生活の方が放射能を吸収しにくいとか、そういったものはまだ可愛い方で、生きた赤子の×××を食べると癌の予防になるとか、女性の×××を×××すると放射能に耐性がつくとか、文字にするのも恐ろしい狂気じみた噂が広がり、またそれを信じ込んで実行に移す者が続出する。

 核兵器による直接的破壊、流通の麻痺・情報の混乱による二次被害、新型インフルエンザ、主にこの三つの理由によって世界人口はたった三年で四億人にまで減少した。余談だが多くの死体は野ざらしで、そこから疫病が発生し、人口減少に追撃をかける事となる。

 さて、ここで日本にスポットを当ててみよう。

 日本に落とされた核爆弾は東京と大阪の二箇所だった。自衛隊の基地の内四箇所に核ミサイルが撃ち込まれたが、内三箇所は迎撃に成功。沖縄の米軍基地は集中攻撃を受けて壊滅。核戦争が終わった時点では日本はまだ他の国と比較して被害が少ない方だった。

 ところがどっこい、日本は恐ろしくツいていなかった。

 東北大震災からまだ立ち直っていないというのに大阪と東京が更地になり、インフルエンザが大流行し、核戦争から二年経たない内に東海大地震と東南海大地震が連続でおき、富士山の噴火と再稼動中だった原子力発電所メルトダウンのオマケまで付いて来た。

 死のフルコンボを見事に決められ、日本終了のお知らせである。沈没しなかっただけマシと見るべきだろうか。

 完膚無きまでに叩きのめされた日本の人口は2015年の時点で一千万人を切っていた。死因の多くは病死と餓死。食料自給率の低さが響いた。

 2020年頃まで日本は無政府状態の混乱にはまり込んでいた。人々は食料と家を求めて民族大移動をしながら軍隊アリのように通り道のあらゆるものを喰い尽くしていく。欧米諸国の暴動と比べれば規模も犠牲者も微笑ましく思えるほど少なかったが、それでも日本の総人口は最終的に七百万人にまで減っていた。












 日本の本領発揮はそこからだった。

 まず誰が何をした訳でもないのに自然と暴動が消えて行った。少ない食料を分け合い、正しい情報を交換し合い、瓦礫の山から使える物を探し出し、協力しあって家を建てた。

 驚異的な現象である。他の国がこの状態になるまで早くても優に半世紀はかかったというのに、日本はいち早く混乱から立ち直った。日本は逆境に強い国家なのである。物資がある内はてんでバラバラ好き勝手にヘロヘロしているが、物資が尽きると途端に一致団結し、足並みを揃え、恐ろしい速度で復活する。

 日本人達は少ない食料供給と人口が釣り合った事で落ち着きを取り戻していた。

 本州が核と地震で粉砕されていたので、北海道と九州以南に人が集まり、そこにそれぞれ仮設政府が作られた。これを南北政府と呼ぶ。通信網と交通網は破壊されているので、北と南はほとんど別の政府となっていた。仮設政府の設置は全く揉める事なくスムーズに決まった。「私は政治家の経験があるので首相やります」「じゃあお願いします」「今は選挙やってる場合じゃないので選挙は十年後からにしましょう」「それがいいそれがいい」とまあこの程度である。後の歴史家は当時の議事録を見て仰天した。人員の召集から政府の確立までたったの五日で終わっていたのである。しかもその体制のまま一世紀以上安定した統治をしたという、嘘のような本当の話だった。

 復興にあたり必要になるのは資源と食料。日本は資源を輸入に頼っていたが、その輸入がストップしていたので、国内にある分で何とかした。壊滅した交通網のせいで無用の長物になった車を解体し、鉄を入手。テレビも使い道が無いので解体。その他の資源も瓦礫の山を漁れば割となんとかなった。

 貴重な鉄資源は専ら鍋や包丁、鋤、鍬に加工され、治安維持部隊の装備は刀となった。刀というよりは鈍器に近かったがそこはご愛嬌である。

 当然ながら銃の方が刀よりも強いのだが、それは昔の話で、ぼろぼろになった工業技術では精度の高い弾丸や拳銃を生産するほどの精密加工ができず、暴発やジャムの可能性が高い上命中精度も低く誤射の危険性が高すぎる。それに撃つ度に弾丸と薬莢、つまり鉄資源を消費していくのは頂けない。その点刀剣類は斬っても鉄を消費しない。

 産業形態は三次産業がほとんど消滅し、一次産業に従事する人口の割合が飛躍的に増えた。放射能に汚染されているとは言え、土地は余りに余っている。農地には事欠かなかった。鉄鋼業……というか鋳掛け屋や鍛冶屋が増えたのも一つの特徴だ。混乱の中で生き残った医者を初めとする有能な技術者達は優遇され、プログラマーなどの現状では役に立たないが将来的に必要となるであろう知識を持つ者達は知識を文字にして残す事を推奨された。この時期に残された資料は後に世界中から高い評価を受ける事になる。

 核戦争後の混乱期を乗り越え、文明の保存と継承を視野に入れた政策を取れるほど落ち着いてきた日本だが、状況は核の呪いとの戦いに移行していく。呪いの名は放射能汚染である。

 世界中で使われた核兵器による放射能汚染は海流や季節風などによって地球全体にくまなく広まった。最早地球上で汚染されていない地域など奇跡的な地理的要因が重なり汚染を免れた猫の額ほどの土地しかない。

 医療水準の低下や癌患者の増加などにより、2050年の時点で日本の平均寿命は十二歳にまで落ち込んだ。それでも同年代の他の国と比較すれば三年は寿命が長い。これは犯罪率が低かったからで、菜食主義を推奨したからだった。

 生物濃縮という言葉がある。例えば地面から植物が放射性物質を吸収し、それを虫が食べると、虫が持つ放射性物質は植物のそれよりも濃度が上がる。虫を動物が食べれば更に濃度は上がり、その動物を人間が食べれば相当高濃度の放射性物質を摂取する事になる。ならば濃度が低い植物の時点で食べてしまった方が良い。日本人の腸は欧米人の腸と比べて長く、どちらかと言えば草食向きで、文化的にも菜食主義を受け入れる―――少なくとも激しい拒絶はしない―――事ができたので、日本人は食物を通して受ける放射能の影響を少なく出来た。もっとも肉を食べたくても早々食べられなかったというのもあるが。この頃の日本人の食卓に上るのは「野菜>>>>>>>>>魚>>肉」である。

 平均年齢の低下と共に結婚年齢と出産年齢も下がった。なにせ平均寿命が十二歳である。これは赤子の死亡率が高く平均寿命を著しく下げているからで、幼児期を越えれば大抵三十二、三歳までは生きられるのだが、それでものんびり構えていると結婚した次の年にお迎えが来てしまう。二十歳で結婚して子供を生んでも三十二歳で死亡すれば子供は十二歳。義務教育すら終わっていない。

 生殖機能に障害が出る者が続出し、まず妊娠率が大幅に下がる。更に流産、死産、早産の増加。無事生まれても未熟児、奇形児が多く、トドメに医療環境が酷いため赤ん坊の死亡率が高い。種の存亡の危機である。

 それに対して政府が打ち出した政策は身も蓋も無く言えば産めよ増やせよだった。言い方は悪いが下手な鉄砲数撃ちゃあたる理論で、たくさん子供を産めばそれだけ成人する人間の数も増える。三人子供を産んで一人しか成人しないなら、六人産めば二人は成人する。放射能除去や医療の充実が難しい以上、妥当な政策であると言えるだろう。成人年齢と結婚可能年齢の引き下げ、子育て支援制度の充実などが図られた。

 こういった成人年齢の低下や文明水準の低下、刀の流通などから「日本は江戸時代に戻った」と言われるようになり、そこから安直に取った第二江戸時代と呼ばれる時代が数百年に渡り続く事になる。



 銃が使われなくなった、というのはちょっと無理やりかも知れません。訓練に使った弾丸とか薬莢は回収できますし(日本軍は訓練で土嚢に向かって撃ち、回収していた……らしい)。

 まーロマンだから仕方ない! いいよね刀。

 クッ、鎮まれ……! 私の厨二病が暴れだしやがった……!

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